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コロシアム1

 アルンベルンの町は、夜の帳が落ちても、日中のように眩しいくらい明るい町だった。

 どこもかしこも色鮮やかな灯りに照らされ、うるさいくらいの人々の声が部屋の中まで聞こえた。


 アルンベルンに着いたのは、夕暮れの刻だった。

 迎えに来た、遣いの男達が平原の家を訪れて来ると、ツルハとアルフィーは用意された馬車に乗って、オズ達に別れを告げた。

 オズ達は最後まで心配そうな顔を浮かべていたが、「大丈夫、絶対勝って戻って来るから」と頭を撫でた時の、彼の頷いた顔は強く心に残った。

 必ず勝たねば。勝ってあの子たちを、彼らの幸せを取り戻したい。

 灯りを消した寝床の中、ツルハは少年たちの顔を思い浮かべた。


「……姫?」

 

 扉が少し開いた音と共に、聞き慣れた男の声が聞こえて来た。


「アル」


 ツルハの顔が見えると、アルフィーは柔らかな表情をつくった。


「やはり、起きておられましたか」


 扉を閉め、部屋の中に入るアルフィーに、ツルハは少し曇った顔で頷いた。


「勝負の決まり(ルール)は、どちらかが降参するか、戦意を喪失するまで。武器は、得物を布とかで収めた状態だから、殺される心配はないの。

 ううん。私が恐いのは、そんなことじゃない。

 負けて、おじいさん達の悲しい顔を見ることのほうが、死ぬよりもよっぽど辛いわ。それを考えると、恐くて……」


 アルフィーはそれを聞くと、立てかけてあった鞘に納められた剣をツルハに抱えさせた。


「大丈夫です。姫には私と、この剣がついています。

 ウォルンタスの剣は、必ず姫の心に応え、姫が勝利を手にする力を与えてくれます。

 私は闘技場で姫のお隣にいることはできません。しかし、心は()()に置いていきます。私は姫の傍で、姫を護っていますよ」


 柄を握っている手に、触れて来た手は、とても温かかった。

 まるで、その手の温もりに恐怖が吸い取られていくように、身の震えも消えて行った。


「ありがとう、アル。私、必ず勝って見せる。そして、オズ君達の幸せを護って見せる」



     ***



「うむうむ。良い感じだ、実に良い感じだ。このボクの偉大さを知らしめるにふさわしい!」


 観客のいない円形の闘技場の中を眺めると、貴賓席で満足そうにフェムルは頷いた。

 観客の雛壇は、四角い白亜のタイルで固められ、闘士たちの土の舞台は、起伏や石ころの一つ無く綺麗に平らにされている。

 その外装も金銀の装飾が施され、闘技場とは思えない豪華絢爛な()()をしていた。


「フェムル様」

 直属の男の声が後ろから聞こえると、フェムルは双眸にあてていた双眼鏡を下ろし、振り返った。

 フェムルが振り返ると、男は頭を短く下げると、()()達の前から横に退いた。

 男に代わるように、紅蓮の鎧に身を包んだ、見上げるように大きな戦士風の巨漢と、金髪の一人の少女が現われる。

 巨漢は、厚い鋼鉄の板を合わせたような重装鎧に身を包み、バケツをひっくり返したような双角付きの兜を深々と被っており、その隣にいる少女は、執事(バトラー)のような黒衣装に身を包み、夜の幕を下ろしたような暗のかかった眼鏡をしていた。

 

「来たか。例の物は持って来ただろうな?」


 フェムルが言うと、少女は手に持っていた金属製の銀鞄を開いて見せた。

 鞄の開く金属音と共に、敷き詰められた分厚い(じゅん)黄金(きん)の束が優美な光を放ちながら現れると、フェムルは見惚れ声を漏らした。


「おおお!

 これだけの黄金があれば、ボクはもっと町を大きくしてより一層の権力(ちから)を得ることができる。

 そうなれば、やがては小国、いや、()のグラディワンドに並ぶ大陸一の強国の王となることも夢ではない! グフフ」


「まだ……渡せない」


 空気のようなぼんやりとした声で、少女が蓋をぱたりと閉めると、フェムルはムッとした。


「分かっている。これをもらうのは、お前達から受けた依頼(しごと)が終わった後だ。

 見て見ろ! この闘技場の美しさを!

 これだけの環境を整えてやったのだ。

 それだけではない。今回の武闘会は、これまで以上に金をかけている。

 噂を聞いた力自慢のバカ共が、賞金を目当てにこの町にドッと押し寄せて来ている。これまでより格段にレベルの上がった戦いを見ることができるはずだ。

 これ以上お前達にとって最高の舞台はないだろう?」


 フェムルはバッと手を広げ、闘技場を、どうだとばかりに見せつけた。


「お前達からの依頼はしっかり()して見せよう。安心しろ、ボクは約束は守る男だ。

 それに、お前達の主は、その()を介して見ておるのだろう?」


 フェムルは少女に顔を近づけ、笑むも、少女の表情は微動だにしなかった。

 まるで、人形のような奴だ。

 フェムルは、つまらないような顔をすると、まあ良い、と笑む。


「その目でしっかりと見ていると良い。その代わり、報酬の方を忘れるなよ?」


 傲慢な態度で、少女を指差し、そう念押しをすると、フェムルは貴賓席を後にした。


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