002 特例
夢を見た気がする。
いつも通り学校で授業を受けていたらエネミーに襲われて、学校が半壊しちゃって、魔法少女が駆けつけてきてくれたんだけど負けちゃって。そしたら私が変身できちゃってエネミーを足止めして、強い魔法少女さんが倒してくれる。
そんな、お伽噺みたいな夢。
目を覚ますと、見慣れない天井が視界に映った。
「先生、目を覚まされました」
「そうかい。すぐに向かうよ」
遠くで若い女の人とおじさんの声がした。
チラッと目を動かしてみると、そこにはどう見てもお医者さんにしか見えない人がいる。
そっか……あれ、夢じゃなかったんだ。
「おはよう桜坂さん。私は豊田魔法病院院長だ。昨日のトヨタ中央高校襲撃事件について、覚えているかい?」
「……はい」
私は起き上がることなく、寝たままで答えた。もし起き上がったとしても、この先に待っている昨日の出来事を聞いて憔悴しないでいられる自信がないからだ。
「落ち着いて聞いてほしい。昨日の事件で4階にいた生徒、及び職員の計67名が亡くなった。その他にも重症・軽症合わせても負傷者多数だ」
私は掛け布団の下で足を組み替えた。
「……そうなんですね。魔法少女さんは?」
「駆けつけた魔法少女、クラス4の佐々木芽依とクラス2の二宮美空はいずれも重体だ。助かるかは……はっきり言って五分五分だね」
「そんな……」
やはりあの魔法少女たちは姉妹システムの魔法少女だったんだ。
姉妹システムとはクラス1〜3の下級魔法少女の面倒をクラス4〜6の上級魔法少女がみるシステムのこと。この姉妹システムにより、姉に、または妹に特別な感情を抱く魔法少女も少なくないという。
「さて、君に会いたいという人がいてね。凄惨な事故の後だから拒絶してもいいけど、どうする?」
「私に? ……いえ。会わせてください」
「わかった。連れてくるよ」
お医者さんは私に会いたい人だという人を迎えに行った。
私に会いたいって誰だろう。お父さんもお母さんももういない私に、誰が会いにくるんだろう。
しばらく待っているとスーツ姿の、初老の男性が一礼して病室に入ってきた。その顔に見覚えはない。
「えっと……」
「初めまして。魔法省事務次官です」
「魔法省の!?」
魔法省とはエネミーに対抗するための内閣の組織。って公民の授業で習った。一応魔法少女は公務員ってことになっていて、そのトップが魔法省ってこと。
「な、なんで魔法省の事務次官さんがここに?」
「イレギュラーには迅速に対応せよ。それが魔法省のモットーです。山吹隊員によると君が魔法少女の姿になっていたと聞いたので来ました。本来、魔法少女へ変身するのは4ヶ月近くの訓練がいる。どんな天才だって初めの1ヶ月は変身できない。それなのに、だ。君はあの場面で初めて変身装置を手にして変身してしまった。それを大臣を中心に衝撃が走ったから、今日ここまでやってきたのです」
なるほど、理屈は通っている。
私もあの時は無我夢中だったからあの行動をとったけど、魔法少女について勉強した私から言わせてもあの行動は意味不明だ。だって変身装置を手にしても変身できるわけがないから。
「といっても私、なんで変身できたかわかりません。それに私は今年の魔法少女試験に落ちているんです。だから特別な才能もあるとは思えません」
「えぇ。見させてもらいましたよ、あなたの成績。体力・知力・魔法。それぞれ合格点にわずか1点ずつ届いていなかった」
「い、1点ずつ……」
そ、そんなギリギリで落ちてたんだ。運もないんだね、私。
「さて、ここで問題が発生しました。魔法省としてはイレギュラーを嫌います。そしてもっと嫌いなのが……イレギュラーを私たちの管理外に置いておくことです」
「それって……つまり……」
「おや、察しはいいようですね。そう、本来特別扱いはしていませんがあなたに魔法少女試験、追加合格を言い渡します」
「……ありがとうございます」
「退院後、名古屋にある魔法少女センターに顔を出してください。必要な書類は送っておきますので」
「はい」
私は簡素な返事をして事務次官さんを半ば病室から追い出した。
魔法少女はキラキラしたもの、そう思っていた。小さい頃救ってくれた魔法少女は強くて、すぐにエネミーをやっつけてくれた。
でも、現実はそんなに甘くない。エネミーにやられて重体になる魔法少女だっている。
私の脳裏から頭から血を流す美空ちゃんの光景が離れない。
きっとこれはずっと心に残るものになる。そう思い続ける病院生活になるのでした。




