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034 歴史の転換点

「もしかして結界を破られるおつもりですか?」

「それ以外に方法はないだろう?」


 伊月(いつき)の質問を軽くあしらう。

 琥珀色の結界はすべてを拒むように光り輝いている。破壊以外の道はない。

 私がマギア・ムーンを取り出したその時、結界の光が強まりマギア・ムーンが勝手に動き出してしまった。


「なにっ!?」

「おや」


 私のマギア・ムーンは琥珀色の結界に突き刺さり、まるで共鳴するかのように浸透していった。


『魔法少女よ、貴女に問います』

「む? 誰だ?」

「大臣? 何かおっしゃいましたか?」


 酒井には聞こえていない? であればこれは魔法少女の力を持つ者のみに聞こえる声というわけか。


『私のお姉さまの墓地へ何用ですか?』

「お姉さまの墓地だと? お前は何者だ!」

『私は壱与(いよ)。卑弥呼お姉さまの妹です』


 壱与(いよ)……! 卑弥呼と繋がりがあったとされる壱与か! まさか魔法少女としても繋がりがあったとはな。


「済まなかった壱与様。なにも墓荒らしに来たわけではない。この世界の真実と魔法少女の更なる可能性について知りたいだけだ。そのヒントが眠っているのではないか?」

『……なるほど、お姉さまの手記をお読みにこられたのですね。いいでしょう。貴女からは善の匂いがします。しかし他の者はこの結界の先に入れることを許しません。その者たちからは大なり小なり悪の匂いを感じます』

「わかった、誓って約束しよう」


 私がそう答えると、壱与は結界をすぐに解除してくれた。マギア・ムーンは宙に浮いて、私の手元に戻ってくる。


「私1人のみ呼ばれた。お前たちはこの先から入ってくるな」

「オカルトですね。一体何を話していたのやら」


 伊月の半笑いを無視して、恐る恐る結界があった場所を通過した。

 そこを通り抜けると立派な前方後円墳がそこにはあった。私にはわかる。1800年近く経った今でも、ここからは魔力が僅かながらに漏れている。それが結界を維持していたのだ。

 私は手を合わせ、卑弥呼に祈りを捧げた。そんなことをする性格ではないのだが、今はそうせずにはいられなかった。


「踏み込むとしよう。次なる世界のために」


 卑弥呼の墓には一つの通路があった。足跡も何もない。壱与の結界がずっと守り通してきたのだろう。

 スマートフォンのライトを使い、暗い中へと入っていく。奥には棺桶があり、その隣に出っ張りが作られていた。その上には紙が置かれている。これがこの世の秘密か。



 我は敵の正体を見破りし者

 奴等は遠き空より降りくる者

 母星にはさらなる脅威あり

 この国の敵を七体捉へ従へき

 この者どもに魔力込め、白天七柱とす

 七柱は敵捉へ天下へ放つ

 こは鬼女の力を護るため

 七柱はあづかり者なり

 任務は鬼女こはく保ち、さらなる力をつけさすること

 そは母星の脅威に忍ぶために行はる

 そのためのよしは我が死後、彼らに一任す

 鬼女の強きを望む




 この文字の羅列を見て、まず初めに感じたのは違和感だった。

 そう、あまりに理解しやすいのだ。不自然なほどに。

 そもそも卑弥呼の時代、日本に文字があったかどうかも怪しいというのに、さらに時代を先取りした古文朝で書かれている。


「卑弥呼に時代など関係なし、か」


 改めて飛んでいる存在だなと畏怖する。おそらく自分の墓にいつ辿り着かれるかの計算もしていて、この文字を選んだのだろう。


 そして……次にショッキングだったのは内容だった。

 要約すればエネミーは宇宙からやってきた侵略者で、母星にはまだまだ脅威が存在している。白天七柱(はくてんしちちゅう)は卑弥呼が捉えたエネミーに卑弥呼の魔力を込めて意図的に作ったということになる。


「人型エネミーを卑弥呼が作った……その理由が魔法少女を強くさせるためだと?」


 文中の鬼女(きじょ)とはおそらく魔法少女のことだろう。卑弥呼の力は鬼道と呼ばれていた。そう自称するのも不思議ではない。

 だがどう考えても、人型エネミーが魔法少女のために存在しているという文については首を縦に振ることができなかった。


「頭が痛くなってくるな」


 エネミーは宇宙からの侵略者で、人型エネミーは卑弥呼が魔法少女を育てるために作った者で、卑弥呼が没した今は奴らに方法を任せている、と。

 私は卑弥呼の手記を置き、立ち去ろうとした。しかし何か。何かが私を呼んでいる気がして、その場に立ち止まる。

 私を呼んでいるのはおそらく……卑弥呼の遺体だ。

 私は棺桶を開けた。そして中に入っていたものを見て驚愕する。


「ふっ……敵わないな、本当に」


 私は一礼して棺の蓋を閉めた。



「大臣!」


 古墳から出てきた私を酒井は大声で呼んだ。


「なんだ、騒がしい」

「そ、外に……人型エネミーがいます」

「なんだと!?」


 酒井の言葉に驚きつつ、臆することなく外へと出た。すると人型エネミーが6体、空に浮遊していた。


「こんにちは工藤大臣。どうやら我らが主人の手記を読まれたようですね」


 話しかけてきたのは前回名古屋にいた目だけ野郎だ。たしか風蓋天とでも言っていたか。


「あぁ読んださ。お前たちは敵ではないんだろう?」

「そうですね。私たちは魔法少女の味方です。ただ……」


 風蓋天は手に魔力をため、風の玉を生み出した。


「貴女は私たちの敵ですがね!」


 風蓋天が叫んだ次の瞬間、突風とともに卑弥呼の墓を囲むビルを吹き飛ばす威力の魔力波が襲いかかってきた。


「ふん。変身!」


 1分のみだが、こいつらを退却させることくらいなら不可能ではない。そう判断して変身した、次の瞬間だった。


「だ、大臣……!!」

「な……に……?」


 私の腹に刀が突き刺さっていた。

 背面から刺された!? 私が後ろを取られるなど……と思って振り返ると、刀を持つのは伊月(いつき)だった。


「これから魔法少女を育てるのは私たちにお任せください。このゾディアックが白天七柱と手を組み、魔法少女を世界最強の組織に育て上げてあげますよ。大臣」

「くっ……」


 酒井の「大臣!」という呼びかけに答えることができない。

 私の意識が飛ぶ。それを感じた瞬間にスマートフォンに手をかけた。

 私はここで終わる。しかし希望は終わらない。軍事化に飲まれない魔法少女も強くなれるのだと、彼女なら証明してくれるはずだ。


 最後の力はあっけなく尽き、私は目を閉じた。メッセージが送れたかどうか、確認するほどの余裕すらなかった。

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