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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第四章 クグノアーツ学院
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姉の面影1

「参ったわね」


 廊下を歩きながら、ユズハが声を漏らすと、隣に並んだ朱色髪をした少年、ファイガも同じ音を漏らした。


「ホントだよなあ。"才の試練"に落ちれば、その瞬間ドロップアウト。

 オレ達の学院生活もそこで終わりって訳だ。

 全く、学院長も前からだったが無茶苦茶だよな。ダウナー達にはいい気味だったけど」


「まあ。だけどちょっと可哀想だったよね」

 ユズハが苦笑しながら、そう言った時だった。

 すぐ後ろで「大丈夫!?」という声が聞こえると、ツルハ達は振り返った。


「クーラちゃん……!」


 苦しそうに両手で腹を抱えるように、床に膝をついた少女にツルハはすぐ様に駆け寄ると、その背中をさすった。

 周囲の生徒たちが何事かと囲む中、ユズハとファイガも急いで駆け寄った。


「おいおい、大丈夫かクーラ!?」

「立てる?」


 ユズハの声に、クーラは、か弱く一度頷くと、ユズハとツルハに支えられながら、ゆっくりと立ち上がった。


「私たち、医務室に連れて行くから、次の講義遅れるって、伝えておいて」


 ユズハはファイガにそれだけを伝えると、ツルハに声をかけた。


 クーラはツルハと同じ級に属する、赤毛の女の子だった。

 背は低く童顔のせいか、歳よりも一回り幼く見られることが多かった。

 溌剌(はつらつ)で自信にあふれたユズハとは真逆の性質(たち)で、いつも何かに怯えているような表情をし、その姿通り、気の弱い性格だった。

 試験前になると、決まって気分が悪くなり、彼女が医務室に行くことは、同じ級で過ごしてきたファイガ達にとって慣れたものだった。


「どうしたんだ?」


「クーラがまた腹を痛めたんだ。

 ま、学院長からあんな話をされれば、そりゃあ気分も悪くなるだろうぜ」


 ファイガは小太りの少年、ポッチョにそう答えると、遠ざかっているクーラに苦笑を浮かべた。



     ***



「じゃあ、失礼します」

 医務室の扉を丁寧に閉めると、ユズハとツルハは小走りで講堂へ向かった。


「クーラちゃん、大丈夫かな?」


「まあ、今に始まったことじゃないから、そのうちまた良くなるでしょう。

 けど、才の試練は心配よね。あの子、失神とかしなきゃいいけど……。

 講義が終わったら、また様子を見に来ましょ」


「うん。――ッ痛!」


 ユズハに頷いた瞬間、柔らかい壁のようなものにぶつかると、ツルハはそのまま床に尻をついた。


「痛たた……」


「大丈夫?」


「はい――大丈夫で」


 ぶつかってしまった相手だろう。少女の声に、ツルハは見上げると、ハッとした。


 ふわりと揺れた、太陽のような金色の髪――。

 窓から差し込んだ光の柱に照らされていたためか、その色は一層鮮やかに見えた。

 そして、その白い瑞々しい肌をした顔には、西日のような色をした瞳に、自分の姿が映っていた。


 お姉様――。


 ツルハは一瞬、遠い記憶の景色の中に取り残された。

 心の中で、学院生活を描いた絵の中に埋もれていた、姉の懐かしい姿が、その少女に重なると、ツルハは瞬きもせず、その少女に呆気を取られた。

 しかしそれはすぐに氷解した。

 長い髪を左右に束ねた、幅のある赤いリボンが目に映ると、ツルハの意識は現実へと還った。


「す、すみません! ありがとうございます」


 微笑んだ少女の、差し伸べられた手を掴み立ち上がると、ツルハは、パッパッと衣を払った。


「こちらこそ。よそ見をしてしまっていて、ごめんなさいね」


 少女は簡単に挨拶をすると、そのままツルハ達が来た廊下を歩き、去って行った。

 どこかの貴族出身の人だろうか。

 堂々とした姿勢の良い、後ろ姿は、気品に溢れ、気高さをも帯びていた。

 レオナルドによく似た雰囲気に、ツルハがぼんやりとした顔を浮かべていると、ユズハがのぞき込むように、声をかけてきた。


「ツルハちゃん?」

「はうわ!?」

 驚いた声を上げると、ユズハも少し肩をビクッとさせた。

 ツルハの視線を辿り、その少女の姿を見ると、ユズハは納得したような顔をした。


「クグノアーツの"高峰に咲く一等花(ロードデンドロン)"

 見惚れるのも、無理ないわよ」


「ろ、ロードデン……?」


「高嶺の花ってこと。シャーロットさんは、私達より一年上の上級生だけど、その才能といったら凄いのなんのって。

 成績優秀で非の打ち所の無い才色兼備。教師陣も驚くほどの実力の持ち主で、学院長のお気に入り。

 私たちみたいな一般生徒とは住んでいる世界が違うわ」



読んでいただき、ありがとうございます!

また、ブックマーク、評価、ありがとうございます!!(感謝感激


これからも何卒宜しくお願い致します!

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