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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第四章 クグノアーツ学院
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ルベル3

 アルフィーが言うと、ルベルは驚いたように眉を上げた。


「おいおい、何を言い出すかと思えば。一体今の話から、どうすればその結論に至るんだ?」


 ルベルが訊くと、アルフィーはゆっくりと、鋭い声調で話した。


「ルベル。私はさっき、その青年は何者かに殺害された、と話した。

 その青年、セバがこの学院に無関係であったとすれば、そのペンダントを彼が持っていたことは、とても不自然なことだ。

 だとすれば、このペンダントの持ち主は、1人に絞られる。セバを殺めた奴だ。

 セバが学院に通う者から強奪した線もあるが、この学院に来た時、念のために管理局に確認をしたんだ。

 ペンダントについて、紛失届があるかを。

 だが、紛失届はゼロ。過去に遡っても、紛失届はない様子だった。

 だとすれば、セバがペンダントを学院の生徒から奪った線は消える。そして、紛失届がないことを考えると、自ずとセバを殺めた犯人も分かってくる。

 この学院に通う生徒で、今ペンダントを所持していない者――そいつが、セバを殺めた奴だ」


「…………」


「そしてもう一つ、私達は合成魔物(キメラ)について確信していることがある。

 私達が出くわした一連の事件では、その全てに黒衣装の少女が関係していた。

 私はようやくサニットの町で、その少女の姿を見ることができた。奴は、セバと共に私達の前から姿を消した。つまり、セバが最後に関わった人物は、その少女である可能性が高い。

 そして奴は、変身する能力を備えていた。

 この学院の生徒に扮し、身を潜めている可能性は十分にある」


 アルフィーが話すと、ルベルは睨めるような顔でアルフィーを見つめた。

 そして、「はあーあ」と大きくため息をつくと、参った、とでも言うような様子で言った。


「流石に、ペンダントを見せられた時には、隠しきれないと思ったよ。

 何せ、相手はお前だ。欺こうとする方が愚かだ」


 驚愕の衝撃に、アルフィーは胸を叩かれたような顔になるも、彼が何か声を発するより先にルベルは話を続けた。


「アルフィー、お前の推理は的を射たものだ。

 お前の言う通り、今この学院でペンダントを所持していない者がいれば、そいつはお前の追っている者だろう。

 だが、今の奴には一切関わらないべきだ」


「それは、どういうことだ?」


「言葉通りの意味だよ。下手に手出しをするのは、危険ということだ。

 まさかお前は、奴を討ちさえすれば事が全て明るみに出る、などとでも考えているのか?

 それは違うな」


 ルベルが首を振ると、アルフィーは警戒の表情を浮かべていた。

 そして、険しい表情の通り、声調にも荒々しさが滲み始めた。


「お前は一体何を知っている? 奴とどんな関わりがある?」


 アルフィーが問い詰めるも、ルベルはクスッと笑い、立ち上がった。

 そして、部屋の隅にある机上に歩み寄ると、整然と並べられたチェスの駒に手をかけた。


「そう声を荒げるな。

 アルフィー。この世界には大きく2つの勢力がある。

 1つは、闇の支配する魔の世界から飛来し、この世界の支配を企む勢力。もう1つは、この世界をその脅威から護らんとする勢力だ」


 ルベルは黒いポーンと、白いポーンを一つずつ、動かした。


「この世界には、種々雑多の悪と善が跋扈(ばっこ)しているが、光と闇、大同小異、大きくまとめてしまえばそういうことになる。

 まさに、このチェス盤はこの世界の縮図というわけだ」


 ルベルの手から離れたチェスの駒たちは、まるで何かに操られているように、交互に駒を進めて行く。



(おびただ)しい程の年月、この2勢力の争いは私達の誕生する遥か前から繰り広げられてきた。

 黒が駒を進めたかと思えば、その主将を討たんとするように、白もその歩兵達を敵地へ進めて行く。

 だが、勝敗は一向につかずだ。

 最初は軽々と進めていた軍も、その勢いが衰えていく。そして次の一手を打つ時間の間隔は徐々に開け、今ではまるで時間が止まったかのように静かだ。

 この拮抗状態こそ、今の世界の状態だ。

 さて、困ったものだ。この退屈な戦況は一体どうすれば先に進めるのだろう?」


 バンッ!

 大きな破裂音と共に、チェスの台上に火花と共に白い煙が噴き出る。

 その煙がすぐに消えると、傷だらけになったチェス台の上には、駒の残骸が粉塵のようにその跡を残していた。

 指先の魔法煙を、フッと吹き払うと、ニヤリとルベルは笑みをこぼした。


「アルフィー。この世界はまさにこのチェス盤そのものだ。

 だが、そうであるならば、このチェス盤の外にいる私のような存在がいてもおかしくはあるまい。

 自由に駒を消すこともできれば、駒を作り直すこともできる」


 ルベルが指を、ヒョイヒョイと振るうと、チェス盤と駒たちは見る見るうちに復元され、新品のような輝きを帯び、元の状態に配列された。


「さらには、このつまらない戦況を好きに変更することもできる」


 ルベルがそう言うと、カタカタと駒たちは動きだし、数体の黒い駒たちが白のキングを囲むように瞬間移動をした。

 アルフィーは息を呑んだ。ルベルが言わんとしていることを、それが頭の中によぎると、ルベルはその言葉を言った。


「アルフィー。お前が今戦おうとしているのは、そういった存在だ」

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