025 魔法大臣
まだ力足らずな妹を引かせ、私はブラッディ・カーマと2人で爆砕天と名乗った人型エネミーと交戦することを選んだ。
愛梨に対して攻撃を仕掛けるかとも思ったけど、爆砕天にそんな様子はない。魔法少女センターへの攻撃以外、弱者への興味は無いということかしら。
「氷彗、警戒を」
「……えぇ、わかっているわ」
クラス6ともなると少し考え事をしているだけで見抜かれてしまうわね。その一瞬の油断が命取りになることもある。気をつけねば。
「んっふふふふ、この俺様に警戒したところで無意味だということ、教えてあげようじゃねぇノォ」
そう言って爆砕天は天へ向かって手を仰ぎ、何かを呼び込む動作を始めた。見たことはないけど呪術師のようだ。
「喰らエ! 『ミニマム・ボマー』」
突如、空から流星のような爆弾が一挙に攻め込んできた。オレンジ色に輝く爆弾は光を灯し、昼の名古屋を輝かせた。
「『氷天幕』」
「『血の薔薇』」
流石の動きというべきか、私がすべての爆弾を撃ち落とす魔法を使った瞬間にブラッディ・カーマは攻勢に出た。
血の薔薇から生み出されたツルは空気をも裂き、爆砕天へと目掛けて進んでいく。道中には血の薔薇を咲かせ、ビーム攻撃も2次的に生み出した。合理的な魔法であると感心する。
「ちいっ! 痛えナァ!」
素直な感想を述べる爆砕天。しかしそのわりには余裕があるように感じた。
よく見ると傷口がオレンジ色に光り輝いている。これは……罠!
「ブラッディ・カーマ! 防御を!」
「…………!」
「遅ェ! 『ブラッド・スクリーム・ボム』」
私たちが魔法を使う前に、相手の罠が発動した。傷口からはオレンジ色のレーザー光線が発射され、それは空中で小爆発を起こしながら突き進んできた。
「くっ……『薄氷……』」
「あっひゃひゃ! 上を見なァ!」
言われた通りに視線を上にやると、先ほど撃ち落としたはずの小型爆弾が再び空に座していた。これではどちらかは受けるしかない。そうなれば……この戦況は最悪のものになる。
まだ私は死ねない。この世界のエネミーを狩り尽くす目標も達成されていないし、最近できた目標である愛梨を一人前にすることだって道半ばだ。
「こんなところで……死ねるかぁ!! 『薄氷:氷塵多重結界』」
初めて使う魔法。こんな土壇場で使うことを想定していなかったけど、やるしかない!
氷の塵を放出させ、空気中に撒き散らす。それをどんどんと伸ばしていき、壁にしていく多重防御魔法。
小型の爆弾も、オレンジ色の爆発性レーザー光線も受け止めていく。ただ瞬間的な魔力の消費が激しいゆえに目眩のような症状が表れた。
「くっ……」
「氷彗! ……後は任せて」
ブラッディ・カーマはよろめく私を受け止め、そう口にした。まったく……私と同程度の実力なのにどうするっていうのよ。
私は空中で膝を折り、息を切らす。
「しぶてぇナァ。でも青いのはもう一押しってとこカァ?」
「チッ……耳障りね」
爆砕天はケラケラと愉快そうに笑う。それに対して生理的に嫌悪を抱かざるを得ない。
「こいつで終わりダ! 『マキシマム・ニュークリ』うゴォ!?」
「……?」
爆砕天が攻撃を仕掛けようとした瞬間、突然白い顔が歪んで吹き飛ばされた。爆砕天は口から紫色の血を流し、怒気を滲ませているようだった。
「何だ! 何をしやがったテメェ!」
「……私は何もしていない」
ブラッディ・カーマは何もしていないという。なら何が……と思って空を見た瞬間、そこに答えはあった。
「苦戦しているわね、魔法少女ーー!」
「うるさ……」
つい苦言を呈したくなるほどの大声を出したのはとあるおばさん。
しかし、ただのおばさんではない。昭和のアイドルがこぞって同じ髪型にしていたものを今でも維持しているワインレッドの髪色を見た瞬間に勝ちを確信した。
「何だ、何だテメェはァ!」
「時間がないから名前だけ! 工藤かず子よ!」
「うごォ! ぬアッ!?」
次々に殴られたように、顔を歪めて吹き飛ぶ爆砕天。これがあの工藤かず子の能力である。
といっても彼女は魔法少女ではない。彼女は……
「氷彗、彼女は誰?」
「あの人は工藤かず子。日本の魔法省の大臣。魔法大臣よ」
「魔法大臣!? 彼女が……」
普通の人は25歳あたりで限界が来て、徐々に魔法少女の能力を失うと言われている。
しかし、彼女だけは54という年齢になっても1分のみではあるが変身できるのだ。そして彼女は元クラス6の魔法少女。最強と呼ばれたレジェンド級魔法少女である。
「おっと、そろそろ時間ね。『百手観音張り手』」
「ウガガガガガガガガゴガゴゴゴガッ!!」
四方八方へ吹き飛ぶ爆砕天。それもそのはず、魔法大臣の能力は、離れた場所に近接攻撃を数倍の威力に膨らませて当てるという人外じみたものなのだ。
つまり、今爆砕天はクラス6魔法少女の魔力が乗ったパンチの威力を何倍にもした攻撃を100発喰らっていることになる。
爆砕天はヨロヨロと立ち上がろうとするも、空中にて意識を失ったように倒れた。
名古屋に響いたのは工藤かず子の高らかな笑い声だった。




