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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第三章 夜を駆ける悪魔
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夜を駆ける悪魔6

 シュヴァルツとロッソは、一瞬その()に怯えた。

 しかし、それを押しつぶすように大きく咆哮すると、2体はツルハを囲むように左右からそれぞれ襲い掛かる。

 蹴り飛ばした地面はめくりあがり、(つぶて)のように土が宙に砕けた。

 そんな速度にも関わらず、ツルハはその2体の動きをしっかりと見切っていた。

 研ぎ澄まされた眼光の中に、黒毛の馬の姿と赤毛の馬の影が静止したように映った刹那、ツルハは手首を軽く(ひね)った。

 剣を大きく縦に振るった黒毛の馬の斬撃を交わすと、そのツルハの剣はその勢いのまま宙を滑らかに横に滑る。


≪ヒヒィィィィィンッ!!!≫


 ロッソの、岩のような腿に一直線に駆けた裂け目から扇状に赤黒い血が、悲鳴と共に吹き出すと、ツルハはすぐにその視線を黒馬に切り替えた。

 黒馬の振るった剣が、屈んだツルハの頭上を過ぎると、ツルハは声をあげ、剣を振り上げる。

 シュヴァルツの胸元から片目にかけ、白銀の光が走ると、シュヴァルツもロッソと同じ声を上げた。


 片足を地に付けた、ロッソがギロリとツルハに目を向け、剣を振るおうとした、その時だった。

 小さな、しかし流星のように素早い火球が面の側面に激突すると、ロッソはその勢いに地面に顔を付けた。

 それは、アルフィーの放った魔法だった。

 それに続き、ツァイが剣を横に構え、立ち上がろうとする、ロッソに振り下ろすと、ロッソはギリギリその斬撃を防いだ。

 しかし、あまりに強力な一撃だったのだろう。

 ロッソの軋む剣はガラスのように粉々に砕けると、ツァイの漆黒の刃はロッソを真っ二つに切り裂いた。


「馬の尾ッ!」


 ツァイの声に、ツルハは振り返ると、その斬撃を剣で弾く。

 仲間の加勢に油断した少女に、確実に入った一撃と思ったのだろう。

 反撃に動揺したシュヴァルツは、大きく剣を振られ、コントロールを失うと、少女の光り輝く剣の刃がその目に映った。


「はああああああああッ!!」


 無数の閃光のように、剣戟が繰り出されると、シュヴァルツは、もはやそれを防ぐ(すべ)はなかった。

 強化された肉体という鎧は、切り刻まれ、最後の突きが、上向きになったその顎から、後頭部にかけて貫くと、黒馬は石像のように静止した。

 ツルハが剣を引き抜き、その魔物が崩れ落ち雲散すると、セバも膝から力が抜けたように、地に落ちた。


「そんな……、あのシュヴァルツが……、あのロッソが敗れるだなんて……」


 3人の怒りに満ちた眼が振り向くのが見えると、セバは「ひぃっ!」と怯えた声をあげ、地面をもがく様に立ち上がった。


「なっ……」


 セバが立ち上がった先には、いつの間に現れたのか、十体ほどのケンタウロス達が鋭い目でセバを見下ろしていた。


「さてと……」


 後方から鬼王がゴキゴキと首を鳴らすと、セバは竦み上がり、震えた声で叫んだ。


「ま、待ってくれ!

 私は、ただ頼まれただけなんだ!」


「知っています。だけど、セバさん。

 私達は、あなたがしてきたことを赦すつもりはありません」


 ツルハが言うと、セバは「くっ」と顎を引いた。


「そ、そうだ! せかい、世界騎士団だ!

 お前達は世界騎士団の回し者だったはずだ!

 もしここで私を裁けば、それは私刑以外の何ものでもない! そうだろう!?」


 セバの死に物狂いの声に、アルフィーは落ち着いた声で答えた。


「ええ、そうですね。貴方には、騎士団による、法の裁きを受けてもらいます。

 ですが、今回の事で被害を受けたのは人間ばかりではありません。

 人間の罰を受けた後には、()()による裁きも受けてもらいましょう」


 アルフィーの視線が、背後にいる獣人たちに向けられると、絶望の目がセバに走った。



 動揺が走ったのは、その時だった。

 ケンタウロス達の中から、一体のケンタウロスがセバの前に躍り出ると、セバは恐怖のあまり悲鳴を上げた。

 ケンタウロスは、アルフィー達とセバの間に入ると、ツァイは叫ぶよりも前に、ツルハとアルフィーの頭を掴み、咄嗟に地に伏せる。

 ケンタウロスの指先から銃声が上がると、ツァイは顔を振り上げた。

 白煙の尾をひいた、ケンタウロスの指が拳に握られると、ケンタウロスの姿はぐにゃりと歪み、小柄な人型になる。


 若い屈強な体が、華奢で可憐な体つきに変わると、そこにいた全ての者が目を丸くした。


「てめェは……!」


 先に声を上げたのは、ツァイだった。

 黒い執事のような衣服に、白い肌。肩を越え、先に癖の入った金髪が月光に照らされると、ツルハとアルフィーも口を開いた。

 その姿は、話に聞いてた少女の姿だった。


 アルンベルンで見た時には、黒眼鏡で覆われていた目も露わになり、琥珀と翡翠のような2つの目が、ツルハ達を見下ろしていた。

 ツァイが動揺から醒め、剣に手をかけた時には、少女は襟に付けられた、黒い宝石のようなひし形に手を当てていた。


「待ちやがれ――!」


 ツァイが叫ぶと共に、夜の黒よりも黒い、そのひし形が、セバと少女を覆う程に大きくなると、それは一瞬でプツリと中央に吸い込まれるように消えた。

 


     ***



 草原の景色が一瞬で森の暗い景色に変わると、セバはキョロキョロとした。

 背後に立っている少女の気配に驚くと、セバは思わず身構えた。


「お、お前……!」


「貴方は失敗した」


 感情のこもっていない、誰かの言葉をそのまま話しているような、そんな声で少女が言うと、セバは焦ったように言った。


「ち、違う!! 私のせいではない!

 そもそもの要求が過大だったんだ!

 敵はあの鬼王とグラディワンドの賢者。それに加え、イレギュラーの少女だ!

 一体あの小娘は何なんだ!?

 お前からは、あれはグラディワンドの第二の姫と聞いていた――まさか!

 グラディワンドに生まれた勇者。それは、レオナルドの方ではなく、あの娘だったというのか!?」


 セバがハッとした声で訊くと、少女は答えた。


「それを確かめるために、あなたに預けた、あの魔物達で試した。

 紅蓮の戦士(グレンダ)との戦いで見せた、鬼王とあの子の戦闘は、私達の主人(マスター)にとって非常に興味深いものだった。

 鬼王は、これまで私達の実験の中で、何度かその戦闘を目の当たりにする機会があった。


 だけど、あの子は違う。


 あの子は、グレンダとの戦いで、私達の予測を遥かに超える力を見せた。

 これまで見たことのない、著しい力の上昇。

 私達の主人(マスター)は、すぐにあの子の正体を突き止めた。

 グラディワンドの第二の姫、ツルハ姫。レオナルドの陰に隠れた、リオールのもう一人の娘。

 けど、彼女のことは、これまで表舞台で語られることは滅多になかった。それは、姉のレオナルドが優れていたから。

 だけど、彼女は、私達が見過ごすことのできない、大きな力を持っている。

 彼女が勇者であるかを確認するためにも、あの子の力を再観測することは、今回の戦闘の目的の一つだった」


 少女が言うと、セバは振り払い言った。


「ならば、目的を果たしたも同然じゃないか!

 ロッソとシュヴァルツは倒されたが、あの小娘の力は発揮された!

 お前達にとっても、十分な結果を得られたはずだ! これでも、お前は失敗というのか!」


 怒鳴り声のように、セバが叫ぶと、少女はコクリと頷いた。


「お前では話にならない!

 お前達の主人(あるじ)と話をさせろ! お前達の主人は、お前の()()()を介して見ているのだろう!」


 セバが言うと、少女はゆっくりと静かに口を開く。


「そう。私達の主人(マスター)は、私達の目を通して、あなたを見ている。

 それだけじゃない。あなたの話していること、あなたの行動、私が映している全てを、主人(マスター)は見ている。

 けどそれは、()()()()()()()

 主人(マスター)の生み出した魔物達(もの)も同じ」


 セバはその言葉を聞くと、嫌な汗が頬から落ちた。


「少なくとも、あの戦闘で、あなたは彼らに私たちとの繋がりを話した。

 それは、ロッソ達を介して主人(マスター)は知っている。

 私達はもう、あなたを信頼することはできない」


「待――」


「さようなら」



 バンッ!

 銃声が森の中に響くと、少女は白い煙の出ている指先をおさめた。

 そして、懐から()()を取り出すと、それを倒れた男の横に投げ捨て、襟に付けた黒いひし形を広げ、黒い空間の中に消えて行った。


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