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悪徳令嬢クラリス・グローリアの永久没落【書籍化】  作者: モモンガ・アイリス


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068話「獣の戦_03」





「魔族じゃねぇか。クラリスの客人ってぇのは、おまえらか」


 感動の再会を演ずる私たちのところにやってきたランドールは、不審げに眉を寄せてユーノスを睨んだ。

 おそらく直感的に、彼らの『頭』がユーノス・グロリアスであると看破したのだろう。まあ、別に獣王でなくてもちょっと勘が良ければ誰にでも判りそうなものなので、いちいち褒め称えることでもないが。


「いいや、魔族でもないしクラリスの客人でもない。俺たちはクラリスと共にあるモノだ。こいつのやりたいことをやるし、やりたくないことをやらせない」


 獣王の圧力に一歩も引かず……どころか、ずんずん歩いて前へ出て、ユーノスは私の頭に掌を乗せた。


「はぁん? っつーことは、おまえらもついて来るってことか。ガキもいれば弱そうなコボルトもいて、役に立つってのか? ああん?」


「おまえの役に立つ必要があるか? 俺たちは()()の役に立てばいいんだ。()()がそうしろというならそうするが、おまえがそうしろと言っても従う必要を感じないな。獅子王ランドールだったな、おまえが認めたのはクラリス・グローリアだろう」


「あん?」


「だったら、おまえが認めた()()にアレコレ言え。俺たちはこいつの手足だ」


 ドヤ顔で私の頭をぽんぽん叩き続けるユーノスだったが、私もオークのモンテゴには似たようなことをしているので、文句は言わなかった。

 正直、言えた義理でもないのだろうし。


「手足ときたか。魔族の連中がそこまで惚れ込むとはな……ククク……いいじゃねぇか、好きにしろ。好きにしていいぞ、クラリス」


 何故だか上機嫌になったランドールが軽く手を振り、踵を返す。

 私の頭に掌を乗せたままのユーノスも、唇の端を少しだけ持ち上げていた。



◇◇◇



「あれが獣王ランドールか。レクス・アスカはあれを殺して別の王を立てるつもりなんだな?」


 ユーノスたちが使っていた馬車に乗り込み、魔人種の少女カタリナと狐人の少女キリナを両脇に侍らせた私は、現状をあれこれ説明することになった。


「まあそうだな。『王の器』と言うなら、ランドールでは不十分だ。このまま放っておくと、たぶんマズイことになる」


「マズイこととは、なんじゃ?」


 一緒に獣王の都に来ていたはずなのに途中から別行動が多かったせいで妙に久しぶりな気がするセレナが、私にへばりついているキリナを眺めて呆れたような顔をしつつ、それでも問いを口にした。


「端的に言えば、発展できない」


「獣人の領域全体の話じゃな。発展できないと、どう困る?」


「簡単な話だぞ。そうだな、カタリナはどう思う?」


 左腕にぎゅっと抱きついている魔人種の少女に水を向けてみる。カタリナは日向ぼっこ中の猫みたいな顔をしていたのを一瞬で改め、理性の光を瞳に宿して頷いた。

 まあ、私の腕には抱きついたままだが。


「そうですね、獣人の領域がずっと現状維持を続けている間に人族が様々な変化を経るからじゃないですか? 今の人族でさえユーノフェリザ氏族の突貫を退けることができるんです。もっと発展すれば、ひょっとすれば獣人の領域を制圧することができるようになるかも知れません」


「ふむ、いい観点だ。キリナはどう考える?」


 右腕に引っ付いている狐娘に投げてみれば、キリナはとっくに考えはまとめたとばかりに迷うことなく頷いた。


「脅威に備えるのもそうだと思います。それに、文化っていうか、いろんな発展をするのに邪魔だからっていうのもあると思います」


 現在の獣人たちは、てんでバラバラだ。

 知る限りでは皮肉にも獣王の都がもっとも雑多な種類の獣人が暮らしているが、そうでない場所では、ほとんど一種族、もしくはせいぜい二種族くらいの集落が広い大地に点々と存在しているだけだ。


 各々が、各々の価値観で、各々の流儀で、各々の生活を。

 ほとんど交易すらないのでは、文化が育つわけもない。

 必要は発明の母とは言うが、混ざり合う必要がないのだ。


「そう、どちらも鍵になるのは『発展』だな。進化と言ってもいい。獅子王ランドールはそれを阻害している。レクス・アスカは、そのことがとても煩わしい……と、私にはそう見えた」


「つまり、あの女にとって『正しき王』があり、ランドールはその器ではない、という話じゃな。言わんとすることは理解できる」


 たまたま私はランドールのお気に召したわけだが、そうでなければクラリス・グローリアがなにをどう言おうが、ランドールは聞きもしないだろう。

 どんなに正しい道を説かれようが、あの獣王は鬱陶しいと思えばただ却下するだろうし、なんなら発言者を縊り殺すに違いない。


「獣の国から、獣人の国に――か」


 ユーノスがまとめた。

 概ねそんなところだろう。短い間ではあるが言葉を交わし、生活を共にしてみて思うのは、『よくも十年耐えられたな』だ。

 あと二十日くらいなら楽しく暮らせるかも知れないが、あと一年と言われれば、私ならお断りだ。


「それでクラリス。今から人族に襲われた犬獣人の村を奪還して、その後に森を抜けてスペイド領へ抜け、領主の住処を襲うんだな?」


 確認の言葉のはずなのに、ユーノスは口から吐いた科白を全く信じていないようだった。そんなわけないだろ、と表情が言っている。


 だから私はにんまり笑って頷いてやった。


「まずは村の奪還だな。もうちょっと進めば大鷲人のブルノアが状況を知らせてくれる。村の状況次第で動きは変わってくるだろうが、ひとまずは人族の誰かを捕虜に欲しいな。できれば話の通じるやつで」


「捕虜、ですか?」

「人族の捕虜が必要なのですか?」


 左右からのステレオボイスが、正直ちょっぴりうざかったが、我慢した。まだ少女なのだ、なんだか知らないが私に懐いているようだし、寂しかったのだろう。


「情報が欲しい」


 と、私は言った。

 これにピンと来たのは、どうやらユーノスだけのようだった。セレナもカタリナもキリナも、一様に首を傾げている。


「そうか、なるほどな……状況を追うのに注目していると気づかないものだな」


「どういう意味じゃ?」


「最初の疑問が置いてけぼりになってる。どうして人族は村を襲いに来た?」


 そう、それだ。


 これまで人族はわざわざ獣人の領域に攻め込んだりして来なかった。獣人たちがスペイド領の土地を奪わないのと同じ理由だ。維持管理ができない。

 では、何故――と考える前に、ひとつ思い出すことがある。

 スペイド領について。

 随分と昔の話のように感じるから、ここで改めて回想しておこう。



 ――()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()。連中はランドールが獣人の領域を牛耳っているのが気に食わないっていう話だった――



 スーティン村を襲った狼族ザンバ・ブロード。

 キリナの実父であり、反獅子連の一員。情報を吐かせた後はきっちり焼いて土に埋めた……と、そのあたりはまあいい。


 ザンバの話を真に受けるのであれば、スペイド領の何者かは反獅子連と繋がっている。あのとき私は「人族なんてどうせ裏切る」と吐き捨てたし、今でもそう思ってはいるが、接触自体は行っているはずなのだ。

 でなければ『スペイド』という具体的な名は出て来ない。


「裏がある、ということじゃな?」


 どんな裏が――と考えるには、おそらく材料が足りない。

 だから材料を補いたい。


 私は言う。


「いいか、ユーノス。セレナもカタリナもキリナも。あとで他のやつらにも伝えておけよ。とりあえず獣王に付き合ってる。とりあえずレクス・アスカの策に乗ってやってる。だが、私たちはあいつらの手下でも仲間でもなんでもないぞ」


「そうじゃな」


「ええ、そうですね」


「もちろんです、クラリス様。私たちは――」


「――『栄光の氏族(グロリアス)』だ」


 笑って見せるユーノスたちに、私も笑ってやった。

 まあ仕方ない。

 こいつらに多少の責任感を覚えるのは、そんなに悪い気分じゃなかった。




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― 新着の感想 ―
反獅子連はレクスにコントロール?されていて 反獅子連はスペイドと繋がってる? じゃあレクスは…
[良い点] 主人公が2人のことちょっとうざがってて笑いました
[良い点] 主人公は見てるとスカッとします [気になる点] タイトルが気になる……
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