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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第三章 夜を駆ける悪魔
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サニットの町1

 サニットの町は、円形の城壁に囲まれた城塞都市だった。

 近くの高地から、その町を見下ろせば、それは緑の野に咲く花のようであり、門を通り過ぎた、その先も、お洒落な外観の町並みが続いていた。

 町の中心にある、庭園付きの大きな朱色屋根の家の敷居に足を踏み入れると、庭園から家まで伸びた煉瓦の道の中央に辿り着くより前に、建物の扉から使用人たちと共に大きな男が、ツルハ達を迎えた。


「よくぞ参られた! アルフィー殿、そして、そのご一行殿!

 私はこの家の主、タンザ・ボルツマン。どうか、ボルツマンとお呼びください」


 鮮やかな紅い衣服に身を包んだ大男が、穏やかな笑みで言うと、アルフィーは、ツルハ達を代表して挨拶を返した。


「温かい歓迎、心より感謝致します。ご活躍は、(かね)て、お聞きしております。

 こちらは、私の護衛を務めます、ツルハと、ツァイでございます」


 アルフィーに紹介されると、ツルハとツァイは会釈をした。

 2人を見て、ボルツマンは満足げに頷いた。


「話は、アーサー殿より聞いております。こんな場所(ところ)でお話も何ですから、さあさあ、中へお上がり下さい」


 屋敷の中は、これでもかという程に豪奢に飾られいた。

 主人と同じ衣服の色をした壁や絨毯を歩いて行くと、中庭の廊下に出る。

 奥の屋敷に続く、長い廊下の屋根は柱のみで支えられ、その大きな隙間からは心地よい風が吹いていた。


「あっ」

 ツルハが思わず声を漏らしたのは、その中庭で放されている、その動物たちの姿が目に映った時だった。

 白、茶、黒。様々な馬の姿に、ツァイとアルフィーも思わず足を止めた。


「どうです。見事なものでしょう!

 どれも私が手塩をかけて育てた、自慢の駿馬でございます」


 ボルツマンの言う通り、そのどの馬も今まで見たことのない、立派な体躯をしていた。

 浮きだった筋肉だけでなく、その毛の一本一本も丁寧に手入れされ、太陽の光を帯び、見事に輝いていた。


「おい、セバ!」


 ボルツマンは中庭にいた、一人の若い黒服の男に声をかける。

 男は颯爽と主人に駆け寄ると、ボルツマンは最初にアルフィー達を紹介した。


「こちら、文にあった客人の方々だ」


 ボルツマンが言うと、茶髪の男は、温和な面持ち通りの、優しい声で挨拶をした。


「初めまして。タンザ家に仕える執事のセバと申します」


「初めまして。こちらこそ、宜しくお願いします」

 ツルハが言うと、アルフィーとツァイもお辞儀を返した。


「セバ。この方達に例の馬を!」


「ハッ」


 セバが踵を返し、庭の奥へ駆けて行くのを見ながら、ツァイはアルフィーに耳打ちをした。


「ここは馬屋敷か……?」

「ボルツマンは、馬愛好家としても知られている貴族なんですよ。

 愛好家である一方、どちらかというと収集家の一面の方が強いと聞いてますが」


 庭の奥から、先程の執事の男が2頭の馬を引き連れて戻ってくると、ボルツマンはアルフィー達に誇らしげに語った。


「どうです! これぞ、私の持つ馬の中でも最高級の馬達です。

 ここにいる馬は、同じ愛好家たちの持つ馬に引けを取らない、良馬ばかりですが、この2頭は世界中のどこを探しても、見つけることはできないでしょう!」


 ツルハ達はその2頭をまじまじと見つめた。

 一頭は、墨のように黒い馬だが、暗い色合いにも関わらず、その姿は縞瑪瑙(オニキス)のように美しく映った。

 もう一頭の馬は、明るい赤毛に包まれていた。鼻先から額にかけて純白の体毛が伸びており、その両側にある瞳は、春の木漏れ日のような優しい光を帯びていた。


「うわあ、この馬、すっごいイケメン……」


「馬にイケメンもクソもあるか」


「もしかしたら、ツァイよりイケメンかも」


「なっ、てめっ!」


 ツルハとツァイが言い合っていると、ボルツマンは咳ばらいをして話を続けた。


「この2頭の素晴らしい点は、美しさや並外れた脚力だけではありません。

 この2頭は、その知能においても、著しい素晴らしさを誇るのですよ!」


「知能?」

 アルフィー達が声を揃えて訊くと、ボルツマンは頷いた。


「どんな馬も、調教を重ねれば、人の言うことをある程度は理解するようになります。ですが、この2頭は特に覚えが早く、どんなこともすぐに理解してしまうのです。

 お見せしましょう」


 ボルツマンは、セバから球を受け取ると、中庭に放り投げた。


「シュバルツ、あれを取って来なさい」


 ボルツマンが黒馬にそう言うと、シュヴァルツと呼ばれた黒馬は、ブルルッと頭を振るい、主人の投げた球のもとへ駆けて行った。

 その様子に、アルフィー達は思わず息を呑んだ。

 黒馬は球を口に咥えると、そのまま駆けて、ボルツマンに渡した。


「どうです!」


「凄い……!!」

 ツルハ達は瞬きも忘れ、拍手をした。


「ハッハッハ。そうでしょう、そうでしょう!

 シュヴァルツだけでなく、ロッソも同じ程、人の言うことを良く聞くのですよ。

 彼らの才の賜物でもありましょうが、彼らが私のもとにあるのは、他ならぬ、セバの手柄なのです」


「ボルツマン様、勿体無き御言葉です」


「この馬達を、一体どちらで?」


 アルフィーが訊くと、セバは頷いて答えた。


「競売場にて落札させて頂きました。

 ここにいる馬達も、ほとんどが競売場でボルツマン様が入手されたものです」


 セバが言うと、ボルツマンが話のバトンを継ぐ。


「愛好家の中では、いくつか馬のみを扱う競売場がありましてな、そこで駿馬を争うように獲得するのです。

 最近ではその競争が激しいあまり、私一人の手には余りましてな。使用人たちにも富を渡して、複数の競売場に走らせているのです。

 そこで、セバが入手したのが、この二頭というわけです」


「なるほど」


 アルフィーが頷くと、ボルツマンは、


「話が少し長くなってしまいましたな。では、奥の屋敷へ。

 本題については、そこで詳しくお話させてください」


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