宣告2
ルベルが言うと、ツルハ達の面々に、はっきりと戸惑いが映った。
「ふざけるな!」
動揺を切り裂くような声が響くと、お互いに顔を見合わせていた生徒たちの視線は、立ち上がった1人の少年に集まった。
学院制服は皆と同じものの、一際高価に見える腕輪や耳飾りといった装飾品が見えると、その少年が噂に聞く、あのダウナーだとすぐに分かった。
ダウナーはその国では名の知れた貴族の息子であり、学院で何度か目にすることはあったが、ユズハ達から聞く、彼についての話には良い話はなかった。その話の通り、ダウナーは同じような身分の仲間を肯定し、一般的な家庭出身の者達を見下していた。
ダウナーの声が響くと、ダウナーの取り巻き達の数名が鼓舞されたように、抗議の声を上げた。
「これまで入学試験から今に至るまで散々苦労を重ねて来たというのに、才の試練で落ちれば退学だと!? ふざけるなッ!! そんな横暴が許されてなるものか!」
「そうだ、そうだ!」
ダウナー達の声に、ルベルは大きなため息をついた。
「おいおい、才の試練までまだ4月もあるというのに、もう不合格の印を押される気でいるのか?
そのような調子では困るなあ」
ルベルが呆れたように言うと、ダウナーはルベルを指差し言い放った。
「やい学院長! 知っているだろうが、僕はあのモルダ家出身のモルダ・ダウナーだぞ!
僕をそんな無茶苦茶な試験で退学にしたものなら、父上が黙っていない!」
ダウナーが叫ぶと、ツルハ達はルベルの反応を見守るように、ルベルに視線を向けた。
ルベルは、クスッと微笑むと、堪えきれなくなり、大きな声で爆笑した。
突然の爆笑に、ダウナーも驚いた様子で口をパクパクさせるも、すぐにキッとした表情に戻した。
「何がおかしい!」
「いやあ、悪い悪い。根はまだまだお子様なのだなと思ってしまってね」
「なっ――」
ダウナーが次に発言をする前に、ルベルは調子を整えると落ち着いた声で言った。
「ダウナー君を含み、中には彼と同じような意見を持つものが多数いることだろう。
なあに、毎年のことだ。
毎年、お前達みたいな貴族主義の反抗的な輩が声をあげ、同じ話を毎年しなければいけないことになる。
全く、人間というものはいつになっても変わらんものだよ。
君たちが今、この場にいるのはなぜだと思う? この学院の試験を合格して見せたからだ。
この学院で1人1人を直接精査したのは誰だと思っている? ――この私だ。
分かるかね? 私が選んだということは、君たちには魔法の才が本当にあるということだ。
君たちに魔法の才能があることは、この私が保証しよう。
だが、もし才の試練で落ちることがあったとすれば、それは君たち自身の責任だ。
こんなことを言うと、指導する側――我々に問題があるという声をあげる者がいる。
だが、そんなことはない。なぜなら、ここはこの世界で最も魔法を専攻するに適した場所であるからだ。
現に、魔法を学べる場所など多くの選択肢が君たちにはあったはずだ。
レイオン学院、サーバル魔法学術舎、名を上げれば、いくらでも出て来る。
しかしその中で、お前達は、この学院を選んだ。どんなに遠方でも、どんな財政的な事情があっても、知識はあっても才無しと判断されれば落とされる理不尽な試験が課されても――お前達はここに来た。
そうであろう?」
ルベルがダウナー達に向かって言うと、数名の立ち上がっていた取り巻き達は、口をグッと結び、何も言い返せない様子でその腰を下ろした。
「それに、ダウナー君。君が、かのモルダ家出身であることは、もちろん知っている。
そう、君は、かのモルダ・ダウナーだ! 君が周囲の人間より優れていることは、君が言う通り、私も熟知しているよ。
であれば、何を心配することがある?
君が、君の周りの者達より本当に優れているのであれば、間違っても君が不合格で、君が見下している周りの者が合格するなどという事態は起こり得ないはずだ。
それとも君は、自身が周囲より本当は優れていないということを自身の手で証明してしまうのが恐いのかな?
君が父上に訴えたいのであれば、訴えるが良い。
だが、君の御父上はさぞかしお嘆きになられることだろう。たかがこの程度の試練も乗り越えない者が、モルダ家から出てしまったと」
ダウナーの顔は真っ赤だった。
それは赤面なのか、激怒のあまりのものなのか、分からなかったが、言い返したくても言い返せない悔しさを、歯ぎしりの中に滲ませていた。
ダウナーは「クソッ!」という一言に全ての思いを吐き捨てると、席に腰を下ろした。
ダウナーが席に座るのを見届けると、壇上の端にいた老教師が終礼の声をかけ、その会は、閉会した。




