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ツルハと宝剣2

「認めません」


 限られた者だけが集められた昼の王の間に、エステカ妃の冷たい声が走った。

 それを聞くと、レオナルドは堰を切ったような声で言った。


何故(なぜ)ですか母上!

 なぜ私が勇者として偽らなければならないのです!」


 レオナルドが言うと、エステカ妃は冷めきった眼光で応えた。


「ツルハが勇者である。それは紛れもない事実です。

 これは私も重々、心に置いています。


 ですが、レオ。


 貴方が生まれ間もなくした時から、王も、私も、そしてそこにいるアルフィーも、誰もが貴方を勇者と考え、この日を待ち望んで来ました。それはこの国の民も同じこと。

 それがもし、勇者であったのは貴方ではなく、ツルハだったと皆に知られれば一体どうなると思いますか?」


 エステカ妃は、特製の鞘に納められたツルハの両腕に抱かれた剣を見下ろした。


「ツルハは予言にあった"大いなる闇"とやらを祓う力を持つ剣を扱うことができます。しかし、ツルハは実戦経験は愚か、その剣の才でさえ怪しい。


 ツルハにできることは、ただその剣を持つことのみです。


 そんな頼りの無い話で、国民が安心して過ごせると思いますか?」


 ツルハは恐怖のあまり震えていた。

 剣をギュッと抱きしめ、手からは嫌な汗が見えた。


「しかし盲点でした。ずっとレオナルドを勇者と思い、あなたをそれに相応しい子に育てることばかりに専心していたものですから。

 あの夜、()()()()()()()()()()ことを見落としていたのは、私の不注意でしたね」


「母上ッ!!」

「王妃ッ!!」


 アルフィーとレオナルドから同時に我慢ならぬ雷の声が上がると、ツルハは2人を抑えた。


「良いのです、2人とも。

 お母様は何も間違っていません。私が、私が全部悪いのです。

 私がもう少し真面な子だったら……。ごめんなさい、お母様、お父様。

 ごめんなさい、お姉様」


 とうとうしゃがみ込み、ツルハが泣きだしてしまうと、レオナルドとアルフィーはすぐに駆け寄り、その背中を摩った。

 


「エステカ様、ご無礼ながら少々過言なのでは」

 その光景にいたたまれない気になった騎士団長の言葉に、大臣もうんうんと頷く。


「それに王妃。このままレオナルド様が勇者様と民に告げたとしても、事態は変わりませぬ。"大いなる闇"には、何としてもツルハ様に立ち向かって頂かなくては」


 エステカ妃はしばらく考え込むように沈黙すると、顔を上げた。


「分かりました。ではこうしましょう。

 ツルハ」


 名を呼ばれると、ツルハは顔を上げる。


「これより貴方には、この国を出て旅に出ることを命じます」


 その言葉にレオとアルフィーが咄嗟に口を挿もうとするも、エステカ妃はそれが出る前に、話を加えた。


「国を出て、世界のあらゆる国、あらゆる地を巡りなさい。そして、この国を脅かすであろう"大いなる闇"の正体を掴むのです。

 世界を巡れば、少しばかりは今よりは真面まともな心身になることでしょう」


「しかし、姫一人で旅など……」


 アルフィーが言うと、王妃はアルフィーに向き直った。


「心配であらば、貴方は姫とその身を共にしなさい。姫の幼い頃からの付き合いである貴方ならば、姫のことには誰よりも精通していることでしょう」


 淡々とした口調に、アルフィーは怒るどころか呆れ果て、ただ、「分かりました、では私は姫の御伴として姫と共に旅立つことに致しましょう」と返した。


「ただし」


 エステカ妃は加えた。


「レオナルドはこの国に王として残り、勇者として振る舞い続けてもらいます。これは民達の為でもあり、この国の為でもあるのです。

 また、ツルハが勇者であることは城中最低限の者に限り、国家機密とします。宜しいですね」


 王妃が大臣と騎士団長に目を向けると、2人は深く頭を下げ返事をした。


読んで下さり、ありがとうございます。

少しでも先が気になると思って頂けたら、ブクマ、下記の☆☆☆☆☆より評価の程宜しくお願いします。

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