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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第四章 クグノアーツ学院
61/229

宣告1

 クグノアーツ学院の地下には、最も広い講堂がある。ツルハ達がその講堂に集められたのは、最初の講義にあたる頃だった。

 講堂に入ると、ツルハは高い天井を仰いだ。グラディワンドにある国立劇場のような荘厳な内観。講壇から座列が段状に並び、ツルハ達、中級生全員がその席を埋めても、空席が後方に大きく広がっていた。

 騒然としていた空気は、小柄な学院長の姿が壇上に現れると静寂に変わり、一切の音が消えた。

 ギル教師よりも若干(じゃっかん)若いかけ声が大きく上がると、中級生たちはきびきびと立ち上がり、ルベルに向かって礼をした。

 生徒たちの全てが席に着くのを見ると、ルベルは晴れ晴れとした様子で言った。


「諸君、おはよう。朝早くに集まってもらって、すまない。私のように早起きが苦手なものにとっては、さぞかし、苦であったことだろう」


 ルベルの口調には、どこか独特なものがあった。

 無邪気で軽々とした声調には、どこか鋭い棘のようなものがあり、その声を聞く者には、シュルシュルとその舌を見せている毒蛇を前にしている時のような警戒心を抱かせた。

 そのため、冗談なのか、場を和ませるためなのか分からない言葉に講堂内は、シンとし、妙な緊張感を一層増長させた。

 しかし、ルベルにとって、そんなことはどうでもいいのだろう。

 特に気にする様子もなく、ルベルはその口調のまま、話を進めた。


「さて、今日諸君に集まってもらったのは他でもない。4(つき)後に行われる、"才の試練"について、その詳細を諸君に話すときが、ついに訪れたのだ」


 才の試練。それは、魔法を本格的に学び始める中級生たちに課される大きな試験を指す言葉だ。

 中級生たちは、学期の中間にあたる時期に、学んだことの成果を示す試験が課されることになっていた。その試験の内容は、魔法陣や系統ごとの魔法の効果や応用性といった、知識を問うものと、実際に魔法を扱う実技を評価するものの2つ。

 それ以上のことについては、ユズハ達も知らない様子で、ツルハもその概要を越える範囲については全く知らない状態だった。


 その概要をルベルは簡単に説明すると、生徒たちの表情も、どこか安心した様子だった。


「さて、ここからが特に重要なことだが諸君」


 ルベルが声調を変えたのは、説明の終わりに差し掛かった時だった。

 早くこれを発表したくてウズウズしていたかのような、これを聞いた生徒たちはどんな反応をするのだろう、といったような、下衆な笑みが紅玉のような瞳の下に現れると、ルベルは言った。


「普遍的で退屈な一般教養を学んだ諸君は、いよいよこれから、この学院の醍醐味である魔法、魔術についてを学ぶことになる。恐らく、もう少しすれば魔法の実践を含めた講義も行われることであろう。

 この4(つき)は、君たちにとって非常に重要な時期となる。

 それはそれは、とても重要な時期だ。

 君たちはこれから魔法というものに触れ、それを実際に扱い、その力で世界に貢献していくわけだが、何事も出だしというものが肝心でね。

 成長し遅れた虫や魚は成体になることは許されず、飛び遅れた雛はその空を飛ぶ未来を失い、信仰を集め損なった神々は早いうちに忘れ去られていく――これが自然の摂理というものだ。

 魔法においてもそれは同じだ。

 魔法を習得し始めた頃というのは、その者が本当に魔法を扱うにふさわしい者であるかを教えてくれる。この時期での成長を見れば、今後どのような成長を遂げていくのかが大体分かる。この時期で学院の設ける基準に見合う成長を遂げれば、将来魔法を扱う上で困ることはないだろう。どんな状況にあろうと、その第一線に立てるというわけだ。

 だがこの時期で成長が見込まれなければ、この学院から輩出される魔法使いとしては不適切ということになる。大器晩成という言葉があるが、あいにく私はその面倒を見るほど暇ではない」


 ルベルが話を進めるにつれ、講堂内にはザワザワと不安と動揺を帯びた波が広がっていった。

 そして、ルベルがその言葉を言った時、講堂内の騒めきは、どおっと音を立てた。


「才の試練――私達はこれを"(ふるい)"と呼んでいるが、もう私の言いたいことは分かるだろう?

 才の試練の合格基準に満たなかった者、その全員はその日をもって、学院を去って頂こう」


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