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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第四章 クグノアーツ学院
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ルベル2


「バカな! お前、どうやって魔術師会に忍び込んだ!?」

 アルフィーは思わず怒声のような声で叫ぶと、首を横に振り、言い直した。


「いや、もはやそんなことはどうでも良い。一体どんな手を使って、魔術師会の長にまで上りつめた?」


 アルフィーの動揺は、雷が落ちたように大きくその平静を揺るがした。


 魔法大国クグノアーツ。その中核を成すのは、この学院であり、その長であった。

 だが、その長であることは、同時に、その者が魔術師会の長であることを意味した。

 魔術師会は、世界の名立たる魔術師たちによって結成された、魔術師、魔法使いたちの大きな組織だ。

 歴史を辿れば、このクグノアーツの建国には、彼らの存在が大きく関わる。

 魔術師、魔法使いの才を持つ者達を世界中から集め、その力を開花させ、世界に貢献する者達を育てることこそが、かつて彼らがこの地に学院を設立した大きな目的だった。

 その信念は今も変わらず、この学院はその組織によって支えられ、その長は、魔術師会の長によって引き継がれている。


 しかし、アルフィーを大いに驚かせたのは、そのような善意的な思想を掲げる組織の長に、ルベルという、目の前の少女が就いていたことだった。

 ルベルの性悪な性質は、度々その微笑みに表れた。彼女の心に宿る邪悪は、余程隠しきれないものなのだろう。

 ルベルは、その邪悪を含んだ声で、からかうように一笑した。


「おいおい。まるで私が邪道を歩んで、ここに座しているような言い方だな?

 悪いが、きっちり正道を踏んで、ここまで至ったんだよ」


「魔術師会が、()()()()()()お前を受け入れたとでも言うのか?」


 アルフィーが言うと、ルベルは吐息交じりに肯定した。


「ああ、そうだよ。彼らは、私を受け入れたのさ」


「バカな。奴らが人間以外の者を受け入れるなど、あり得ない!

 ましてや、お前のような血を引く者など――」


 驚きを隠しきれない様子で、アルフィーが言うと、ルベルは大きく息をついた。

 そして、アルフィーに姿勢をしっかりと向き直すと、静かな声で言った。


()()()()()。確かに、少し前までであれば、魔術師会は、私を会に引き入れるようなことはしなかっただろう。

 いや。魔術師会はおろか、人の住む世界で暮らすことなど、考えられなかった時代だ」


 ルベルの声は、先程と違い、重みを含んでいた。

 ルベルは椅子を鳴らし、立ち上がると、窓辺に歩んだ。


「今でも、ここから町を見下ろすたびに思うんだ。私は、夢を見ているんじゃないかと。

 人の世界に立ち、人の中に入り、人を教え導いている」


 雲の下に見える白亜の都市から、その視線を、ガラスに触れていた掌と共に離すと、ルベルはアルフィーに向いた。


「アルフィー。世界は変わったのだ。

 少なくとも、私とお前が生きていた、あの頃とはな。だからこそ、私は魔術師会の長になり、お前もグラディワンドの心肝(しんかん)になれた」


 ルベルが言うも、アルフィーは黙したままだった。彼女の的を射た言葉に、それに気付かされたことに、アルフィーは答えることを忘れた。

 アルフィーの表情に、ルベルはクスッと微笑んだ。


「正道を歩いて来たとは言ったが、邪道を歩む必要はなかった、と言ったほうが正しいのかもしれんな。

 もし、世界が世界であれば、私は邪道の道を快く選んでいたことだろう。

 ああ、もう少し世界が腐っていれば、私も躊躇うことなく非道を突き進めただろうに」



「……まだ、()()()()()()のか?」


 ルベルの瞳に、一瞬映った暗い光を、アルフィーは見逃さなかった。

 それを確認するように、真剣な眼差しで訊くと、ルベルは当然であるように大きく頷いた。


「ああ、勿論だとも。

 それは私の野望であり、悲願であり、存在意義であるのだから」


 鉛だまを受けたような、鈍い衝撃が、冷たく胸に落ちた。

 本心、その言葉は聞きたくなかったのだろう。心に落ちた重たい感情に、アルフィーは気付いた。

 ルベルはゆっくりと椅子に再び腰をかけると、机上で指を組んだ。


「アルフィー。私が今この地位にいるのは、善意によるものだと思うか?

 そんなはずがないだろう。

 私が魔術師会の(おさ)となり、この国の頂点に立ったことは、私の大いなる野望の過程のうちに過ぎない。

 私は必ずやり遂げてみせるよ。私達一族のためにもね」


 鋭いナイフのような眼差しが、ふと少し和らぐと、ルベルは顔を上げた。


「さて、今度は私からの質問に答えてもらおう。

 単刀直入に言うと、お前達がこの学院に来た目的だ。まさか、ただの修学が目的という訳ではあるまい」


 ルベルが苦笑して訊くと、アルフィーはルベルに歩み寄った。

 そして、懐から取り出した、ある物を机上に差し出した。


「これは……、学院のペンダントではないか。

 妙に血臭いが、どうやら面倒なことを持ち込んで来たみたいだな」


「ああ、その通りだ。

 世界各地で目撃されている、異常な合成魔物(キメラ)については知っているか?」


「知っているとも。いつぞやか、アーサーの奴がこの国に調査に来たよ。

 十中八九そうなんだろうが、お前もここを元凶と睨んで来たんだろう。それは無理もない、世界で魔法に関することといえば、ここが出本と思われても仕方がないからな。

 だが、もしアーサーと同じことだけで、ここに来たとあれば、それは無駄足だぞ。残念ながら、我々には関係ないの一言で、さよならだ」


 虫を払うようにルベルが言うと、アルフィーは言った。


「私達は、これまで2体の合成魔物と出くわした。

 1体は、アルンベルンの町で。もう1体は、サニットの町でだ。

 そのサニットの町で、その魔物と深くかかわっていた者が所持していたのが、このペンダントだ。

 その者は、残念ながら何者かに殺害され、自白をさせることはできなかったが、このペンダントが真相を追う手がかりとなったんだ」


「それで、この国に訪ねて来たわけか。

 確かに、このペンダントは、クグノアーツ学院に通う者のみが、その所有を許されている。裏を返して言えば、学院に無関係の者がそのペンダントを持つことは、許されていないということだ。

 院を卒業、あるいは何らかの事情で中退した場合は、ペンダントは学院に返還されることになっている。

 つまり、ペンダントの所有は、その者がこの学院に現在進行形で籍を入れていたことを表す」


 アルフィーは頷いた。


「そのペンダントを持っていた者は、セバという青年だ。サニットの富豪、ボルツマンに執事として仕えていた」


 アルフィーが言うと、ルベルは掌を返すように言った。


「残念ながら、セバなどという人間はこの学院に在籍はしておらんよ。

 この学院に通う生徒は、将来魔法の才を輝かせる原石だ。一人一人、私がこの眼で確かめた上で入学させている。だから、全生徒の名前くらい、しっかり覚えているんだよ」


「そうか……。

 だとすれば、この学院の中に黒が混ざっていることは間違いないな」


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