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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第四章 クグノアーツ学院
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才の試練1

 クグノアーツ学院の巨塔の上層、学院長室がある階の直下には、大きな会議用の部屋がある。

 楕円形の部屋の中央には、学院長室の執務机と同じ赤茶色をした長方形の長机があり、一席の間隔をあけ、10人ほどの学院の高官達が置物のように対座していた。

 学院では、夜集会や朝集会といった、教師達が定期的に話し合う場が設けられるものの、そういった集会に、この広間が使われることはない。

 この広間が使われるのは常に、公に知られてはならない事情、学院の機密に関わることについて話される時のみだけだ。

 そのため、この部屋に入ることが許されていたのは、高官達の中でも、ごく一部の人間――それも、魔術師会に所属し、学院でも大きな影響力を持つ地位にある者達ばかりだった。

 初老を迎え、灰白色の髪の目立つ面々の中、ルベルを除いた若い者の姿があるとすれば、それはシャーロットだ。


 否、ここでは、シャーナと呼ぶべきかもしれない。


 もしこの場に初めて足を踏み入れた者であれば、貫禄ある彼らの中にある、若草のような彼女の姿を怪訝な眼差しで見ることだろう。一生徒であるはずの少女が、なぜこのような場に、当たり前のようにいるのかと。


 しかし、この場では、そのような感情を抱く者こそが異質となる。


 この場にいる誰一人として、彼女の存在を疑う者はおらず、彼女もまた、泰然とした面持ちで年老いた人間達を眺めていた。

 

 

「では、"(ふるい)"については以上となる。これをもって決定とするが、何か異論、質疑のある者は?」


 3日後に迫った"才の試練"についての一連の話を終えると、ルベルは採決を取った。

 異議なし、とした顔つきで、机上の文書を見つめる高官達を一通り眺めると、ルベルは閉会の声をかけようと口を開いた。


「一つ、宜しいですか?」


 しわがれているが、芯のある太い声で一人の高官が手をあげると、ルベルは手で勧めた。

 高官はそれを見ると手を下げ、ゆっくりと白い髭の中から、その口を開いた。


「先ほど話にあった、ツルハ君の件についてです。

 3日後に迫った"才の試練"。それを持って、我々と()()の契約は終わりを迎えるわけでございます。ですが、私には、どうしても払拭しきれぬことが一点あるのです」


「何だ? 言ってみろ」

 ルベルが言うと、高官は畏まり、続けた。


()()と我々、魔術師会の結んだ契約は、ツルハ君の観察、実験――その場としてこの学院を提供することでした。その最終段階として、この度、才の試練が利用されるわけです。

 しかしながら、才の試練は、ツルハ君1人にのみ課されるものではございません。当日は多くの生徒たちが互いに関わり合い、ツルハ君と接触する者も多くいるでしょう。

 ですが、もし万が一、他の生徒たちに危害があったものなら、最悪の場合、この学院の存続にも関わる事態になりかねない。

 私としてはそればかりが不安で仕方がないのです。()()との契約が成立すれば、多大な富が、この学院にもたらされることは理解しております。それが巡って、生徒たちにも恩恵となることも重々承知です。しかし、もし何らかの問題が発生し、事が明るみとなった場合、あの世界騎士団が黙っているはずがありません。

 そうとなれば、この学院は――」


「もう良い、ネルマン」


 ルベルの声で遮られると、ネルマンと呼ばれた高官は顔を上げた。


「学院、学院というが、結局のところ、お前が心配しているのは"生徒たち"のことだろう?

 入学してから教えてきた彼らに万が一のことが遭ったらと考えると、それが恐ろしくて堪らないのだろう?

 学院という盾で話を繕うよりは、はっきりと言ってくれた方が、こちらとしては気分が良いのだがね」


 ルベルが言うと、ネルマンは「畏れながら」と頭を下げた。

 少し荒れた声が聞こえると、ルベルは大きく吐息をついた。


「ネルマン、お前は教育者としては一流だが、為政者としては失格だ。私情に流され、国益を逃したとあらば、それは大きな失態となる。

 だが、私もそう鬼ではない。お前の心配する気持ちも全く分からないわけではない。

 安心したまえ。今回の実験の対象はツルハ君一人だ。それ以外に巻き込まれた者があったとすれば、ただでは済まないと、()()()にも伝えている。

 現に、ギル教師が不運にも巻き込まれてしまったことは居た堪れないが、今度何かあったとすれば、それは、奴らが消滅する時だ。

 他の生徒たちが実験に巻き込まれる心配はない。それに、お前が心配している万が一の事態には、ここにいるシャーナ君が対処に当たる。

 君たちは例年通り、与えられた仕事を()してくれればそれで良い」


 ネルマンはどこか安堵した様子で息をつくと、ルベルに頭を下げた。


「他には何もないか?」


 ルベルが改めて高官達に訊ねると、それ以上声が上がることはなかった。

 その沈黙にルベルは満足したような顔をすると、


「ではこれにて、閉会とする」


 その一言を言い残し、会の幕を閉じた。


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