表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第三章 夜を駆ける悪魔
40/229

夜を駆ける悪魔2

 夕焼けに染まった空の下の草原は、火の野のようなオレンジに染まっていた。

 焼野のように日に照らされた草の影が、野を所々黒くし、その中をツルハ達は馬を引き連れ、曲がりくねった土道を歩いていくと、森のもさもさとした影が彼方に見えて来る。

 その森を成す木々の形が鮮明に見えて来る頃には、夜の紺が西にかかり始め、落陽はその色を残したまま、空の果てに沈みかけていた。


 サニアの森の近くまで来ると、2頭の馬達は満足げにその尾を振った。

 その様子に、セバも安心したような顔を浮かべる。


「いやはや。お二人のお蔭で助かりました。シュヴァルツ達も、気分が良いようです」


「いえいえ」

 何事もないように、と不安げな顔をしていたツルハも、馬達のご機嫌な様子に思わず穏やかに気持ちになると、その笑みを返した。


「しかし、町から森までは、本当に何にもないんだな」


 ツァイが彼方まで広がる草の原を見ながら言うと、セバは頷いた。


「本当であれば、町をここまで拡大する予定だったみたいなのですが、ケンタウロス達の反発があって以来、開発は中止に。

 それからというもの、切り倒された木々を処理した後、そのままにされ、繁殖力のある草たちが覆い尽くした、といった具合です」


 セバが説明すると、ツァイは「ほお」と感心したような声を漏らした。

 ツルハがふと気に掛けたのは、セバの様子だった。

 空の紅が藍に染まるのを気にしているように、その視線は度々空を見つめていた。

 夜になれば、件の悪魔も現れるかもしれない。

 その不安もあるのだろう。


「そろそろ町へ戻りましょうか。アル達には黙って来てしまったから、心配をかけるといけないし」


「そうだな」


 ツルハが言うと、ツァイも頷いた。



 風音が変わったのは、その瞬間(とき)だった。

 その音の変化を瞬時に感じ取ったのだろう。

 ツァイは、勢いよく向かって来た、()()を避けると、背中の剣に手をかけた。


 ツルハも何が起こったのか、それをようやく理解すると、その馬の名前を思わず漏らす。


「シュヴァルツ……!?」


 ツァイに突進を仕掛けたのは、夜の黒のような色をした、あの馬だった。

 その馬が振り返ると、その瞳の色に、ツルハはゾッとした。

 悪魔のような紅い、冷たい目。

 まるで、いつぞやのヴァイスドッグのような――殺意の色をした目だ。


 黒馬が前身を天にあげ、大きく(いなな)くと、それに呼応したように、背後からもう一体の嘶きが響いた。

 赤毛の馬は、嘶きを終えると、その姿にツルハとツァイは目を丸くした。

 後ろ足を、人の足のように直立に立たせ、黒馬と同じ色になった瞳をこちらにしっかりと向けている。

 前足は腕のように垂れ、その蹄が五つに割れると、粘土のようにぐにゃりと変形し、それは黒い指のようになった。

 万が一のために鞍に備え付けられた剣は、ちょうどその人型の腰の位置にぶら下がり、その腕で赤毛の馬は剣士のように剣を引き抜いた。


 振り返ると、黒馬もロッソと同じように、剣を引き抜き、ツルハ達に向けて、その銀の鋭い先端を向けていた。


「おいおい、冗談だろ……!?

 何だ、こいつら!」


 ツァイが叫ぶと、ツルハも剣を引き抜き構えた。


「セバさん!?」


 ツルハは叫んだ瞬間、冷ややかな電撃が走った。

 天を見上げていた、セバの表情は、冷たい笑みを浮かべ、その表情通りの笑い声が漏れると、セバはようやく、その顔をツルハ達に向けた。


「ふう。ようやく、()()()になりましたね。

 しかしまさか、こんなにも上手くいくとは正直思いませんでしたよ」


「……どういうつもりだ?」


 ツァイが訊くと、セバは悪魔のような笑みを浮かべながら語った。


()()()()()が目覚めるのは、夜なんですよ。

 標的(ターゲット)は貴方達だけなので、如何にして、あの邪魔な賢者を引き離し、この舞台を迎えたものかと、苦心していましたが、無事に事が進みそうです」


標的(ターゲット)……?」

「どうやら完全に嵌められたみたいだぜ、馬の尾。今この馬達を見て納得した。

 町の連中を襲っていた馬型の魔物。そいつは、ケンタウロスなんかじゃなく、こいつらの事だったんだろうぜ。

 夜に目を覚ますってことは、昼間は恐らく、ごく普通の馬なんだろう。魔物独特の嫌な気配も今になるまで全く感じなかったからな」


「お話が早い。その通りですよ、鬼王殿」


「何で、貴方が魔物を!?」


 ツルハが訊くと、セバは答えた。


「どうせ、ここで仕留めるのですから、良いでしょう。

 私がこの魔物達を手に入れたのは、競売場へ赴いた時のことでした。

 私は、あの貴族の男に、ある一等級の馬を落札するように言われました。

 しかし、私には私的な負債がありましてね。これまでも支障がない程度に、落札額を偽って少々渡された資金を着服させてもらったのですよ。


 だが、あの日は運が悪かった。

 

 取り立て連中がうるさく、落札前に資金をその返済に充ててしまったのです。

 しかし、残った資金でも目当ての馬を手にすることができました。それがいつものことであれば。   

 あの富豪が現われたのが私の運の尽きでした。

 お目当ての一等馬は、新参者の大富豪に落札されてしまったのです。私の持つ資金では勝てないほどの破格の金額でね。


 馬を入手できずに帰れば、すでに負債に充ててしまった分の差額で、私の着服がバレてしまいます。

 私は途方に暮れていました。


 そんな時です。()()()()に出会ったのは」


「あの少女……? ――まさか!」


 ツァイが思い出したように叫ぶと、セバは頷いた。


「そうです。貴方がフェムル候のもとで出会った、()()()()ですよ。

 あの時の私には、彼女がまるで天の使いのように思えました。

 彼女が私に提示したのは、二頭の立派な馬でした。その毛並みと言い、体格と言い、今まで見たことのないような。

 彼女は、彼らを半年間、その世話をし、観察することを条件に、私に取引を持ち掛けたのです。

 もちろん、彼らの正体についても、性質についても、知った上で私は取引に応じました。

 彼女から示された報酬は、あの愚かな貴族の資産を遥かに凌ぐほどの額でしたからね。あの男のことです。目当ての馬よりも素晴らしい馬たちがいたのでそれを落札した、とシュバルツ達を見せた瞬間、目の色が変わりましたよ」


「あなたの勝手な事情の為に、その為に町の人達を……!」

 ツルハの声には怒りが滲んでいた。


「言ったでしょう。彼らの餌は特別なものだと。それは、人肉を混ぜたものでしたが、どうにも満足がいかないらしいですからね。

 夜のサニアの森であれば、人目につかず、万が一噂が広まったとしても、町と軋轢のあるケンタウロス達が、その濡れ衣を被ってくれると思いましたから。

 本当であれば、そうして過ごすだけで、私と彼女の契約は済む話でした。


 ですが、数日前のことです。

 彼女は再び私のもとに現われ、私にこう提案をしてきました。

 もうじき、桃色の髪の少女と鬼王が来る。2人と、この魔物達を戦わせ、仕留めれば、報酬を倍にする、と」


「ってことは、馬達(こいつら)は、例の合成魔物ってことか」

「闘技場で戦った、あの紅蓮の魔物――あれと同じってこと……!?」


 ツルハが言うと、セバは腕を組んだ。


「さて、お話はこれくらいにしましょう。

 ご安心ください。喰わせたりはしません。

 お二人は、ケンタウロス達に襲われた、ということでお伝えしておきますよ」


 セバが言うと、ツルハとツァイは背中を合わせ、それぞれの魔物達に剣の先を向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ