022 クラス6談合
部屋を出た私は今さらながらに自分の行動を反省した。
自分の妹、今となっては愛妹とも言える愛梨の頭を撫でただけの留学生、ブラッディ・カーマへの対応。あれではまるで私が愛梨に依存しているようだ。
「はぁ、少し自分を見失っていたようね」
頭を冷やす。その言葉通り、今の私はクールだ。
ブラッディ・カーマの部屋の所在はなんとなく察しがつく。どうせらいひんしつにいるだろう。
らいひんしつのドアをノックすると、中からあの女の声がした。私の読みは正しかったようね。
「……氷彗!」
私の顔を見るとブラッディ・カーマは心底驚いた顔をした。どうせ愛梨に根回ししただろうに、よくそんな顔ができるものだ。
「……話があるんでしょう? 来てあげたわ」
こんな態度しか取れない自分の不器用さに嫌気がさす。不遜な私にも、ブラッディ・カーマはほとんど表情を動かさない笑顔で応えた。
「それは良かった。入って」
20歳のブラッディ・カーマ。流石の大人の対応と言うべきかしら。私も3年後、こんな対応ができるか……無理ね。性に合わないわ。
ブラッディ・カーマに案内され、来賓室の絢爛な椅子に座らせられる。
「よく来てくれた。ソカタでも飲む?」
「結構よ。本題に入って」
ソカタ……確かルーマニアの伝統的なジュースよね。まさか持ってきているというの?
自分がどうでも良いことを考えていることに気がついて頭を振った。今はそんなことよりも超秘匿事項という話をする方が先決だ。
ブラッディ・カーマは向かい側の椅子に座り、神妙な顔でこちらを見つめた。そして手を動かし、指を2本、立ててみせた。
「話は2つ。まず1つ目は人型エネミーの確認について」
間違いなく切り出させるであろう話題を切り出された。ただ……この問題に関しては協議する価値はある。
「人型エネミーは日本で2件確認されているけど、あなたの国でも確認されているの?」
「いや、ルーマニアでは0。ただアメリカやドイツなどで確認されたという情報は耳にしている。特徴としては人語を話し、そして恐ろしく強いということ。しかし好戦的ではない。……今のところは」
人型のエネミーという話題はクラス6と魔法省幹部以外では超重要秘匿事項として扱われている。彼らの存在が不明確である点や、その戦闘力は公表すれば間違いなくパニックになる。
実際、東京にいるクラス6の魔法少女が全治4ヶ月の怪我を負ったのだからその強さは簡単に測ることができる。
「人型エネミーに対して、貴女は私に何が言いたいわけ?」
「氷彗にだけじゃない。ここからは全世界の魔法少女の協力が必要。取り返しのつかない状況になったらその時点でもう遅い」
魔法少女の協力……それがブラッディ・カーマの考えなのね。
「氷彗、あなたの力を借りたい。もちろん私の力も預ける。国家間でなく、友人として私と協力して欲しい」
「…………………………えぇ、わかったわ」
長考の末、肯定的な言葉を吐くことができた。
そしてブラッディ・カーマはもう一つの話題に移ろうとする。
「もう一つ。……魔法少女の軍事転用について」
この話題が上がることは予想していなかった。風の噂には聴いていたが都市伝説だと思っていた。でもそうではないらしい。
「悪いけど、私はその話題については詳しくないわよ」
「ん。今アメリカ、ロシア、中国では魔法少女を軍事利用する動きが高まっている。もちろん水面下で。そんなことになれば魔法少女と魔法少女が戦争をする地獄になる。その上、さっき話した人型エネミーに対応するどころか、後手に回る可能性が高まる」
「……そこまで深刻な事態にまで発展していたのね。ただなぜアメリカやロシア、中国の魔法少女でなく日本の魔法少女である私にその話をするのかしら?」
クラス6の力があればアメリカなどで話せば良いだけだと思うけど、違うのかしら。
「日本の魔法省のトップ、魔法大臣である工藤かず子は魔法少女の軍事利用に完全に反対の立場を取っていると耳にした。それに日本は大戦下において魔法少女を利用する軍部の動きにも、魔法少女は団結して争った歴史がある。どの国よりも信頼できると判断した」
なるほど、と私は目をつぶって思った。
「確かに日本は昔から一度も魔法少女が軍事に介入したことはないと記録されているわ。名前の残っている最古の魔法少女、卑弥呼の時代からね」
少なくとも1800年近く、日本では魔法少女の軍事介入はない。だから信頼できるというのは頷ける話だった。
「私が言いたいのは、氷彗と協力したい、ただこれだけ。世界有数のクラス6が二人、協力するとあればそこそこの影響力はある。もし水面下の動きが水面に現れた時、私に協力して欲しい」
「………………」
考えられるメリット、デメリットを思案する。魔法少女の軍事転用に反対することを正式に表明すればそれは世界への挑戦とも取られかねない。
「氷彗、貴女にも妹がいるのならわかるはず。大切な妹を魔法少女同士の争いで失いたくはない。そうでしょ?」
「……そうね。わかったわ、協力する。こっちには大臣もついていることだし」
愛梨の存在をチラつかせるだけでこんなに即決できるとは。私も変わったものね。
「嬉しい。魔法少女同士で争うことも、人型エネミーで死ぬこともない世界を目指す。その志を共有できたこと、嬉しく思う」
「貴女を喜ばせるために協力するわけじゃないわ」
ただ脅威は確実に迫っている。なら……私が教えるべきね、愛梨に、新しい魔法を。




