ツルハと少年4
「サナイド!? バカなッ!」
フェムルは目が飛び出る程に見開き、叫んだ。
サナイドは、雇った傭兵の中でもお気に入りの一人だった。
B級冒険者の中でも腕が立ち、高名な国の戦士団に所属していた経験もある。
その男が、あまりにあっさりと倒された光景は、まるで悪夢でも見ているようだった。
ツルハが倒すと同時に、アルフィーも、倒れてまだ意識がある最後の男の頭をポカンと杖で叩くと、決着をつけた。
「バカな……バカなバカなバカなッ!
おい、ツァイ! こいつらを何とかしろ!」
後ろで見物をしていた男にフェムルが叫ぶと、ツルハとアルフィーは構えた。
その男の目を見ると、ツルハの身体はブルッと震えた。
真冬の冷たい一風が走ったような感覚。
それは、その男がさっきの男よりも遥かに強敵であることを伝えていた。
その男は、まるで夜のように漆黒だった。
フード付きの、縁がボロボロになった黒のマント。その中からは白銀の胸当て鎧が、ギラギラと輝いている。背には自身の背丈ほどの両手両刃の剣を携え、マントと同じ色の短髪の髪の下には、月のような淡い黄色の瞳が輝き、冷たい眼差しを向けていた。
男はしばらくじっと2人を見つめた後、フッと微笑んだ。
「オレの出る幕じゃあねェな」
男がそう言うと、フェムルは怒鳴り声をあげた。
「ふざけるな! お前の美学に構っている暇はない! とっとと奴らを――」
「まあ、待ちなさい」
フェムルは、聞こえていた声に振り向くと、賢者の法衣に身を包んだ男が落ち着いた声でフェムルに語りかけた。
「確かに、その領域の主であれば、その開発のために住む者の立ち退きを強行することは可能です。それは、独自の自治を行う町の長にも適用されます」
何を当たり前のことを、というようにフェムルは「その通りだ」と返す。
「ですが、それは己の権利が及ぶ範囲内での話。貴方の領域外であるこの土地では、その所有主がいる以上、貴方がどうこうすることはできません」
フェムルは、少し汗ばみながらその口を遮ろうと声を出そうとするが、
「ですが、あなたのやっていることは乱暴で品のないどころか、下手をすれば、面倒な団体から制裁を受ける可能性もあります。"世界騎士団"という言葉は、町を治める者であれば、ご存知ですよね?」
「せ、世界騎士団っ?!」
フェムルは怯えたような声を上げた。
アルフィーは頷いた。
「貴方のように粗暴な者に搾取される人々を護るために結成された、世界規模の団体です。私は顔が広くて、そこの団長と縁が深いのですよ。もし、貴方が自身の行為を正しいという自信があるなら、ぜひ騎士団を間に入れて、お話しましょう。ついでに、一般人に刃を向けたことについても、説明して頂きましょうか」
フェムルは返す言葉もなく、ただ怒りと悔しさのあまり地団太を踏んだ。
「分かった! では、こうしよう!」
フェムルは何かを思いついたように叫ぶと、ニヤリと笑んでアルフィー達を指差した。
「アルンベルン法、第545条により、お前たちを"無関係者介入及び町長侮辱罪"の罪とする!」
支離滅裂な言動に、アルフィーとツルハだけでなく、オズ達も口をポカンと開いた。
「主ながら、なんてバカげた野郎だ」
黒い男も呆れて言うと、フェムルは「黙れ!」と叱責を飛ばした。
「お前のことだ、どうせまた何かインチキな法を持ち出してくる可能性がある。だが、ボクの町にもボクの法律というものがある。この法を否定すれば、それは町の正義を侮辱することになり、簡単に拒むことはできないはずだ。
だが、これでは平行線を辿るばかりで決着がつかない。だから、一つ提案だ。
三日後、ボクの町で、新たな闘技場完成を祝って、ちょっとした大会を行う予定だ。そこで、そこにいる女が、ここにいる男、ツァイと勝負をして決着をつけるというのはどうだ?」
「なんだと?」
アルフィーが眉を上げると、フェムルは続ける。
「この提案に乗れば、お前たちの罪は不問にしてやろう。そこの女が勝てば、ボクはここの開発を潔く諦め、二度と手を出さないことを誓う。しかし、もしツァイが勝てば、ここの土地は否応なくボクの町の一部に加えさせてもらう。どうだ?」
アルフィーは返事を拒んだ。
自身が出場するならば、まだすぐに返事を返すことができただろう。
しかし、あろうことか、姫だ。その姫を武闘会などという危険なことに参加させるなど――
「やります」
ツルハの言葉に、アルフィーは耳を疑った。
「姫!」
アルフィーが言うも、ツルハは答えた。
「もしここで断れば、この人たちは何をするか分からない。そうなったら、おじいさんやダム君、マノちゃんが酷い目に遭わされるかもしれない。
それにきっと、アルじゃなくて私をわざわざ指名したってことは、この人は私に戦わせたいのよ」
ツルハが言うとフェムルはほくそ笑んだ。
「良い返事だ。では、すぐに馬の手配をしよう。夕暮れの刻には、迎えが来る。
宿はこちらで用意するゆえ、心配は無用だ。では、三日後、楽しみにしているぞ」
そう言うと、フェムル達は馬に跨り、その場を去って行った。
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