世界騎士団5
「もう大丈夫ですよ。ですが、くれぐれも無理はなさらないで下さいね」
「はい。この数日間、ありがとうございました。本当にお世話になりました」
翌日の朝。この数日、付きっ切りで世話をしてくれた白衣の少女に、ツルハは、頭を下げて感謝を告げた。
屋敷の外の庭園に出ると、久々の白い朝日に、ツルハは目を細めた。
「アーサーさん、リリオさん、大変お世話になりました」
ツルハが、見送りに庭園の門まで来た2人の顔を交互に見て、そう言うと、アーサーは柔らかな笑みを送った。
「ツルハ君。久々の再会だったというのに、あまり時間が取れずに済まなかった。
また会う時は、紅茶を交えながら話に花を咲かそう」
ツルハの返事を聞くと、アーサーはその左右に立つ、アルフィーとツァイに目を向けた。
「アルフィー、ツァイ殿。どうか、ツルハ君のことを頼んだぞ」
「言われずとも」
「騎士団長様が期待する以上の働きを見せてやるさ」
2人が逞しく言うと、アーサーは頷いた。
アーサー達を背に、屋敷の敷地を出た時だった。
「ツルハぁ!」
どこからともなく聞こえて来た、元気な叫び声に、ツルハはキョロキョロと辺りを見回す。
朝の白い景色の中、老人と少女を背後に、見覚えのある男の子が一目散に走って来るのが見えると、ツルハもその少年の名を呼んだ。
「オズ君!」
「やっと会えた……!」
オズは息を少し切らしながら言うと、ムッとした表情で言った。
「3日も引きこもりやがって! 中に入ろうとしても、変な奴らに追い返されるからよ」
それが騎士団の男達であることに気付くと、ツルハは眉を垂らし、オズに謝った。
近くで見た、その少女の顔に、オズは思わず頬を赤らめた。
(こいつ……、こんなに美人だったのか。そういえば、ちゃんと見たこと無かったな……)
しかし、その表情を隠すように逸らした視線を戻すと、
「こ、今回は許してやる……」
「オズ!」
マノが、そうじゃないでしょ、というような顔で言うと、オズは「分かってる」と返した。
「その……、お前、無茶苦茶強かったんだな……。
家を守ってくれて、ありがとう」
照れ臭そうな、少年の顔が言うと、マノも深く頭を下げた。
ようやく追いついた老人が背後に立っていることに、オズ達は気が付くと、老人はツルハ達に、マノと同じように頭を下げた。
「ツルハさん、この度は本当に、本当にありがとうございました。
そして、危険な目に遭わせてしまいましたね。
何とお礼をしたら良いものか」
ダムがそう言うと、ツルハは首を横に振る。
「お礼だなんて、そんな」
ツルハが手を振ると、オズはツルハに向かって言った。
「オレ、お前みたいに絶対に強くなる。
強くなって、これからじいちゃんやマノを護れる男になる。それでいつか、今度はオレがお前を護ってみせる!」
オズが言うと、ツルハは嬉しそうに微笑んだ。
その気配に気づくと、ツルハ達はその方向に振り向いた。
そこには、3人ほどの男が立ち、その後ろには傭兵のような姿をした屈強な男達が数人、腕組をしていた。
3人の男の身分が、貴族であることはすぐに分かった。派手な花のような色をした高価な衣装に身を包み、見下すような目でこちらを不機嫌そうに見つめている。
「やい、貴様! よくも我々の楽しみを奪ってくれたな!
貴様のせいで、闘技場は閉鎖。お蔭で我々の娯楽は一つ失われてしまった!」
真ん中の、カールのかかった髭の男が指を差して言うと、左右の貴族の男達も、そうだそうだと口々に叫ぶ。
「ふざけんな! クソじじい!
ツルハを悪くいう奴は、このオレが許さねェぞ!」
オズがツルハを庇うように立ち、怒鳴ると、貴族の男は、「なんだ、この子どもは?」と軽蔑の眼差しを向けた。
しかし、男達が怯んだのは、その声が飛んできた時だった。
オズに賛同する声が上がると、オズも驚いたようにその方向を見た。
そこには、道が覆い尽くされるような人々が立ち、貴族たちを睨みつけていた。
「あの闘技場の運営の為に課された重税のせいで、俺達の生活は貧しくなるばかり。あんなものは、この町に必要なんてない!」
「お主らにとっては娯楽かもしれぬが、その娯楽のために、この町の住人が犠牲になっているということがまだ分からぬのか!」
アルンベルンの町民たちが次々に貴族に向かって、これまで積りに積もった不満を浴びせると、貴族の男達は「ぐぬぬ」と後ずさりをする。
真ん中の貴族が、傭兵たちを差し向けようと言葉を発し出した時だった。
ドン!
振動に、何事かと、貴族たちは目を丸めた。
黒髪の男が、背に背負った巨大な剣の先を地面に付けている姿が見えると、その男は静かに言った。
「武闘会がお望みとあらば、今この場で披露してやろう。だがな、その参加者に生憎町民達は含まれていないんでな。
お前らが娯楽としている闘技ってやつを、この俺が身をもって教えてやる」
傭兵たちの顔が、蛇に睨まれた蛙のように真っ青になると、
「お、おい! お前達! どこへ行くんだ!!?
私を置いて行くなあああああ!」
一人が逃げ出すと、その傭兵たちに続き、貴族の男達もそれを追いかけるように逃げ去って行った。
その姿に町民たちは、胸が晴れたように笑うと、ツァイはオズに向き直った。
「おい、坊主」
「な、何だよ……」
オズがムッとした顔でツァイを見ると、男の大きな腕がオズの頭を優しく撫でた。
「悪かったな。お前の大事なモンを壊しちまおうとして」
オズは思わぬ言葉に、一瞬気を取られると、ハッとし、
「今回は特別に許してやる」
「ありがとよ」
それを聞くと、ツァイは微笑んでオズから手を離した。
「さてと、そろそろ参りますか」
アルフィーがそう言うと、ツルハとツァイは頷いた。
「ツルハ様。この度は本当にありがとうございました。
申し遅れました。私は、この町の町長代理のサムと申します。
町長がフェムル様に代わってからというもの、町の者は皆、苦しんでおりました。しかし、今回の悪事が明らかになり、皆、ホッとしております。
またぜひ町にいらしてください。今度は闘技場ではなく、歓迎の場にて、町をあげて、おもてなしをしますゆえ」
中老の男がそう言うと、ツルハは「はい! ぜひまた、必ず来ます」と答えた。
オズやマノ、ダムや町の人達に、手を振り返しながら、ツルハ達はアルンベルンの町を後にした。




