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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第三章 夜を駆ける悪魔
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サニアの森1

「おいおい、良いのかよ。やってることは、あの男の家系の尻拭いじゃねェか!」


 用意された馬の頬を撫でながら、アルフィーは、ツァイに答えた。


「確かに、そうですね。ですが、私は決して、あの人の尻を拭うために今回の依頼を引き受けた訳ではないのですよ」


「どういうこと?」

 ツルハが訊くと、アルフィーは答えた。


「先程の話でも言ったように、ケンタウロス達は心優しい、温厚な者達なのです。

 ですが、彼らの住処である自然が開発されるたびに、彼らは開発者たちに抗議の声を上げてきました。

 その印象が、今の人々に映る彼らの姿を、暴力的なものにしてしまっているのです。

 自然に仇を成した者には、それなりの制裁を与えることでしょう。ですが、その命を奪うなどということは、彼らは決してしません。

 今回のサニアの森のケンタウロス達も、きっとそうです。

 私は、彼らの濡れ衣を晴らすためにも、この依頼を引き受けたのです」


 アルフィーが言うと、ツァイは叫んだ。


「ちょっと待て。ってことは、別の魔物が町人達を襲っているってことか?」


「そうなります。

 ですが、ケンタウロス達に直接聞いてみない限り、事態は進まないでしょう」


「ケンタウロスさん達は、私達を受け入れてくれるでしょうか」


 ツルハは不安そうな声を漏らした。


「住処も追われて、それに声をあげることは当然なことなのに、悪い目で見られて……。

 人である私達が森に入ることを、きっと嫌に思うはずよ」


 ツルハが言うと、アルフィーは穏やかな眼差しを向けた。


「大丈夫です。姫は心優しい御方ですから、彼らもきっと姫を受け入れてくれますよ。

 鬼王君も、言葉遣いに気を付ければ」


「ハッ」

 鬼王が不機嫌そうに、プイッとそっぽを向くと、


「それでは参りましょうか」


 3人は馬に跨ると、門をくぐり、サニアの森に向けて、馬を走らせた。



     ***



 空が茜色に染まり、夜の紺がその茜を西の果てに追いやる頃には、丸い月が白く輝き始めていた。

 ツルハ達は、馬から降りると、その叢林(そうりん)の大木を見上げた。

 暗い夜の蒼の中、その緑は一層濃く映り、静寂と共に、神秘さも帯びていた。


「ここが、サニアの森?」


 ツルハが訊くと、アルフィーは頷いた。


「ここから先は、人の住む世界ではありません。

 ランタンの灯りも、ここで消して行きましょう」


 ツルハとツァイは、アルフィーに従い、ガラスの中の火を消すと、それを馬の鞍に吊るした。



 森の中は、心地よい、湿りを帯びた風が木々の間を吹いていた。

 虫の鳴き声が、その風に吹かれた鈴のように、あちこちから聞こえている。


 見上げると、黒を帯びた緑の天蓋の隙間からは、星々が無数に輝いていた。

 町や村で見る夜空とは違い、まるで別の世界の空を見ているように、たくさんの星が見下ろしている。


「こんな人気の無い所に、よく町の奴らは来れるな」


 ツァイが言うと、アルフィーが答える。


「これほど空気の澄んでいる森ですから、自然も豊かなんですよ。

 このような場所では、木の実や果実、それ以外にも、貴重な薬草が採れますから、町の人達もその恩恵に(あやか)っているのでしょう」


「けど、不思議。この森、野原や他の森を歩く時とは違って、魔物の気配が全くない」


「古くからある森では、その森を守る精霊や聖獣、妖精たちが住んでいることが多いのです。

 彼らが住む森では、魔物達も下手に近づくことができないんですよ」


 アルフィーが言うと、ツルハは感心したように声を漏らした。



「何者だ」


 前方から聞こえて来た、低く太い男の声に、アルフィー達は思わず身構えた。

 黒い人型の身体の影が、木々の影に映ると、ツァイは背中の剣に手をかけた。


 しかし、3人の目元がこわばったのは、その姿が月光の下に露わになった時だった。

 赤毛の髪の男性の顔。その上半身は、獣の皮で作った鎧で覆われている。

 しかし、その下半身には4つの足があり、その蹄が、草を踏みつぶす音を奏でた。


「あれが……」

「ケンタウロスか……!」


 ツルハとツァイが驚いたように言うと、アルフィーはツァイを制すように目の前に立つと、警戒の眼光を向ける獣人に声を返した。


「私達は敵じゃない。生き物を狩りにきた訳でもなければ、木を切り倒しにきた訳でもない」


 アルフィーは、慎重な様子だった。


 ケンタウロス。

 そう言えば、昔、お父様から聞いたことがあった。

 彼らは、自分たちの森を荒されることを酷く嫌う。特に、彼らの森に住まう動物を勝手に狩られることや、木々を切り倒し、森が切り開かれることを。


 森の番人である、彼らが、自分たちを敵と判断すれば、話を聞くことは愚か、二度と森へ立ち入ることもできなくなるだろう。

 アルフィーは、彼らに歩み寄る第一手として、彼らが一番嫌がることをしないことを示したのだ。


 アルフィーが言うと、ケンタウロスは、手に携えていた弓の構えを緩めた。

 ケンタウロスの警戒心が揺らいだのが見えると、アルフィーは言葉を加えた。


「私達はサニットの町の長から依頼を受けて、この森に来た。

 近頃、この森で人が襲われていると聞いた。町の人々は、それは貴方達の仕業ではないかと疑っている。

 だが、私達は、森の気高き番人である貴方達が、そのような所業を行うとは、とても思えない。

 貴方達の疑いを晴らすためにも、真実を教えて欲しい」


 アルフィーがそう叫ぶと、ケンタウロスは暫く沈黙した。

 そして、何かに気が付いたように、表情がピクリと動くと、ケンタウロスは背を向け、


「着いて来い」


 ケンタウロスがそう言い、歩み始めると、ツルハ達は顔を合わせて安堵の笑みをこぼした。

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