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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第四章 クグノアーツ学院
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鮮緑の門番5

 赤紫の大小の光が竜の額から勢いよく吹き出すように分散すると、竜は大きく口を開いたまま硬直した。

 零れ落ちんばかりに紅い瞳が、瞬きも忘れ大きく見開き、最後に大きな断末魔を上げると、力無くその体が地上へ落下する。

 地に着く寸前、竜の巨体が黒い霧を吹き出しながら雲散すると、ツルハはドサリと地面に落ちた。


「ツルハッ!」


 ファイガ達はすぐ様にツルハに駆け寄ると、ユズハは倒れたツルハの体を起こした。


「ツルハちゃん……!」


 憂色を浮かべるユズハに、ツルハはゆっくりと瞼を開いた。

 ぼんやりとした視界に、ユズハ達の顔が映ると、ツルハは笑みを浮かべ、親指を立てて見せた。


「ったく、お前って奴は!」

 ファイガは頭を掻きながらツルハに近づくと、その腕をガシッと握り、


「本っっっ当に最高だぜ!!」


 ファイガが白い歯を見せ、声高らかに笑うと、フサン達もその胸にじんわりと広がっていた勝利が実感を帯びてくると、相好を崩した。


「……あれは?」


 その勝利に小躍りする中、ツルハが呟くと、ユズハ達は一斉に振り返った。


 広間の奥に白い光がどこからともなく集まり、それが扉の輪郭を描くと、白銀の門が現われる。

 暗い広間の中、神々しく輝くそれが、"証の間"に続く扉であることはすぐに分かった。



「喜ぶのは外に出てからにするか」


「そうですね」

 ファイガにフサンが頷くと、ツルハ達も首を縦に振る。

 

 【門番】を討伐した7人が扉に近づくと、扉は7人を迎えるように白い光を溢しながらゆっくりとその道を開いた。



 ファイガに続き、1人1人が白い光の中へ吸い込まれていくように消えていく様子を、広間の入口から見つめていたのは、ダウナーと取り巻きの少年だった。

 ユズハ達が広間に入ってから、その重々しい鉄扉が広間への入口を閉ざさなかったのは、その傍で固唾を呑みながら中の様子を伺っていた2人が、その広間へ足を踏み入れることを待っていたためであった。


「あれが証の間に続く扉か」

「ええ。恐らくそうでしょう」

 ダウナーと取り巻きの少年は、ツルハ達が消えた白い光を漏らす扉に笑みを浮かべた。


 上手くいった。


 ツルハ達(やつら)が【門番】を倒す、この瞬間を待った甲斐があった。

 口煩(くちうるさ)い奴らだったが、こういう時には役に立つ。

 【門番】が倒されてしまえば、こっちのもの。

 後はあの証の間へ続く扉を通り、その証を手にすれば、才の試練は終わりだ。

 その終わりへ繋がる門が目に映ると、安堵と同時に湧きあがってきた、一刻も早くこの気味の悪い迷宮(ばしょ)からおさらばしたいという焦燥が心を急かした。


「よし、行くぞ!」

「はい!」

 誰も居なくなった広間に、足取り軽く、ダウナー達は飛び出すと、その出口に向かって一直線に駆け出した。



 ゴオオ……



 その不気味な音に気が付き振り向くと、ダウナー達は目を丸くした。

 入口の左右の門が勢いよく閉じる。


「だ……、ダウナー!」


 暗闇に包まれた広間に、取り巻きの男はダウナーの服を引っ張り、ヒステリックな声を上げる。

 白銀の扉が空気に溶けるように消えていくと、ダウナーは思わず口をパクパクとさせた。


 広間が完全に静謐の闇に包まれると、その壁を覆うように緑色の炎が、ボゥ、ボゥと、不気味な音を上げながら次々と現れる。


 ダウナー達はその様子をただただ見つめていた。

 何が起こっているのか理解できない戸惑いが、徐々に絶望へと変わっていく。

 そして、その硬直した2人の瞳が、空気から浮き上がるように現われた、兜を身に付けた巨大な竜に定まると、ダウナー達はへたりとその場に脱力した。



     ◇◆◇



 鮮緑の巨竜を倒したツルハ達を見届けると、アルフィーとツァイは、胸に張り詰めていた息を大きく溢した。


「やれやれ。何とか、やりやがったな」

「ええ」

 ツァイが言うと、アルフィーは頷いた。


「さて、後はツルハ君達が戻って来るのを待つばかりだ」


 ルベルは水晶を手でゆっくりと一度撫で、映していた景色を消した。


「これで迷宮の試し、しいては才の試練は修了か」

 アルフィーが訊くと、ルベルは頷いた。


「ああ。後は【証の間】でその証を手に取れば、終わりだ。証を手に取れば、自動的に迷宮の外から指定の場所へ転送される。直に、ツルハ君達の帰還及び修了報告が来ることだろうよ」


 その言葉にアルフィーとツァイがようやく肩の荷を下ろしたように穏やかに笑うと、ルベルはその様子に、ほくそ笑むように片側の口角を上げた。

 

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