ツルハと鬼王2
武闘会二日目の朝。
昨日の疲労のせいか、夜は夢一つ見なかった。
ウォルンタスの剣により、覚醒状態にあったとはいえ、それが解けた後の疲労は酷いものだった。
腕から背中、足まで、全身あちこちに錘を付けたような感じだ。大きな怪我はしていないものの、強く打ったところからは鈍痛がしていた。
ツルハは支度を整えると、闘技場に備え付けられている専用の宿泊室を後にした。
闘技場は相変わらず、うるさい程に賑わっている。
ツルハは、その声に囲まれる、闘技場の土の地面の上に立っていた。
自分だけじゃない。
周りを見ると、参加者の男達の顔がズラリと並んでいた。
急な招集に、何事だと、皆同じような表情を浮かべている。
ツルハの顔に、露骨に嫌悪が走ったのは、あの男の顔が見えた時だった。
カーラー。
その鎖鉄球が目に映ると、ツルハは目が合わないように、すぐ様に逸らした。
(あんな最低な人がまだ残ってるだなんて……)
敗北していないものかと、心から祈っていたが、彼の姿を目の当たりにした時、身震いと共に胸の底が抜けるような落胆が落ちた。
貴賓席にフェムルの姿が見えると、闘技場内は、一瞬でピタリと静まり返る。
「観戦席にいらっしゃる皆様、改めて、この町へのご足労、全ての町民を代表して感謝をここに示させて頂く。
さて、聖なる戦場に立つ闘士の諸君。昨日の戦い、見事であった。
今ここに集まってもらったのは、他でもない。今日、陽が西へ落ちる時には、この大会の優勝者が決まっていることだろう。
そして、その者が手にしているのは、かつてない程の富とその栄誉だ。
だがしかし、それを手にする者は、それなりの覚悟と勇気も持ち合わせていないとならない!」
フェムルが両手を広げ、大々的に言うと、その声は言い放った。
「ここに、本日の試合全てにおいて、その制約を解除し、対戦相手の殺戮を許可することを、ここに示す!」
フェムルが言うと、闘技場の沈黙の中に、戸惑いが走った。
しかし、その戸惑いが興奮へと変わると、観衆たちから盛大な声が噴き上がった。
「一体どういうことだ?」
「相手を殺しても、お咎めなしになるってことか?」
観衆たちに遅れ、困惑の顔を浮かべる闘士たちに答えるように、フェムルは言った。
「その通りだ、諸君!
命を賭けた戦いに見事勝利を収めれば、その栄誉はこれまでのものと比べものにならないものとなろう!
無論、今まで通り、相手の降伏を持って勝利するという決まりは継続だ。だが、降伏を待つ前に、相手を捻じ伏せ、その勝利を手にすることもできるようになる、ということだ」
「バカげてる……」
ツルハは貴賓席に立つ男を睨みつけた。
「しかしながらこの急な決まりは、非情かつ酷を極める。命惜しくば、今ここでの辞退も認めよう」
フェムルは、蔑むような、憐れむような顔で言うと、闘士たちに再び沈黙が落ちた。
男達は、様子を伺うように、互いに顔を合わせる。
「……異論なしだ」
「俺もだ」
一人の男が言うと、それは伝播するように、次々と声が上がる。
「おいおい、良いのかァ? やっちゃって良いってことだよなァ?
ようやく時代が、俺様に追いついたなあ!」
カーラーのように感極まった声を上げる者もいれば、鬼王や紅蓮の戦士のように黙する者もいた。
ツルハは、その狂気染みた空気に、戸惑った顔を浮かべた。
そうしている間に、
「辞退者は無しか。では早速、本日のトーナメントを発表する!」
フェムルからトーナメントの発表があると、闘技場は昨日よりも大きな熱狂に包まれた。




