029 姉妹デート
「忘れ物って、何を忘れたというのかしら」
ブラッディさんが私たち姉妹に気を使ってくれたことに気がついていない様子の氷彗さん。そういう鈍感なところ、いいと思います!
「ま、まぁ2人きりになったことですし、見てまわりましょうか」
「え、えぇ……」
2人きりというワードに反応して、少しだけ氷彗さんの頬が赤くなった。こんな表情が見れると、一撃を与えられて本当に良かったな〜と思う。
「氷彗さん、甘いものはお好きですか?」
「まぁ……そうね、ほどほどに好きだわ」
あっ……この顔どこかで見たことある。ちょっと恥ずかしいようで、何かに気がついてほしいような顔。……あっ! ベッドに猫ちゃんが散りばめられていて、それに指摘して欲しそうだった時の顔だ!
要するに氷彗さん、甘いもの大好きなんだろうなぁ。
「じゃあ行きましょうか。名古屋スイーツマルシェ」
「な、名古屋スイーツマルシェ!? そんなものがあるの!?」
すごい食いついてきた氷彗さん。スイーツ大好きな自分、隠す気ある?
不器用な姉にほっこりして、名古屋駅から出てすぐのところにあるビルの1階へ足を運んだ。本当は手を繋いでデートしたいところなんだけど、氷彗さんに手を繋ぐのは恥ずかしいからと断られてしまった。
ビルに入るとすぐにアーチ状にかけられた細看板がある。そこには名古屋スイーツマルシェと書かれていて、その文字を目にした氷彗さんの瞳はキラキラと輝いていた。
「あ、愛梨! スイーツ大福よ! それからタルトまで!」
「お、落ち着いてください氷彗さん!」
まさかこんなにスイーツに目がない系女子だったとは思わなかった。私たちも戦場を離れてしまえば普通の女の子なんだよね。
結局、名古屋スイーツマルシェではどれにしようか優柔不断な氷彗さんの付き添いで40分くらいスイーツと睨めっこをすることになった。
この間にブラッディさんが帰ってこないということは、私の気のせいではなく本当に私たちに気を使ってくれたんだろう。
「愛梨、私……決めたわ」
「何にしますか?」
「この……シナモンとカスタードたっぷりのアップルパイにする」
お値段730円。高い……と思うかもしれないけど、一応大都市である名古屋駅直近のビルで生き残っているスイーツなのだからそれくらい高級でも納得だ。
「愛梨はどれにする?」
私の選ぶスイーツにも興味津々のようで、氷彗さんは普段見せないような笑顔でぐいぐい来た。この生き物、可愛い……。
時折こういう姿を見せられると氷彗さんを飼いたいというダーク愛梨な感情が出てくる。それを必死に抑え、私は笑顔でお店を指さした。
「あのお店でタルトを買おうと思います」
私がチョイスしたのはイチゴたっぷりのタルト。お値段610円。氷彗さんのに比べればまだリーズナブルだ。
「愛梨愛梨! あのテーブルで食べましょ!」
「は、は〜い」
キャラを忘れたような氷彗さんに戸惑いながらついていく。椅子に座るやすぐに氷彗さんはアップルパイを取り出してしまった。我慢ができない子どものように。
……あれ? フォークもスプーンもないや。どうやって食べる気なんだろう。
「『氷結形成:フォーク』」
なんと氷彗さんは変身することなく小さな氷を魔力で生み出し、それを変形させてフォークにしてしまった。
たしかに魔力の使い方さえ把握していれば変身なしでも少しは魔法が使えるけど……こんな場面で使う?
「ほら、愛梨も使いなさい」
「あ、ありがとうございます」
氷彗さんから氷のフォークを受け取る。かなり冷たいけど、溶けて手が濡れるようなことにはならない。さすが氷彗さんの魔法だ。
いちごのタルトにフォークを刺すと、ビックリするくらい刺さりごちがいい。フォークの品質が高いのか、タルトの品質が高いのかはわからない。
「んん〜♪」
氷彗さんらしからぬ声! アップルパイを食べた氷彗さんはもはやただの17歳の女子。最強のクラス6、そして最悪のお姉さまの姿形はどこにもなかった。
私も続いていちごのタルトを口に運ぶ。サクッと砕けるタルト生地の柔らかな甘味と、クリームの強い甘味。それを引き立てるのがこのタルトの主役であるいちごだ。あえて酸味の強いものを選んで使っているのか、さっぱりとした後味が口の中に残った。
「美味しいですね、氷彗さん!」
「えぇ。シナモンの風味とカスタード、そしてリンゴがたまらないわ」
饒舌に、そしてトロけた表情でアップルパイを褒める氷彗さん。可愛いったらありゃしない。
ふと、私のタルトに視線が向けられているのを感じた。その主は氷彗さんだ。
「えっと……もしかして食べたいんですか?」
「なっ!? い、妹のスイーツをせびることなんてしないわよ!」
激しく動揺する氷彗さん。うん、食べたいんだろうなぁ。
そんな時、私の脳内に一匹の小悪魔が生まれた。小悪魔の囁き通りに、私は口から声を発する。
「私からの『あ〜ん』でいいなら一口あげますよ?」
「な、なんですって!?」
このセリフを吐いた後、私はヒヒッと笑ってみせた。それこそ小悪魔のように。
私が氷のフォークでいちごとタルト生地を持ち上げ、氷彗さんへ向ける。
氷彗さんは額に汗をたくわえ、思案しているようだ。妹から「あーん」をされるなど、まるでラブラブ姉妹のようだ。それは氷彗さんにとって非常に恥ずかしいものだと、私は知っている。
「……愛梨、あまり私を舐めないことね」
「…………」
「た、食べるわよ!」
パクリと、氷彗さんは豪快に私の使っていたフォークへとかぶりついた。間接キス、成功! スイーツの魔力、恐るべし!
氷彗さんは頬をいちご並みに紅葉させ、照れ続けながらタルトをゆっくりと味わった。
幸せな休日。昨日あった凄惨な出来事を洗い流せそうです。




