021 姉を慰めよう
A501室、つまり私たちの部屋だけど、一瞬あれ? 氷彗さんいないのかな、と思った。
しかし猫ちゃんのぬいぐるみがたくさん置かれた氷彗さんのベッドのシーツが不自然に盛り上がっている。確認するまでもなく氷彗さんが篭っているんだろう。
「あ、あの〜? 氷彗さん?」
「…………」
返事がない。拗ねているようだ。そう思っていたけど、意外とすぐに氷彗さんは口を開いた。
「……幻滅したでしょ」
「え?」
「あれだけいきがっていたのに引き分け……いや、負けも同然。そんな情けない姉の姿を見たんだもの」
え、えぇ〜。そんなに落ち込むこと?
私の価値観では別にそれほど気にすることではないと思っている。だってクラス6同士の戦いでしょ? なら引き分けでもいいじゃんというか、負けなかっただけ良いじゃんと思ってしまう。
でも理想の高い氷彗さんには、そんなこと許されないと考え込んでしまっているんだろうな〜というのもまた理解できる。
さぁここで氷彗さんを慰めるために、私ができることとは何でしょうか。
言葉で慰める? 無理無理、口下手だし。煽って焚き付ける? 無理無理、むしろ怒らせそう。
だから私は氷彗さんのベッドへと近づいて、シーツの下にいる氷彗さんを、シーツごと抱きしめた。
「あ、愛梨!?」
これには氷彗さんも驚いたようで、普段は出さないような声を出した。
シーツ越しだからこんな大胆なことができるけど、もちろん氷彗さんの生肌に抱きつくことはできない。あくまでシーツ越し限定の勇気だ。
「幻滅なんてしません。氷彗さんは私の自慢の姉ですから」
「愛梨……」
それにしても氷彗さんがここまで不安定な人とは思ってもいなかった。たぶん魔法少女になってからの1年はずっと1人で抱え込んでいたんだと思う。そう思うと可哀想なのかもしれない。
しばらく氷彗さんを抱きしめていると、もぞもぞとシーツの下で氷彗さんが動きだし、水色の髪の毛から下界へと姿を現せた。
「……少し取り乱したわ。ごめんなさい」
氷彗さんはほんのりと頬を赤らめて謝罪をしてきた。
「いえ。ただその謝罪はブラッディさんに取っておいてください」
「……あの女と話したの?」
「はい。ブラッディさんは氷彗さんとクラス6同士として、超秘匿事項について話したいとも言っていました。それが後々の魔法少女のためになるとも。私には何のことかはわかりませんが、氷彗さんには心当たりがあるんじゃないですか?」
「…………」
氷彗さんの無言は実質肯定を示しているようだった。
「もし嫌なら、私から他のクラス6の方と話してもらうようにブラッディさんに頼むこともしますけど……」
「それは絶対にダメ。彼女たちに任せたらろくなことにならないわ」
えぇ……他のクラス6の人って一体どんな人たちなんだろ。氷彗さんにここまで即答させるほどダメな人達の集まりってこと? 魔法少女ファンブックを読んだ限り、そんな人たちじゃないような印象を受けたけど……。
「……分かったわよ! 私があの白いのと話せば良いんでしょう?」
「し、白いの……まぁそうですね。そうしてくれるとありがたいです」
よかった、なんとかブラッディさんと対話する意思は持ってくれたみたい。
「私からブラッディさんに伝えますか?」
「いい。自分でやるわ。そもそも私がもやもやした気持ちになったのも……」
そう言って私を見つめる氷彗さん。その頬は再び熱を帯びていた。
「なったのも?」
「な、なんでもない!」
そう言って氷彗さんは再びベッドへ潜り込んでしまった。ここから引きずり出すのは無理かな、と思い今日は休みにしようと勝手に考え、勉強机に座ってスマホゲームを始めた。
しばらく経ってから氷彗さんは立ち上がり、部屋を出ていった。私はその背中を視線で後押しをする、そんな生意気なことを考えたりしたのです。




