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ツルハと鬼王9

 紙吹雪の舞う中、アルフィーは、ハッとすると貴賓席を睨んだ。

 この武闘会に、魔物が紛れ込んでいたことは一大事以外の何ものでもない。

 しかもそれが、その主催者である町長と繋がっていたとあれば、なおさらだ!

 しかし、貴賓席にはすでに、あの肥えた男の姿はなかった。


「クソ、逃げたか!」



 土の地面の上で、ツルハは、その声の嵐に、呆気をとられた。

 色鮮やかな景色は、まるで夢を見ているかのように思わせた。


 叩かれた肩に、ハッとすると、そこには鬼王の顔が映った。

 やったな、というような、晴れやかな顔に、ツルハも同じ顔で、突き出された拳に、小さな拳を打った。


(あれ……、意識が――)


 視界はぐにゃりと歪むと、ツルハは眠りに落ちるように倒れる。


「おい!」


 意識を失い倒れた、ツルハの体を支えると、ツァイは必死に叫んだ。


「おい、しっかりしろ! おい――!」



 沈みゆく意識の中、ツァイの声は、遠退く海面から響くのように、くぐもっていった。



     ***



「はぁ! はぁ……!」


 暗い回廊の中を、必死に走る音と、息の荒れた声が響く。

 貴賓席から繋がる非常用の回廊を、フェムルは必死に駆けていた。


「どうして……、どうしてこんなことに!」


 もう、何が何だか分からなかった。

 勝利した時のあの小娘の誇らしげな顔が目に浮かぶと、喉に上がってくるものと一緒に、憤りの熱が沸いて来た。

 しかし、それに勝る、強烈な焦りと不安が押し寄せると、それはフェムルの足をただただ急がせた。

 この回廊を抜ければ、町の外だ。

 そこにいけば、馬がいる。それに乗れば、この町を脱出することができる。

 今は、この町を離れるんだ!

 そうすれば、そうすれば――


 僅かに見えた希望の光に、フェムルは汗だくの中、笑みを浮かべた。



「――なッ」


 その足を急ブレーキをかけたように止めると、フェムルは咄嗟に身構えた。


 回廊の暗の中、三角をひっくり返したように映る、首元の白い服と、その少女の顔と金髪が現われると、フェムルは目を丸めた。


「お、お前……、なぜここに!?」


 この回廊の存在を知っている者は、自分と、ターコイス家に仕える一部の人間だけ。

 ましてや、このような部外者がその出口から先回りしたように、目の前に現れたことは、フェムルの身を震えさせた。


 黒に覆われた眼鏡の下には、いつもと同じ、無の表情が浮かんでいる。

 しかし、それは、状況ゆえか、一層不気味に映った。

 まるで死神のように。


 少女が人差し指と中指を突き立て、指鉄砲の銃口を向けると、フェムルは、ハッとした。


「まっ、待て待て待て!

 今回の件は、金を出せば、いくらでももみ消せる! 父上から継いだ人脈を使って、まだやり直すことができるんだ! だから待」


 ドンッ!


 一発の銃弾が、フェムルの額を突き抜けると、フェムルのその声は途絶えた。

 フェムルの冷たくなった亡骸を確認すると、少女は銃口をおさめた。


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