ルベル1
「うむ、あの様子であれば心配はないだろう」
学院の少女達と共に、嬉しそうに学堂を出て行くツルハの様子を、廊下の奥から眺めて言うと、ルベルはアルフィーに向き直った。
「さて、では参ろうか。アルフィー君」
ルベルが言うと、ツルハの姿を見つめていた、アルフィーの安堵の眼差しは、険しい光を帯びた。
少年少女の無邪気な声を後に、昇降機の扉が閉まると、2人を乗せた透明な四角の箱は天上へ向かって昇った。
「全く、腐れ縁というやつかね。まさか再び、こうしてお互いに顔を合わす日が来ようとは」
昇降機を降り、ガラス張りの美しい廊下を歩く中、ルベルが苦笑気味に言うと、アルフィーも同じ声調で返した。
「それはこっちの台詞だ。
この国は私をおかしくさせそうだ」
「まあ、そう言うな。せっかく数十年振りに再会できたんだ。
あとで茶でも手に、募る話に華を咲かせようではないか。
最近はハーブティーに凝っていてね。特にこの水晶宮から飲む茶は格別なんだ」
「良いから、さっさと学院長に会わせろ」
学院長室の扉の前に着くと同時に、アルフィーがそう言うと、ルベルはクスッと笑った。
「お前は目に濁り水晶でもはめているのか?」
昔ながらの、癇に障る口癖がルベルから漏れると、アルフィーは眉を顰めた。
怪訝な顔をするアルフィーに、ルベルは学院長室の荘厳な扉を開くと、中に案内した。
本棚や応接用のソファ、あらゆるものがきちんと整頓され、余計なものの一切ないその部屋は、その部屋に座する者の清廉さを表しているようだった。
まるで壁がないように透き通ったガラスの壁からは、空を漂う雲が浮かび、そこが天上界のようにさえ思わせる。
「ようこそ、アルフィー君。我がクグノアーツの玉間たる、私の部屋へ!」
ルベルが空になっていた、高潔な雰囲気を放っている執務机に手をかけて言うと、アルフィーは目を丸くした。
「……お前が、学院長!?」
指を差し、魚のように口をパクパクさせていた、アルフィーからようやく声が出ると、悪戯に成功した子どものような表情でルベルは席に座した。
「そうとも。
私がこの学院の長にして、クグノアーツの最高権力者。ルベル・リレーデ様だ」




