表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/229

コロシアム2

 開式の挨拶が始まったのか、石の天井を伝わって、雑音のような騒音が聞こえて来た。

 闘技場の薄暗い地下では、自身の出番を待つ闘士たちが、様々な顔を見せ、その息を吹いていた。

 狂気染みた興奮の笑みを漏らす者。冷静な眼差しで石の椅子に腰を下ろし、待つ者。どこか怯えた様子で挙動不審に瞳をあちこちに巡らす者。

 そこには10数人ほどの参加者たちが、まるで囚人のように収められていたが、どこを見ても男ばかりで、同性の姿は見えなかった。

 そんなツルハのことを、男達は物珍しそうに、そしてどこか小馬鹿にしているような眼差しで見つめていた。


「なんだ、女みたいな顔しやがって。お前もこの大会に出るのか?」


 腰に鎖鉄球(モーニングスター)を装備した若い男が、ニタニタしながら言うと、ツルハは堂々とした態度で返した。


「そうですけど」


「へへっ、やめとけ、やめとけ。お前みたいな貧弱な奴が出ても、この一試合目で()()()()()だけだぜ」


 男が今にも笑いだしそうな顔で言うと、ツルハはその言葉にピクリと反応した。


「なんですって? この催しは、死者が出ることはないと、そのようになっているはずです」


 ツルハが少し驚いた様子で言うと、男はゲラゲラと笑った。


「やっぱりバカだ、お前は。確かにこの大会じゃあ、相手を殺すことは禁じられている。得物も刃に防御布を巻いたり、俺みたいに突起を外した武器で戦う。

 だが、それは悪魔でも()()()()殺した場合だ」


 ツルハはその言葉にゾッとした。

 そしてひんやりしたものが胸の内で溶けると、男に対して溶岩(マグマ)のように煮えたものが湧き上がって来た。


「つまりだ。事故で()()()()死んじまった場合は、お咎めなしって訳だ。

 分かるか?

 俺は何度か、この町の武闘会に参加しているが、俺に当たる連中は皆()()でな。打ち所が悪くて、中には頭部がトマトみたいに潰れちまう奴もいるんだ。

 きっと今回の大会でも、俺に当たる奴は皆不運になんだろうな――」


 その男の足が地からは離れると、その密室にドオッとざわめきが走った。

 少女は男の首根っこを掴み上げ、ギチギチと手から血管が浮き出ていた。


「この人でなしッ!! お前みたいなやつは、ここにいる資格はない!!」


 少女の怒声が走ると、周囲の男達は肩を震え上がらせた。

 少女の目は赤い光を帯び、業火の目の前にいるような恐怖が身に走ってきた。


「やめておけ」


 冷や水のような声がその煮えた空気に飛び込んでくると、少女はその力が抜けた。

 部屋の扉が開き、遅れて入って来た最後の参加者の男は、開戦をおっぱじめた少女に言うと、石の椅子に腰を据えた。

 

 その男の顔を見ると、ツルハはハッとした。


 真夜中のように黒い容貌。月のような色の瞳。

 あの時の男だ。


 男の姿を見ると、周囲の男達は、別のざわめきを漏らしだした。


「黒い髪、黒い衣、そしてあの大剣……」

()(おう)だ……、間違いねェ、あの鬼王だ」


 驚いた声が次々と漏れる中、鬼王と言われた男は、息をつくと、その黄色い眼差しをツルハに向けた。


「その手、放してやれ」


 大きな狼に睨まれたような感じだった。

 ツルハはその手をバッと放すと、男は「グエッ」と床に落ちた。


「ぜぇ……ぜぇ……、クソ、この女ッ!」


 男が今にもツルハに殴りかかろうとすると、あの声が男を制しする。


「こんな()めェ場所で暴れるな。お互い、やり合う機会なら、少なくとも今日はねェだろうが、勝ち残っていけば、この大会中いくらでもある。

 私情の決着なら上で着けろ」


 男が言うと、若い男はその拳をグッと抑え、ツルハに舌打ちをすると渋々退き下がった。


「おい、そこの」


 鬼王の目がギロリとツルハに向けられると、ツルハはビクッとした。

 しかし、その恐怖を見せまいと、


「何よ」


 そう強い声で返すと、鬼王は言った。


「この町の大会は、ここにいる、カーラーみたいに平気で人を殺す奴もいる。そういう場所だ。

 もし命が惜しいなら、諦めてその(ケツ)を引っ込めるんだな」


 男の言葉は、胸の内に静まっていた怒りの炎を少し呼び醒ました。

 ツルハは男の前に立つと、言った。


「貴方には、絶対に負けません」


 ツルハが言うと、鬼王はその目をじっと暫く見ると、


「楽しみだな」


 そう微笑んだ。


 それと同時に、部屋の扉が大きく開かれると、案内人の男の声が飛んできた。


「これより第一試合を開始します。順次案内いたしますので、出番が来るまで、ここでお待ちください」


 そう言うと、案内人は最初の出場者の名前を呼び、その男と共に部屋の外の光の中へと消えて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ