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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第三章 夜を駆ける悪魔
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夜の野にて

 広野に夜の帳が下りると、空の蒼は無数の星に彩られた。

 焚火の朱の光がその輪郭を照らす中、ツァイは、ひたすらに素振りを行う少女を見つめていた。


「あいつは」


 隣から声が聞こえると、アルフィーは振り向いた。


「あいつは、いつも、ああしているのか?」


 ツァイがふと訊ねると、アルフィーは頷いた。


「ええ。町の中や人の多いところでは、宿屋の中で別の鍛錬を行っていますが、こうした野では、必ず」


 アルフィーが言うと、ツァイは感心したような声を漏らした。


「姫は幼い頃から、あのように自身の腕を磨くことを怠ることはありませんでした。

 生まれた時に背負わされた、勇者という使命。姫は、王や妃、民達の期待に応えようと、必死でした」


「グラディワンドの話は、かなり前から聞いていた。

 剣王と恐れられる王の治める国だ。勇者がその国に生まれたことも、納得がいった。

 だがまさか、王には2人の姫がいて、その第二の君が勇者とは、思いもしなかった。

 なにせ、グラディワンドの姫について聞くことは、どこの国でも、あのレオナルドのことばかりだ」


 ツァイが言うと、アルフィーは静かに息をついて言った。


「太陽の姫。

 姫の姉君、レオは、国ではそう呼ばれていました。

 これからの国を担う民衆の光としての期待と、闇を祓う勇者としての像が、彼女に重ねられていたのでしょう。

 レオは、王妃や民の期待通り、幼い頃より、その頭角を現し始めました。

 抜きんでた剣の才能。底知れぬ魔力とそれを駆使した高度な魔法術。千の軍を指揮することのできる統率力。

 その全てを兼ね備えた彼女は、類稀な存在といっても良いでしょう。


 しかし、その一方で、レオと共に勇者の道を歩まれていた姫は、その陰となり、民達に忘れられた存在になってしまいました。

 国でも、あのようであったのですから、鬼王君が姫のことを知らなかったことも無理はありません」


 アルフィーの声は、どこか寂しそうで、静かな怒りが滲んでいた。

 ツァイは、アルフィーから、ツルハに目を移した。


「……お前から、あいつの話を聞いた時、どうにも引っ掛かることが多かった。

 勇者の誕生。そして第二の剣王、レオナルド。

 レオナルドが勇者として、宝剣を手にした、って話を聞いたのは、つい最近のことだ。

 だが実際には、宝剣を手にし、勇者になったのは、あいつで、あいつが勇者であることは国家機密だって言うもんな。

 そういう事情があるとは、予想もしなかった」


 ツァイが言うと、アルフィーはツルハを見ながら、ふと微笑んだ。


「しかし姫は、本当にお強い御方です。

 レオにばかり注目が集められ、その陰となってしまっても、あのように自身の使命にしっかりと向き合っておられるのですから。

 ……鬼王君?」


 よっこら、と立ち上がったツァイに、アルフィーが首を傾げると、ツァイは大木に立て掛けられた両手剣を片手で背負った。



「そんな振りじゃあ、すぐにやられちまうぞ」


 横から聞こえて来た声に、ツルハは少し驚いたような顔で振り向いた。


「ツァイさん?」


 ツァイは、ツルハの横に立つと、自身の大きな剣の持ち手をしっかりと両手で掴み、大きく振り上げた。

 それがブンと振り下ろされると、その風にツルハは思わず「ひゃっ」と声を上げた。


「構えてみろ」


 ツァイが言うと、ツルハは戸惑った顔を浮かべたが、剣を素振りの構えに添えた。

 

「指先に力が入り過ぎてるんだ。

 剣を構える時は、もっと指の力を抜け」


「こう、ですか?」


「薬指と小指だけに力を入れるんだ。鍔に近い指ほど、軽く持つイメージだ。

 親指は鍔から少し離せ。

 そうだ。振って見ろ」


 その音は先程よりも芯を帯びていた。

 ツルハも、その違いに気付くと、思わず口を開いた。


「後は呼吸と、集中だ。

 一振りの呼吸を大事にしろ。

 数振れば上達すると思うな。一回、一回、無駄にすることなく振れ。

 本当の戦闘で、無駄な振りは要らない。二度と来ない一振りだと思って、しっかり向き合え」


「はい」

 ツルハは威勢のある声で返事を返すと、その口角を和らげた。


「ツァイさん、親切なんですね」


 思わぬ言葉に、ツァイは調子を乱されたように、言葉を一瞬詰まらせた。


「ツァイで良い。一々"さん"付けをされると、調子が狂う」


「じゃあ私のことも、気兼ねなく好きに呼んで下さい」

 ツルハが言うと、ツァイは「そうか?」とツルハをまじまじと見つめた。

 そして、「よし」と頷くと、


「じゃあ愛嬌を込めて、"馬の尾"なんていうのはどうだ?」


「う、馬!?」


「ああ。お前のその髪。最初に見た時に、子供(ガキ)の時に見た、綺麗な馬の尾っぽみたいだと思ったんだ」


 ツァイが言うと、吹き出したアルフィーにツルハは、名前を呼んで怒った。


「まさか姫が……馬の尾と呼ばれる日が来ようとは」


 笑いの混じった声でアルフィーが言うとツルハは頬を膨らませた。


「それじゃ、宜しく頼むぜ。"馬の尾"!」


 ツァイが言うと、ツルハも膨らませた頬を、「もう」とおかしそうに笑みを浮かべ、萎ませた。

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