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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第三章 夜を駆ける悪魔
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夜を駆ける悪魔1

「ったく、結局俺達は蚊帳の外かよ」


 ツァイが愚痴を溢すと、ツルハは苦笑した。


「仕方ないわよ。ケンタウロス達のことに一番詳しいのは、アルなんだから」


「仕方ねェ。また夜は、()()()の稽古に付き合ってやるか」

「ちょっと! その呼び方はやめてってば!」


 茜の光の指す、中庭の通路を歩いていると、ツルハはふと足を止めた。

 馬小屋の前で、あの二頭の馬達を前に、執事の男が腕を組み、首を傾げている姿が見えた。


「セバさん」


 後ろからかけられた声に、セバは振り返ると、


「あ、ツルハ様。それにツァイ様」


「どうされたんですか?」


 ツルハが訊くと、セバは再び困った様に眉を垂らした顔になる。


「いえ、実は……」


 セバは、2頭の馬達に視線を向けた。

 馬達は窮屈そうに、ブルルッと顔を震わせると、その宝石のような眼光をツルハ達に向けた。


「シュヴァルツとロッソ」


 ふと思い出した2頭の名前を漏らすと、セバは苦笑を浮かべた。


「実は、この2頭は、ここにいる馬達の中でも、特に変わりものでしてね。

 食事も、この小屋(ばしょ)も、彼ら自身が決めたようなものです。飼い葉も、彼らのためだけに調合された特注の物を与えていて、少しでも味が異なると、へそを曲げて一歩も走らなくなってしまうんですよ。

 ……サニアの森も、シュヴァルツ達のお気に入りの場所でしてね。あの森は、ケンタウロス達が住んでいるせいか、彼らにとって居心地の良い場所なのでしょう。

 ですが、事件が解決するまでは、当分森に行くこともできなくなってしまい、どうしたものかと」


 セバはため息をつくと、バッと振り直り、ツルハ達に頭を下げた。


「ツルハ様、ツァイ様! どうかお願いです!

 1度だけ、1度だけで構いません。どうかこの夕べ、私と共に、シュヴァルツ達を森の近くまで連れて行ってはもらえませぬか?」


「は……、ハァ!?」

 ツァイが眉を逆さにして声を上げると、ツルハも同じ顔になる。


「けどあの森は」


 ツルハが言おうとするのを遮ると、セバは必死な様子で続けた。


「森の近くまで、森の近くまでで良いのです!

 明日はボルツマン様にお客様が来られるのです。もし、この2頭が、不調子では恥をかいてしまいます。

 それに、お二人は相当に腕の立つ剣使いと聞いております。お二人がご一緒であれば……、お願いします!」


「いくら俺達が一緒といってもなあ……」

「せ、セバさん!?」

 ツァイとツルハが顔を合わせると、とうとうセバは地面に膝をついて、頭を深く下げ出した。

 必死に懇願するセバに、ツルハはとうとう折れると、大きく息をついた。


「分かりました。今日だけですよ」


 ツルハが言うと、「おいおい」とツァイは呆れた顔をした。

 

「だって、こんなにお願いされたら、断れないじゃない。

 セバさん、本当に困っているみたいだし。

 森の近くまでなら……、ね?」


 ツルハが肩を軽く上げて言うと、ツァイも大きくため息をついた。


「はあーあ……!」


「ありがとう」

 ツルハがツァイに言うと、セバはパアッと顔を晴れさせた。


「ありがとうございます! 何とお礼を申し上げれば良いか」


「良いから、とっとと行こうぜ。日が暮れるんじゃ、グラディワンドの賢者様も何かと(うるさ)そうだからな」


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