証の間2
剣はまだしっかりと握っている。
ツルハは剣を構え直すと、勇気を奮い立たせるように声を張り上げ、竜人に斬りかかる。
竜人はツルハからの振り下ろしを体を逸らして避け、2連撃目の斬りを剣で受け止めると、そのままツルハの剣を押し返す。
「むッ……!」
力を込めた剣から、その反動が返ってくると、竜人は思わず一声を漏らした。
ツルハが耐えるとは思わなかったのだろう。
押せばすぐに倒れてしまいそうな華奢な体がその剣を押し返してくると、竜人も力負けせぬよう再び剣に力を込める。
ギリギリと鍔迫り合いに鳴く剣越しに、2人の眼光は鋭く混ざった。
冷たい眼だ。
きっと何十人、何百人と多くの命を奪って来たのだろう。
その黄橙の瞳が、一瞬鋭く光ると、ツルハはハッとした。
腹部に砲弾が勢いよくぶつかってきたような衝撃が走ると、視界の景色と共に頭の中が真っ白になる。
そのまま2,3度地面を大きく回転しながらようやくその勢いがおさまると、腹部から鈍い激痛が全身に広がり、ツルハは声にならない悲鳴を上げた。
腹蹴りに大きく飛ばされ、手から離れてしまった剣のことも忘れ、両手で腹を抱えうずくまるツルハに、竜人は肩から力を抜いた。
「……如何した?
早く、勇者の力を見せてみよ」
芯のある低い声が苦悶の中聞こえて来るも、ツルハは顔を上げることすらできなかった。
その様子に竜人は静かに加えた。
「貴様は、我が弟、グレンダを見事に倒し抜いた乙女。
その程度の強さが、貴様の本来の強さであるはずがない。さあ、私にもその力を見せてみよ。そして、私を倒してみせよ」
グレンダ。
どこか聞き覚えのある名に、虚ろになった思考がその記憶を辿る。
「グレ……ンダ……?」
掠り声が少女から返ってくると、竜人は頷くように答えた。
「そうだ。
貴様が、アルンベルンの地にて、葬った男」
アルンベルン。その町の名に、あの円形状の闘技場の景色が浮かぶと、電光のようにその魔物の姿を思い出す。
「まさか、あのオーガの魔物……!」
ツルハが驚きの余り声を上げると、竜人は頷いた。
そして、すぐ様にツルハの頭に疑問がよぎると、それを悟ったように竜人は語った。
「驚くことは無理もない。オーガと竜ではそもそもの種族が異なる。
しかしこのような姿となる以前、私たちは紛れもない兄弟であった」
「……どういうこと?」
ツルハがゆらりと腹を抱えながら立ち上がると、竜人は一度沈黙した。
そして、その口が少しだけ開くと、静かにその声が返って来た。
「……これ以上のことは、告げるに値しない。私が関心の持つ処は、貴様の力のみ。
さあ、剣を持つが良い。我が弟を討ち取ったその力、私にも見せてみせよ」
ツルハは胸の内困惑していた。
紅蓮の戦士を葬った勇者の力は、ウォルンタスの剣の力によるもの。
しかし、そのことを教えたとしても、この魔物が話の理解できる者であったとしても、大人しく自分を見逃してくれる保証はない。
この魔物の狙いが勇者の力だとすれば、きっとそれを知った後、ウォルンタスの剣を探し回ることだろう。そうすれば、アルフィー達だけでなく、学院にいるユズハ達にも危険が及んでしまうだろう。
そんなことはさせない。
何としても、この魔物をここで倒さなければ――
ツルハはゆっくりと歩き、落ちた剣を手に取ると、その剣先を竜人に向け構えた。
その眼は、覚悟の目だった。
「……良き色の眼だ。
貴様のような並みならぬ勇を宿した瞳を持つ者と対峙するのは久しい。
グレンダが、貴様のような乙女を前に敗れたことも、頷ける」
竜人もその剣を構え直すと、剣先をツルハに向けた。




