表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第四章 クグノアーツ学院
59/229

ツルハとユズハ2

 部屋に備えられた浴室から、(よい)の衣装に身を包んだツルハが出てくると、鏡台で髪をとかしていたユズハは、ツルハに振り向いた。


「あっ、おかえり。湯加減、大丈夫だった?」


 ユズハが訊くと、ツルハは頷いた。


「とっても良いお風呂でした」


 ツルハが言うと、ユズハは笑みを返し、手招きをした。

「座って」と、(くし)を片手にしたユズハが鏡台に勧めると、ツルハはちょこんと鏡の前に腰を下ろした。

 見慣れた桃色の髪。しかし、ツルハの視界の焦点は、鏡に写った自分の背に座った少女にすぐに切り替わった。

 一つに束ね下ろしていた髪を解いた、ユズハの姿は、昼間とは少し違った印象をツルハに与えた。

 美しい艶のある髪は、櫛で()かされ、一層その藍を鮮やかに見せた。その整えられた髪の下に映る乳白の素顔も、よく見れば、華奢な輪郭の中にどこか落ち着いた雰囲気があり、東国の貴族のようにさえ思えた。


「綺麗な髪ね」


 ツルハの髪を梳かしながら、ユズハが言うと、ツルハは口元を思わず和らげ微笑んだ。


「こうして誰かに髪を梳いてもらうの、久し振り」


「そうなの?」


 ユズハが訊くと、ツルハの頭に、ある侍女の姿が浮かんだ。

 白い髪の混じり始めた、陽だまりのような優しい顔。その顔と共に、いつかの夕暮れ時の景色が浮かぶと、ツルハは昔を懐かしむように言った。


「国にいた時、よくこうして髪を梳いてもらったの。幼い頃からずっと私の身の回りの面倒を見てくれている人で、厳しい人だったけど、凄く優しい人だった。

 幼い頃の私は髪を梳かれるのが凄く嫌で、その他のことなら何でも我慢できたんだけど、どうしても髪を梳く時間になると癇癪を起こして困らせていたの。

 だけどある日から、その人は髪を梳く時間になると、私に昔ばなしをするようになったの。不思議な話やワクワクするような冒険譚。いつの間にかそれを聞くのが楽しみになって、髪を梳かれるのも好きになったの」


 ツルハはそこまで話すと、ハッとして、口に手を当てた。

 思わず王国でのことを話してしまった。素性がばれてしまったのでは――。

 そんなキリキリとした感情のまま、その顔はすでにユズハの方に振り向いていた。

 しかし、ユズハは驚くどころか、安堵したような穏やかな顔をしていた。

 ツルハの表情から、その気持ちが伝わったのだろう。ユズハは、そんな様子で言った。


「そんな気がしてた。

 だってツルハちゃん、凄く大人っぽいし、礼儀正しくて、飛び級してるんだもの」


「ごめんなさい、私……」


 なんだか申し訳ない気がした。

 今目の前にいる少女は、自分より1年多く、この学院で過ごしてきたのだ。本棚やその机上を見れば、彼女がどれほど努力を積んで来たのかが、垣間見えた。

 そんな彼女と同級に編入したことは、まるでユズハの頑張った一年を嘲るようで、酷く辛い気持ちになった。

 ユズハはシュンとしたツルハの顔を見ると、何をツルハが気にしているのか、というような声で言った。


「どうして謝るの?

 私、今凄く嬉しいんだ。だって、こんなに凄い子と友だちになれたんだもの」


「友だち?」


 ツルハが訊くと、ユズハは強く頷いた。


「ツルハちゃんが嫌なら、私もツルハちゃんのことは黙っておくよ。誰にだって、人に知られたくないことの1つや2つ、あるんだから。

 身分なんて関係ない。ツルハちゃんがどこかの国の偉い人じゃなかったとしても、私はツルハちゃんと友だちになりたいな、って思うもん」


 ユズハの言葉は、頭には入って来なかった。

 その優しい言葉の一つ一つが、直接心に温かく触れた。


「ツルハちゃん!?」


 その気持ちが先に涙となって表れた時、ツルハはようやくその気持ちを理解した。


「ごめんなさい。

 その……私、すごく嬉しくって。本当に、嬉しくって」


 涙交じりの声でツルハが言うと、ユズハはハンカチを手に取り、ツルハの涙を拭いた。

 ツルハはその布を手に取ると、ユズハの手を握った。


「これから宜しくね。ユズハちゃん」


 ツルハが言うと、ユズハも穏やかに微笑んで頷いた。


「こちらこそ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ