プロローグ: 未来のあなたへ
私が生まれた時のことについて、私が知っていることのほとんどは、アルから聞かされたことだった。
私が生まれたのは、深い海のような夜だった。
散りばめられた小さな銀の粒のような星と大きくて綺麗な満月の輝く晩、ある大国の王宮の中で、私達はその産声を上げた。
王国の名は、グラディワンド。世界でも恐れられている強国である、その国では、私達が生まれる前から不穏がその影を落としていた。
「グラディワンドはもうじき滅びる」
そんな声がどこからか生まれ、風に乗り、波のように国中に伝播していた。
その噂の真実を確かめるために、王はその国に仕えていた大賢者と謳われる男に占術を求めた。
その男の名は、アルフィー・フィノーレ。
アルは王の願いを快く受け入れた。そして、この国の未来をその占術で占った。
その結果が出るまでに、約七日間かかった。
そして、その最後の晩――彼は占術の結果を伝えた。
「このまま時が流れれば、グラディワンドは間もなく、"大いなる闇"の存在によって滅びる」
それだけではない。その闇はこの大陸、そしてやがては世界の全てを破滅へと導くであろう。そう告げた。
しかし、その予言には続きがあった。
「しかしその闇は、太陽の如き勇者の到来によって祓われ、世界、そしてグラディワンドも救われる。そしてその勇者は、グラディワンドの王の下に誕生するであろう」
その予言が告げられた夜に、私達は生まれた。
国中の皆が私たちの誕生を喜んだ。
お父様もお母様も、アルも大臣も騎士の人達、国の人達も、皆が私たちを祝福してくれた。
そして、国を、世界を救う勇者の誕生を心から喜んだ。
だけど、私はその期待に応えることはできなかった。
お姉様は武術の才に長け、お父様のように勇敢で逞しく、度量のある、まさに勇者にふさわしい御人に成長した。それとは対照的に、私はお姉様のような武術の才には恵まれず、魔物に立ち向かえる度胸もない。
だけど、私は心からお姉様を尊敬している。
私もいつか、お姉様のように誰かの役に立てる、困っている人の力になれる立派な人になりたい。
明日はいよいよ、お父様の定めた儀式の日。
お姉様が勇者となるその瞬間を、しっかりこの目にお姉様の姿を焼き付けておこう。
その姿を私の目標として、この心に刻み込んでおこう。
いつの日か、未来の私がこの日記を読んだ時に良い返事ができることを、心から願っています――。




