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023 護るための魔法

 氷彗(ひすい)さんがブラッディさんとの談合を終え、部屋に戻ってきた。その顔はいつも以上に凛々しくて、何かあったのだと察することができる。でもその「何か」は悪いことばかりだとは思えなかった。


愛梨(あいり)

「は、はい!」


 油断していた時に名前を呼ばれたからびっくりしてしまった。

 時刻はお昼の12:00。ご飯には良い時間だね。


「軽めに昼食を取って訓練室に行くわよ。今日は愛梨に新しい魔法を覚えてもらうわ」

「え、ええっ!?」


 新しい魔法!? 突然の急展開!

 たしかに私の魔法といえば『桜花一閃』のみ。氷彗さんみたいに多彩な魔法を駆使しているとはお世辞にも言えない。

 私は食堂へ向かう氷彗さんについて行き、本当に軽く、あっさりとしらす丼(ミニ盛り)を食べて訓練室へ向かった。


「愛梨はここに立っていて」

「あ、はい」


 氷彗さんに指定された位置に立つ。すると氷彗さんは頷いて、少し離れていった。距離にして30メートルから40メートルくらい。


「私がここから直線的な魔法を撃つ。愛梨はそれを魔法で防いで。それが今日の訓練、新魔法の習得よ」

「攻撃を防ぐ、ですか」

「えぇ。名古屋城でのオタマジャクシ戦のように、相手の攻撃を防ぐ術を持っておけば怪我をする確率も大袈裟に言えば死ぬ確率もグッと下がる。……本当は変身できたらすぐにでも教えるべきだったわ」


 氷彗さんは自分を責めるように少し斜め下に視線を置いた。私はそれが心苦しくて、そんなこと言わないでくださいとアイコンタクトで伝える。


「じゃあ行くわよ。大事なのはイメージ、忘れないで」

「は、はい!」

「『フリージングバレット』」


 氷彗さんは氷の銃を生成して構え、その引き金を引いた。


「えっと……か、『壁!』」


 どうすれば良いのかわからない私は、とりあえず氷彗さんが名古屋城で使ったような氷の壁をイメージして、自分の魔力を壁に変えた。

 私の魔力に反応してか、壁は桜色で綺麗だ。氷彗さんの壁という教科書があったからこそ、一発で成功することができた!


 ……と、思っていた。


「え……」


 氷の弾丸は桜色の壁を貫通し、私の心臓部に突き刺さった。これが訓練室でなく、本当の戦闘であったなら私は絶命していただろうと直感的にわかった。

 氷彗さんはゆっくりと歩いて私の元へと来てくれた。


「どう? 少しはヒントを掴めたかしら?」

「できたつもりだったんですけど……何がダメだったんでしょう?」

「たぶん愛梨には私のような壁状の盾は向いていないんじゃないかしら。次は愛梨が1番イメージしやすいもので防いでみなさい。きっとさっきよりは手応えがあるはずよ」

「は、はい!」


 的確なアドバイスだ。もしかして普通にしていれば姉としての素質は十分なんじゃ……?


「行くわよ。『フリージングバレット』」


 氷の弾丸を防ぐため、私のイメージしやすいもの……やっぱり桜かな。


「『私の盾』」


『桜花一閃』のように、桜の花びらを広げて盾とした。壁より防ぐことのできる範囲は狭いけど、イメージが固まっている分さっきよりは強力な盾になった気がした。

 しかし、氷の弾丸が当たった瞬間に桜の花びらは崩れ、弾丸を易々と通過させてしまった。少しだけ方向が変わった弾丸は私の肩を貫いた。


「あれ……これでも上手くいかないんだ」

「調子に乗らない! 最初から上手くいく魔法少女なんて私くらいよ」


 氷彗さんは自分を称えつつ、私に謙虚でいるよう促した。一見傲慢なように見えるけど、実際氷彗さんは天才なのだから反論の余地はない。


「……姉妹らしく訓練。良いと思う」


 突然声をかけられたからびっくりして声の主の方へ視線をやると、そこにはブラッディさんが立っていた。


「ブラッディ・カーマ……何の用?」

「その訓練の手伝いに来た。私が攻撃して、愛梨が魔法を使う時に氷彗が近くで教えてあげる。そっちの方が効率的なのは間違いない」


 ふむ、と氷彗さんは顎に指を当てて考え込む。え……まさか私、今から最高峰であるクラス6の魔法少女2人に訓練をつけてもらう展開になろうとしてる? そんな贅沢ある!?


「いいわ。協力してくれるというのなら歓迎する」

「ん。仲良くしよう、氷彗。それから愛梨も」

「は、はい!」


 本当にクラス6の2人から訓練を受ける流れになっちゃった。

 ブラッディさんはさっきまで氷彗さんが立っていた場所へ移動して、手をこちらへ向けた。おそらく魔法の発動のためだろう。

 そして氷彗さんは私の後ろに回り込み、耳打ちしてコツを教えてくれる。これがまた耳が開発されるんじゃないかと思うくらいゾクゾクする。


「壁の場合は魔力を均一に流すことが重要だけど、愛梨のように特殊な形の場合、魔力の流し方も変えてみても良いかもしれないわ」

「と言いますと?」

「重要度の低い花の外側は魔力を薄く、そしてその分中央で受け止める部分は魔力を厚く流すの。やってみなさい」

「は、はい!」


 氷彗さんのアドバイス通り、魔力で作られた花の外側は薄く、内側にかけてどんどんと厚くするように魔力を調整した。

 それを見計らってか、ブラッディさんが血色の弾丸を撃ち込んできた。弾丸は私の桜の花に突き刺さるものの、貫通までには至らない。


「やった!」

「あと少し精度を高めれば使えるわね。ブラッディ・カーマ、もう1発よ」

「了解」


 自分では今ので100点だったけど……まぁ仕方ないね!

 というわけでまた魔力を高めて、力の入れ具合を調整する。そんな時、氷彗さんが耳打ちをしてきた。


「魔法の名前、今ここで決めなさい。直感で決めた方がイメージと合致することがあるから」

「は、はい! それなら……」


 血色の弾丸が迫ってくる。あれから市民を護りたい。なら!


「『桜花護皆(おうかごかい)』」


 皆んなを護る、桜花!

 血色の弾丸は魔力でできた桜に呑まれ、消え去った。


「うん、よくやったわね」


 氷彗さんは優しく頭を撫でてくれた。その、次の瞬間。

 ドゴッッ! という重い音が耳を貫き、訓練室が揺れ動いたのです。

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