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悪徳令嬢クラリス・グローリアの永久没落【書籍化】  作者: モモンガ・アイリス


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054話「獣の王_06」





 そう時間も経たないうちに、山猫獣人のニーヴァが人数分の茶をトレイに乗せてやって来て、我々の喉を潤してくれた。それからややしばらくが経ち、レクス・アスカと愉快な親衛隊が戻ってきて、ニーヴァがまたお茶くみにパシらされた。


「まだ信用はできぬ。だが、レクスがおまえを必要としているのは、理解できた。もう少し様子を見たい」


 四人の中ではリーダー格らしき大鷲人のブルノアが言った。

 レクスと一体どのような話をしていたのかは多少気になったが、そのあたりは突っ込んでも仕方ないだろう。それにどうせプラドと話したことの繰り返しになる。


 言葉をいくら交わしたって、信頼には到達しない。

 そもそも、よく考えれば『信頼』だの『信用』だのが欲しいわけではないのだ。


 クラリス・グローリアの立場としては、レクスに協力を請われて、獅子王ランドールとその息子である『王の器』を見たいというだけだ。

 協力は、まだ保留。

 プラドは悪くないと思った――むしろ興味を引かれる男だった――が、まだランドールを見ていない。


 レクスもプラドも、口を揃えて「あれは駄目だ」と言う。

 だったら、たぶん駄目なのだろう。

 しかし「たぶん駄目なんだな」くらいのノリで他所の国の王を殺すのに協力しようとは思わない。私は反撃で容赦をするほど優しくはないが、武力の行使に慎重さを要しないほどの短慮でもないのだ。


「そうか。だったら見ているといい。こちらはこちらで、ちょっと話もした。レクス、私の要求は変わらないぞ」


「プラド様と話を、ですか」


 言葉の後半は無視し、レクスは表情を変えないまま視線をプラドへ向ける。

 獅子王の息子は苦笑を洩らしつつ頷いた。


「この娘のことは、まだ俺は理解していない。しかし興味は湧いた。面白い女だとも思う。そしてこの娘は『見ていろ』と言った。知りたいのであれば、言葉ではなく行動を、とな。親父に会わせてやろうと俺は思うぞ」


「……そう、ですか。判りました」


 ほんのわずかな間は、躊躇だったのか戸惑いだったのか。

 私には判らないが、いずれにせよ『間』は本当に一瞬だけだった。


「娘よ。王に会って、なんとする?」


 と、ブルノアは猛禽類の眼差しを私へ向ける。


「あんたは知らないだろうけど、気乗りしなければ……いえ、逆ね。気乗りすれば殺されるかも知れないわよ」


 そう付け加えたのは、女狼人のリルだ。別に心配そうな口調ではなかったが、とりあえずの忠告は与えようという気になったのだろうか。


「獅子王に会うのは、オイラでも緊張する。気分次第で襲い掛かられてもおかしくない。そういう方だ。娘、おまえでは危険」


 と、こちらもまたありがたい忠告をくれたのは象獣人のネレスト。

 リルよりも少しだけ、その口調には心配の色が濃かった。


「ウチもそう思う。あんたも昔はランドールに会ったなら、そのことは知ってるはず。妖狐セレナでしたか。あんたはどう考えている?」


 やや違う方向の意見を口にしたのは兎獣人のルーチェだ。こうしてみると愉快な親衛隊の四人も各々が違った個性を持っているようで、機会があればもっと話をしてみたい気になった。

 が、今は置いておこう。

 問われたセレナを見てみれば、「ふんっ」と小さく息を洩らし、腕組みしていた手を解いてわざわざ大仰に肩を竦め、


「お主らは知らぬ。我は知っている。その娘は、クラリス・グローリアじゃ。ランドールごときでは、とてもとても御せぬ。そういう小娘じゃよ」


 そんなふうに言った。

 勝手にハードルを上げないで欲しかった。



◇ ◇ ◇



 謁見するなら夕餉の前がいい、とのことで、ほとんど即座に獅子王の元へ向かうことになった。


 メンバーは案内役としてレクス・アスカ、親衛隊として女兎人のルーチェ。私の護衛兼個人的事情から妖狐セレナ、そして私、クラリス・グローリア。

 プラド・クルーガや他の親衛隊、私のお伴であるコボルトのプーキーや犬獣人のテナードは謁見に参加しないことにした。

 というのも、ごちゃごちゃ大人数で押しかけると王の不興をかいそうだというレクスたちの意見が一致したことが、まずひとつ。それと、王殺しを企てているプラドが『協力者』のクラリスと一緒に登場するのはさすがに拙いという話になった。


 対外的に、今回のレクスの出張は「『反獅子連』による被害の確認」だそうだ。もちろん聡明なレクスは被害の確認なんてさらっとこなしている。

 で、私を連れて来た対外的な理由については、獣人の領域で獣人たちをまとめている人族がいたから、王に会わせておこう、というもの。


 話の筋としては、おかしくない……はずだ。たぶん。


「いいか、親父もそうだが、親父の側には大抵、兄貴が付き従っている。親衛隊の隊長だ。ガーランド・クルーガという。見れば判るだろうが、気をつけろよ。親父に負けず劣らず、苛烈で、短慮で、無遠慮だ」


 とは、プラドの言である。

 その兄貴におまえは勝てるのかと問えば、「親父を殺すのに、兄貴で躓いていては話にならんだろう」とのこと。虚勢には見えなかったし、たぶんプラドはそのあたりで強がるタイプでもなさそうだから、言葉通りの意味なのだろう。


 ともあれ、だ。


 テクテクと先を歩くレクスへ倣い、我々も寄宿舎を抜け、敷地を横切り、王の座します王宮へ足を踏み入れることとなった。


 獣王の城が人族のそれと違うのは前にも言ったが、ようは大きな敷地内にいろんな建物が建っている、その敷地を『王宮』のように呼んでいるわけだ。

 そして『王宮』の中にある『王宮』……宮殿、とでも言うべきか? まあ呼称なんて、なんだっていい。


 大きさは、ちょっと狭い体育館くらいだろうか。バスケットコートを二面は取れない程度。外観としては、神社仏閣に造りが近いかも知れない。かなり面倒そうな組み木が使われており、外壁も漆喰かなにかで――なんか似たようなものがあるのだろう――塗られており、単純な木造建築ばかりだった獣人の生活観からちょっと浮いている。


 扉は観音開きになっており、オークの家みたいに扉そのものが大きく、なんだかよく判らない装飾も施されている。

 その立派な扉の両脇には、近衛なのか猫っぽい獣人が二人立っており、ニーヴァがそうしているように腰には山刀を提げていた。


「彼女たちを王に会わせます」


 てこてこと一定の調子で歩き、近衛の前で立ち止まり、レクスは口調も表情も変えぬまま、ぽつりと呟いた。


 そういうレクス・アスカには慣れているのか――まあ、考えてみればこの女豹はロリっぽい外見とは裏腹に、王の頭脳を十年以上も勤めているのだ――近衛の二人はちょっと顔を見合わせた程度で、すんなりと扉を開けてくれた。


 ぎいぃぃ、と、軋む音。


 中からは、むわりと濃い匂いが漂ってきた。

 練香を焚いた煙、なにか甘ったるい食べ物を潰したような臭気、それらに混じるわずかな獣臭。ケモノ臭いのだ。


 宮殿の内部は、やはり寺に似ていた。外観から連想されたのと同様、ちょっと狭い体育館、といった広さだ。派手な葬式をあげるにはこれくらいの床面積は欲しいだろう。まあ、現段階では王の葬式を上げるつもりはないが。


 そう――王がいる。


 広い空間の手前側には、ほとんどなにもない。床と、壁と、壁際に壺らしきものがいくつか並べられており、その中で香を焚いているようだ。

 奧には……なんというべきか、教室で例えるなら教壇のような、体育館で例えるなら舞台のような、あるいはライブハウスで例えるならステージのような、そういう、ちょっとした段差があり、その段差の手前に獅子獣人が一人、その脇には蛇獣人? 蛇の獣人という表現が正しいのかは判らないが、蛇人が一人。


 段差の上には、女が三人。

 王が一人。


「ただいま戻りました。我が王」


 珍しくはっきりと声を張り、レクスが言った。

 言いながらも、歩調は崩さず、舞台へ向かって歩いている。

 ので、私も同じように、王の近くへ歩く。


 獣臭が、濃くなる。

 むっとするケモノの匂い。

 たぶんそれは、獣人同士の情事のニオイも混ざっている。


 王の周囲に侍っているのは、猫っぽいのが二人、犬っぽいのが一人。

 三人が三人とも、獣度合いが異なっている。

 さすがにコボルトみたいに「まるでぬいぐるみ」みたいな獣人はいないが、それでも顔の造形が半ば獣寄りの女もいたし、逆に耳と尻尾以外は概ね人族と変わらないようなのもいた。


 獅子王は――ちょうど、中間ほどだろうか。

 顔立ちは人族に近くもあり、獅子に近くもある。鬼と言われればなるほどと頷くであろう、そういう造形だ。髪の毛はたてがみを連想させる長さと()()()()っぷりで、色は白に近い金。体毛も、まあ毛の濃い男と言えなくもないし、獣度合いがそれなりに濃いとも、言えなくもない。


 ヒトと、ケモノ。

 その中間。


 だが存在感は、突出している。

 息子のプラドに対しても似たような印象を覚えたが、とんでもない。親であるランドールは段違いだ。まさに百獣の王がそこにいるという、圧倒的な存在感。

 体格そのものは、オークよりも象獣人よりも小さい。しかしそれでも長身のユーノスよりは大きいし、骨格そのものが一回り以上はごつい。


 真っ赤に焼けた鉄を見て、触れると危ないと理解できるみたいに――獅子王を見れば、その危険性が否応なしに理解できた。


 猛烈な暴力が、そこにある。

 それを他者へ理解させる、そういう存在感だ。


「よう。戻ったか、アスカ。そこの娘はなんだ? 人族と……狐人か?」


 くわぁ、と大欠伸を洩らしながら、ランドールはこちらを見る。

 空気を通して感じる『強者の風格』は、魔境で出会ったユーノスの父、ヤヌス・ユーノフェリザを越えている。この男の気分ひとつで、誰かの命が掻き消されても全くおかしくない――そういう極めて不快な存在感の持ち主だ。


 なるほど。

 理解した。


 ()()()()――()()()


 私はレクスが返答するより先に、妙にぎしぎしと軋む脚を動かしてレクスの前へと身体を動かし、いつものように胸を張って、言った。


「はじめまして、だな。私はクラリス・グローリア。獅子王ランドール、私はおまえのことを知りに来たぞ。ケモノの国の、ケモノの王――獅子王ランドール。だからおまえも見定めろ。私が、クラリス・グローリアだ」


 さあ、見得は切った。

 それで……これから、どうしよう?






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