033 卑弥呼の墓
同日。
東京のとある一室。
愛知から東京に帰ってきた私はまず寝ることにした。
魔法少女……というと聞こえはいい。だが何せ私はもう54。魔法中年と言わざるを得ないだろう。
まぁともかく、あの姿になるととんでもなく体力を消耗する。今日も10時間は寝ることになりそうだ。
翌日。
私は体力がフルチャージされた感覚を確認し、霞が関の魔法省へと足を運ばせた。
「おはようございます、工藤大臣」
「うむ。酒井はどこだ?」
酒井は私が信頼を置く事務次官だ。今日動くこの仕事に奴は欠かせない。
「私ならここですよ」
「なんだ、いたのか」
スーツをばっちりと決めた酒井は半分ドヤ顔で立っていた。私の行動を読んでいるかのようだな。
「今日はどちらへ?」
「決まっている……宮内庁だ」
私はマギア・ムーンがカバンに入っていることをしっかりと確認し、宮内庁へ足を運ばせた。
宮内庁へやってくると、向けられるのは好奇の視線だ。こちらへやってくるのは初めてではない。何度もとある依頼のために足を運ばせている。
「長官に会わせろ」
「か、かしこまりました」
本気の眼力で見つめれば断れる一般人などいないことを私は知っていた。それを悪用する私も、ずいぶん政界の悪に憑かれたものだと辟易する。
しばらくして白いスーツを身に纏った、派手な若造が出てきた。宮内庁長官、伊月秀斗だ。
「久しいな伊月長官」
「そうですね工藤大臣。して、何用ですかな?」
若い顔の奥に透けて見えるのは薄ら笑いを浮かべる表情。こいつにだけは、私の眼力も通用しない。
「用は毎回同じだ。卑弥呼の墓を教えてくれ。そして私を案内しろ」
「ふぅ、またそれですか」
私は何度も卑弥呼の墓の開示を宮内庁に迫っていた。なぜなら卑弥呼は魔法少女であったから。そして魏志倭人伝によると、卑弥呼はエネミーに関する知識を豊富に持っていたという。その知識を封印したままにしておくには惜しい。
「何度も言っているでしょう? 卑弥呼の墓はどの古墳かわかっていないんですよ」
「そのわりにまったく調査を進める気もないではないか。その行動を見て、はいそうですかと引き下がるほど優しい私ではないのは知っているだろう?」
本当に卑弥呼の墓がどれかわかっていないのであれば血眼になって探すはずだ。それが日本国民のためになるのは明白だからな。
「……はぁ、仕方ありませんね」
ため息をついて、応える意思を見せた伊月。そんな上司に対して部下たちは驚愕の声をあげる。
「長官!」
「何度言っても無駄でしょう。なら実物を見てもらって諦めてもらったほうがいい」
「ほぅ。諦めるほどのものなのか」
「そうですね。すぐに諦めがつくと思いますよ」
そう言って伊月は指を鳴らし、側近たちを集めた。そしてリムジンを手配し、移動するようだ。
「少し長い旅になりますがよろしいですね?」
「構わん。どこへでも連れて行け」
「はい。では行きましょうか。古都、奈良へ」
黒いリムジンは西へ向かって走り出した。
数時間、私たちは無言の時間を過ごす。
基本的に宮内庁と魔法省は仲がよろしくない。宮内庁はどちらかと言えば魔法少女の軍事利用に賛成側に立っているからな。
本当に誇張することなく無言のまま、古都奈良へと辿り着いた。しかし、リムジンが止まったのはやけに現代的な建物だった。
「おい、私は卑弥呼の墓へ連れてこいと言ったはずだが?」
「つべこべ言わずについてきてくださいよ」
伊月は表情を変えぬまま、私に毒を吐いた。その程度で揺らぐ私ではないがな。
リムジンから降りてもやはり連れてこられたのは現代的な建物なのだとわかる。白い正方形のビル。それとしか形容がしない。
「……大臣、窓が」
「む……たしかに無いな」
酒井の指摘で気がつく。この建物には窓がない。
「どうしました? 早く来てくださいよ」
「…………」
私は黙って伊月の後をついていくことにする。
エントランスと思われるものを通ると、その先にはただ一枚の扉があるだけだった。
「さて、鍵を開けます。突風にご注意を」
「なに?」
確認の応答をすることなく、伊月は扉を開けてしまう。その瞬間、ブワッ! と突風が中から吹き込んできた。まるでウィルスを追い出すための咳のように。
「うぐ……」
「掴まれ、酒井!」
ただの人である酒井にこの突風は危険だ。私は酒井に腕を差し伸べ、掴まるよう指示した。
伊月たちはなぜ平気なのだ? と思ったが、どうやら靴に仕掛けをしているらしい。靴の裏からスパイク状に針が出て、床をホールドしていた。
しばらくすると突風が収まり、酒井でも自立できるようになった。
ようやく扉の向こうを拝めると思い中を見ると、琥珀色の壁が見て取れた。
「結界か……」
「ほぅ。見えるんですね、大臣には」
「む、伊月長官には見えないのか」
ならばかなり濃い魔力の結界である可能性が高いな。
「これが厄介でね。私たちも手が出せないんですよ」
伊月は手を伸ばし、どうぞこちらへと言わんばかりに微笑んだ。
私は少し緊張しつつも歩き、結界に触れたところで手を引っ込めた。
バチチッッッ!
「ひっ!? 火花!?」
結界が見えない酒井には突然火花が上がったように見えたのだろう。
「ふむ、困ったな。私の反応速度をもってしても火花を手に受けないのがやっとか。これまでに被害者は?」
「腕が取れたものが何人か。最初の1人はご想像にお任せします」
ふむ、まさに人殺しの結界だな。
琥珀色の結界は中が透けて見えることはない。
「おい酒井、お前にはこの先が見えるか?」
「は、はい。古墳があるように見えますが」
魔法少女には古墳が見えない。そして普通の人には結界が見えない。どちらにせよ墓は見せないつもりか。
「みな、少し黙っていろ。集中して魔力解析を行う」
「ほう。54でまだそんなことができるのですか。さすがはキングカズですね」
「黙っていろと言っただろうが。それとそこはクイーンでいい」
私は体内に残る少ない魔力を結界に結びつけようとする。繊細な魔力コントロールは性に合わないが、やるからには失敗はしない。
ダラダラと額に汗が貯まるのを感じる。自分が思っている以上に魔力の衰えが早いらしい。
「うぐっ!」
突然激しい頭痛に襲われ、結界への干渉をやめざるを得なかった。
「大丈夫ですか! 大臣」
「あ、あぁ。すまない」
酒井のもっていたハンカチで汗を拭う。
伊月は急かすようにすぐに私に問いかけてきた。
「どうですか? 何かわかりましたか?」
「一瞬だけ脳に入ってきたのはこの結界が太古の昔から存在していることだな。そしてこの結界の先に侵入しようとした者が何人も死んでいる」
「なるほど、さすがの分析力ですね。前者はわかりませんが、後者はその通りです。そのためにこの建物を建て、民間人が近寄らないようにしたのですから」
さて……この結界の解除方法を模索するか。これほどの結界だ。おそらく作ったのは卑弥呼本人だろう。
「歴史的魔法少女に挑戦するわけか。胸が躍る!」
私はマギア・ムーンに手をかけた。




