028 デートがしたい
大臣が去った後、氷彗さんは部屋へ帰ろうと立ち上がった。私はそのタイミングで声をかけてみる。
「あ、あの氷彗さん! この後のご予定は?」
今日は日曜日。週末の氷彗さんといえば訓練と読書だけど、魔法少女センターが崩れた今は訓練室も使えないはず。
「読書か筋トレか、それくらいしかないわね。愛梨は?」
「えっと……よかったら私とお出かけしませんか? したことなかったですし、それに悲しいことがあった後はせめて少しは楽しくないと心が壊れちゃうと思います」
姉妹でデート、すごく王道の展開だと思うし、なんならずっとやりたかったことリストに入っている。
「お出かけ? 名古屋で? どこに行くというのよ」
「えっと……えっと……あれ?」
名古屋って何があったっけ。15歳と17歳で楽しめるような場所……ある?
「……大須は?」
突然提案してきたのはブラッディさん。なんで名古屋の商店街? である大須のことを知っているんだろう。
「大須は……カオスな街なのでデートには向かないです」
「で、デート? 愛梨、私とデートするつもりなの?」
突然慌て始めた氷彗さん。普段のクールな言動からは考えられないほどに手を揺らし、目を逸らし、顔を紅潮させている。
もしかしてデートっていう言葉が恥ずかしかったのかな。女友達(夏美だけど)とデートに行ったことあるから、私にとっては身近な言葉だ。でも氷彗さんにとっては違うみたい。
「はい! 氷彗さんとデートしたいなぁ〜」
私がストレートにそう言うと、氷彗さんは視線を完全に逸らしてしまった。
そしてブラッディさんの腕を掴んで部屋の隅へ向かってしまう。何を話す気なんだろう。
「ブラッディ・カーマ! 貴女も来たいと言いなさい」
「なぜ? 2人のデート。邪魔をするわけには……」
「恥ずかしいからに決まっているでしょう!」
……丸聞こえだ。こういうところが不器用なのも、氷彗さんの可愛いポイントだと最近になって気がついた。
これはブラッディさんと3人でデートに行く流れになるかな〜。まぁそれはそれでいいけど。2人には仲良くなってほしいっていう気持ちもあるし。氷彗さんを撮られるのは嫌だけどね!
「……愛梨、ワタシモデートニイキタイナァ」
「……なんで突然カタコトになっちゃったんですか?」
心に思っていないことを言うと表に出てきてしまうタイプみたい。クラス6は不器用という共通点があるのかな?
「じゃ、じゃあ3人で行きましょうか。グルメ旅なんかどうですか?」
「いいわよ。ただし、食べすぎないように」
「うっ……了解でーす」
釘を刺されちゃった。でもまぁ調子に乗って食べ過ぎて、でっぷりした体型で魔法少女やるなんて不可能だもんね。うん、気をつけよう。
「じゃあ行きましょうか。そろそろお昼ですし」
「あ! ちょ、ちょっと待って」
氷彗さんが大きな声を出して、部屋を飛び出していった。何だろうと思って少しブラッディさんと話しながら待っていると、水色ワンピースに着替えた氷彗さんが部屋に入ってきた。
「え? その服……」
「お母様にもらったのよ。『デートの時は着ていきなさい』って。そんな時は来ないと思っていたけど……」
氷彗さんのお母様ナイスです! 娘さん、超絶輝いています!
「似合わないわよね、こんな服」
「そんなことないです! 可愛いですよ氷彗さん!」
「うん。よく似合っている」
「そ、そうかしら……」
照れちゃって私たちに背を向けた氷彗さん。どちらかと言えばそういう仕草の方が可愛かったりする。
「さ、行きましょうか! ちょうどお昼時ですし、ご飯から食べちゃいましょう」
というわけで少し歩いて名古屋駅へ。ここには様々なレストランが立ち並んでいるため、何を食べようにも選びたい放題だ。
「ブラッディさんは何か苦手な食べ物とかありますか?」
せっかくルーマニアからわざわざ名古屋に来てもらっているのだから、名古屋の美味しいご飯を食べてもらいたい。
「苦手なものは特にない。レバーはできれば避けたいくらい」
「へぇ。レバーが苦手なのね。意外だわ」
私があえて口に出さなかったことを氷彗さんは口にしてしまった。血色モチーフの攻撃が多いから、レバーとかは好物っていうイメージがついてしまっている。
「血の匂いがする食べ物を食べると、なぜか前世の記憶のように色々と頭をよぎる。なぜかはわからないけど血のみを口にして、友達とご飯を共有できない寂しさとか、そういうものが」
「意外とオカルト信仰があるのね」
「そういうわけじゃない」
全部を理解するのは難しかったけど、とにかく寂しい気持ちになるからレバーはダメってことはわかった。
「じゃあ……ひつまぶしでも食べにいきますか?」
「そうね。私の好物だから異論はないわ」
……氷彗さん、ひょっとして自分に苦手なものや好物を尋ねてもらえなくて拗ねてる? そんなわけないよね? ね?
結構いいお給料を貰えているからと、名古屋駅内にあるうなぎ屋さんへ入店する。ほのかに香ばしい匂いが鼻をつき、お腹の虫を歓喜させた。
「……いい匂い。ルーマニアにはない匂い」
「味も保証するわ」
「はい! とっても美味しいですよ」
4000円という高校生のお昼としては衝撃の値段を食すわけだけど、ブラッディさんがいるから特別ってことで。大義名分作り、大事だね。
届いたひつまぶしにブラッディさんと、好物だと言っていた氷彗さんも目を輝かせた。こう見るとクラス6も普通の女の子なんだなと感じる。
「これはどうやって食べるの?」
「そのまま、薬味をつける、出汁をかけるの3パターンです。初めてなら全パターン試してみた方がいいと思いますよ」
「了解」
私もテンションが上がってきた。
そのまま食べてタレの香ばしさとうなぎの旨味を口で爆発。次に薬味を乗せて、大人な風味を加えて唸り、最後に出汁をかけてまったりと食べてしまえばあっという間に完食してしまった。
「ふー、美味しかった〜」
「えぇ。元気よく食べていたわね」
「そういう氷彗さんだってバクバク食べていたじゃないですかー」
「……そうだ、2人とも。私は部屋に忘れ物をしてきた。少し2人で遊んでいて」
「え?」
そう言ってブラッディさんは立ち上がり、どこかへ立ち去ってしまった。
その際に少し私と目を合わせ、パチっとウィンクした。もしかして……気を使ってくれたのかな?
だとしたら、氷彗さんとの2人きりの時間、めいっぱい楽しまなきゃ!




