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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第四章 クグノアーツ学院
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宵の憩い1

「うわっ!」


 昼下がりの学院外の運動場で、爆発音と共に黒い煙が広がると、その中から(すす)だらけになったファイガの姿が現われた。

 ファイガは納得のいかない様子で頭を掻きながら辺りを見ると、


「上手くいくと思ったんだけどなあ」


 ファイガが言うと、同じような姿をしたツルハとユズハも同じような音を漏らした。


「呪文はしっかり覚えて来たんだけどね」

「なんで暴発しちゃうんだろう」


 アルフィーの講義は、いよいよ魔法の実践に差し掛かった。

 机上で話を聞くばかりの座学とは異なり、ツルハ達は胸を高鳴らせていたものの、その結果は散々たるものだった。

 課題で出されていた10の呪文のうち、最も単純な炎魔法を唱えてみるも、大半の者が暴発するか、ロウソクほどの微々たる炎を指先で揺らすばかりだった。

 極端な場合は、ファイガのように爆弾でも爆発したかのような音を上げる暴発か、クーラのように煙だけが指先から立ち昇る程度のものだった。


 予想以上の出来の悪さに、アルフィーも思わず額に手を当てた。


「呪文の詠唱は簡単なのよね」


「そうなんだよな。弾数、系統、属性の順番で唱えれば良いだけだろ?

 こうやって、――オーレ・アータ・フィレ!」


 ボフンッ!


 ファイガが呪文を唱えると、爆発音と共に黒い煙が3人を包んだ。


「げほっごほっ。……ちょっとアンタ! 何勝手に唱えてるのよ!!」

「いや、だって話の流れ的にさ……」


「こら! そこ!!

 勝手に呪文を唱えるな!」


 アルフィーの怒声が飛ぶと、ファイガ達は簡単に謝罪を返した。

 

「だけど、ファイガ君の魔法は凄いよね。暴発だけど、私のなんかより、よっぽど威力があるよ」


 ツルハが感心して言うと、ファイガが調子づく前にユズハが否定した。


「こいつのはただ単に下品なだけよ。力任せの一撃に性格が滲み出てるわ」

「なんだと! この脳筋女!」

「なによ!」



     ***



 2人がいがみ合っている間も無く、講義が終わると、いつの間にか空は茜色に染まっていた。

 寮室に戻ると、2人は早速浴室で煤を洗い流した。

 炭臭(すみくさ)い臭いと汗が、湯と共に全身から完全に流れ落ちると、まるで厚い皮から脱皮したように体が軽くなった。

「ふう」と心地よさに息をつきながら、ユズハが浴室から出てくると、先に浴室から出ていたツルハの姿が蒼い目に映った。


「あ、おかえり」


 机上で魔法書を熱心に読んでいた、その桃色の瞳がユズハに気が付くと、ユズハはツルハの後ろからそれを覗き込んだ。


「魔法書?」


「うん。

 少しでも早く魔法を上手になりたいな、って思って。

 それに、頑張って教えてくれているアルにも、なんだか申し訳なくて」


 ツルハの笑みはとても穏やかな笑みだった。

 なぜだろう。浴室を出てから映った懸命な表情から、その優しい笑みが見えると、胸の内が太鼓のように鳴った。

 ツルハの笑みには、どこか人を元気にさせる不思議な力がある。

 初めてその笑みを見た時もそうだったが、寮室で共に過ごすようになってから、ユズハは、それを心の底から実感していた。

 健気な姿勢に垣間見える、ツルハのその微笑んだ顔が、ユズハは好きだった。


「あんまり根詰め過ぎると、疲れちゃうぞー!」


 じゃれつくようにユズハが後ろから腕を巻くと、ツルハは「ひゃっ」と声をあげた。


「……魔法の詠唱には、精神の統一が不可欠」


 ユズハが、赤い下線の引かれた魔法書の文字を読むと、ツルハは頷いた。


「アルもそう言ってたけど、どうすれば上手く行くんだろう。

 呪文を唱える時は凄く落ち着いていたはずなんだけどなあ」


「精神と気持ちって、別物なのかもね」


 ツルハがユズハの言葉を繰り返すと、ユズハは頷いた。


「父さんがよく言ってた。武闘の道を極める第一は、荒ぶる"気"を制することだって。

 "気"が乱れているうちは、どんな(かた)を修めても自分のものにならないんだって、口癖のように言ってた。

 物心のついた頃は、気持ちの問題なのかなあ、なんて思ってたけど、今この道を進んで、何となくその意味が分かるようになってきたよ。


 ねえ、ツルハちゃん。今からちょっと、私に付き合ってくれない?」


 ユズハが何かを閃いたような顔で突然言うと、ツルハは首を傾げた。


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