032 同期対決
「じゃあ始めるわね。模擬戦……開始!」
風香さんによる試合開始の合図で私と幸ちゃんの初の模擬戦が始まった。
クノイチのような衣装を身に纏う幸ちゃんは恐らく遠距離・近距離共に得意なタイプだと思う。忍者に対する古いイメージだけど、手裏剣やら短剣やらで攻撃してきそうだしね。
対して私は今のところ遠距離の魔法しか使いこなせていない。つまり、距離を詰められたらダメってことだ。
「『桜花一閃』」
とりあえず魔力を込めた桜の花びらは用意しておく。幸ちゃんはたぶんこの魔法のことを知らないだろうけど、一応の警戒対象になるはずだ。
「それで怖がる私じゃないのです! せやあぁぁ!」
幸ちゃんはまっすぐに私の方へ向かって走ってきた。このまま『桜花一閃』を撃つのもありだと思ったけど、避けられたらおしまいだ。
私は発射を躊躇い、後退りを始めた。それを見た幸ちゃんがニヤッと笑う。
「『製鉄魔法:手裏剣』」
「なっ!?」
走る幸ちゃんの手の指の内、小指を除く8本に手裏剣がシュルシュルと音を立てながら生み出された。
「やぁ!」
幸ちゃんは臆することなく手裏剣を私へ向かって投げつけ、確実に急所である頭に刺そうとしてくる。
なんて的確な攻撃……風香さんの教えなのかな。
なんとか避けたけど手裏剣が訓練室の床に半分以上刺さったのを見て戦慄した。あれは受けたら痛そう。
訓練室だから大丈夫なのはわかっているけど、それでも脳は危険信号を出してくる。
「くっ……まだまだ精度が足りないのです」
「いや十分すごいと思うけどなぁ」
まだ変身して数日でしょ? 才能の塊じゃん! 私なんて攻撃の魔法は自分の特訓と氷彗さんの特訓の結果ようやく『桜花一閃』1つなのに。
心の中で幸ちゃんに向かって賛辞を送っている間に幸ちゃんは腰につけられた小刀を抜いた。
「そんな距離で抜いても意味ないでしょ」
「そう思いますか? 『進風魔!』」
ブワッという音と共に、幸ちゃんが人間ではありえない速度で突っ込んできた。
よく見ると足袋の裏に魔法陣がついている。ここから風を出して加速したんだ!
「『桜花護皆』」
桜の花びらで突進をガードする。魔力攻撃だけでなく物理攻撃も防げるのはこの魔法のいいところだね。
安心していたその時、幸ちゃんは私の盾になっている桜の花に刺した小刀を支点にして体を持ち上げた。その跳躍で優々と『桜花護皆』を飛び越え、私の顔に蹴りを一撃入れてきた。
私の右頬がホログラム状に点滅する。
「一本!」
風香さんの宣言でようやく一本取られたことに気がついた。
「ふっふっふっ……変身では出遅れましたが、ここからは私の巻き返しなのですよ!」
くっ……思った以上に幸ちゃんそのもののスペックが高い。柔軟な身のこなし、優れた状況判断、そして派手な魔法はなくとも光る小技。そのどれも私より上だ。
「じゃあ仕切り直してもう一本ね」
再びスタート位置に立って、まず深呼吸をした。
『桜花一閃』は一撃の威力は凄まじいものがあるけど小回りが効かない。氷彗さんはこの魔法を実践では使わないと言っていた。その理由がようやくわかった気がする。
なら私も……作るしかない。小回りのきく魔法を。実践形式の中で!
「じゃあ2本目……開始!」
「『進風魔!』」
始まった瞬間にさっき決まった攻撃パターンを繰り返してきた幸ちゃん。上手くいったら反復する。当然のことだね。こちら側としてはたまったものじゃないけど。
氷彗さんやブラッディさん、それから幸ちゃんに共通している点は剣や刀を持っていること。ただ私に剣があったとして使えるか。無理!
「なら……勝手に動いてくれる剣を!」
イメージするんだ、散る桜、もしあれが刃だったらどうなるかを。
頭の中に浮かんだのは氷彗さんの『屠殺氷塵』。氷彗さんのような応用は効かないまでも、あれだけならできるかもしれない。
「『桜花散刃』」
訓練室の天井に魔力でできた桜の花を何枚も咲かせる。それを丁寧にではなく、雑に散らせる。ただ気を使うのは、魔力の形。一枚一枚を鋭く、刃の形にする!
「うっ……避けきれないのです!」
散り始めの桜は1番美しいというけれど、それと同様に散り始めの桜が最も強い。
無数の刃は幸ちゃんに襲いかかり、幸ちゃんの全身をホログラム状に点滅させた。
よし……私、だんだん氷彗さんに近づけている気がする! こうしてどんどん、強くなるんだ!




