024 邂逅
氷彗さんに頭を撫でてもらい、ほっこりとした空気。
そんな空気を破壊したのは、唐突に響いた爆撃音だった。
重い何かが落ちる音、建物が軋む音、それが崩れて地に落ちる音。重なり合う爆音は耳を貫き、反射的に耳を押さえてしまう。
「氷彗、これは……」
「間違いなくエネミー。ただ……ここを狙って出てきたというの?」
神妙な顔でクラス6同士で状況を分析し合う。その頼もしさに比肩するものはない。
「話はあとね。今はとりあえず狩りの時間よ」
「私も行く。構わない?」
「当然。ただ足手まといになるようなら斬るわよ」
氷彗さんの言葉にブラッディさんは頷いた。自分は足手まといになんかならないという絶対的な自信があるのだろう。
「愛梨も付いてきなさい。防御の魔法を覚えたんだから、自分の身はある程度自分で守ること。いいわね?」
「は、はい!」
よかった、置いていかれるかと思ったよ。
訓練室を3人で飛び出すと、魔法少女センターはボロボロに壊れていた。トヨタ中央高校を破壊したエネミーの攻撃も凄かったけど、これは群を抜いている。建物一つ破壊するだなんて……。
ふと違和感に気がついた。そう、いつもならエネミーが出てきたら空に黒い穴が空いているはずなのに、今日はそれがない。
「エネミー、帰ったんでしょうか……」
「いや、それはないわね。まだ魔力のうねりを感じるわ」
何それ、聞いたことない! 魔力のうねり……いつかちゃんと感じ取れるようにしておこう。
「氷彗! 後ろ!」
「わかっているわよ」
飛んできた瓦礫を氷の剣で斬り裂いた氷彗さん。完全に死角から飛んできたのに。すごいなぁ。
「おんヤァ? まだ強い魔法少女がいたカァ」
背筋が凍るような気色の悪さを感じる。それがその声を聞いた第一印象だった。
瓦礫から出てきたのは白い人間……でも顔のパーツは口しかなかった。三日月状に開いた口が笑っているようで不気味に映る。
「人型の……エネミー?」
「……こうも早く出てくるとは」
「まったくね。悪運の強い妹だわ」
え? なになに? どういうこと!?
「言っておくが応援は来ないゼェ。他の魔法少女は俺様が送り込んだ下級エネミーの対応に追われているだろうからナァ」
「そう。関係ないわね。あなたはここで私たちに潰されるのだから」
「へぇ。強気だネェ」
話すエネミー、人型のエネミー、それに驚きもしない氷彗さんとブラッディさん。いろんな情報が混ざって訳がわからなくなる。
人型のエネミーは手を合わせた。それに私たち3人は一斉に警戒して構える。
「コイツを喰らっても強気でいられるかナァ!? 『スプラッシュボム』」
トマトの断面みたいな、そんなエネルギー弾が発射された。それは私たちのちょうど真ん中付近で止まって、エネルギーを放出しようとする。
「『桜花護皆』」
「『薄氷結界』」
「『盾』」
全員が反射的に防御の魔法を使う。トマトの断面のような爆弾が爆発した時、ちゃんと訓練していて良かったと心底思った。
口の中で噛んだ瞬間にプチっと弾けるプチトマトのように魔力爆弾は爆破した。オレンジ色の魔力の弾が散発され、魔法少女センターだったものを粉々に砕いていく。
「くっ……」
こんな時に自分の身しか護れない自分が情けない。
「おいおいマジかヨ。そこのピンクいのくらいは倒せると思ったんだけどナァ!」
「あまり私の妹を舐めないことね」
氷彗さんは顔に怒気を込めて口を開いた。
人型のエネミーは口をニヤッと緩ませ、拍手を送ってきた。世界一嬉しくない拍手だと思う。
「それであなたは何者かしら? 人型エネミーってものは、少しだけ顔を出しては引っ込める臆病者と思っていたけど」
「俺を他の奴らと一緒にするんじゃネェ!」
氷彗さんの言葉を遮って、初めて人型のエネミーは明確に怒気を示した。
その言葉に敏感に反応したのはブラッディさんだった。
「……他のとはずいぶん線引きをしたいように見える。何が目的?」
「俺は白天七柱で最強の爆砕天ダ! 他の腰抜けどもは人間にびびっているみたいだが、俺はお前たちなんて怖かネェ!」
白天七柱? 爆砕天? まったく言っていることはわからない。ただ……なんかコイツがヤバそうなことだけはわかる。
「愛梨」
「は、はい!」
考えていたら氷彗さんに名前を呼ばれた。咄嗟に反応したため少し噛んでしまった気もする。
「この相手は私とブラッディ・カーマに任せなさい。あなたは魔法少女センターで救助活動。いいわね?」
「任せてください! ……氷彗さん、どうぞご無事で」
「誰に向かって言っているのよ」
氷彗さんの横顔はいつも通り、頼もしく映った。




