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005話「双子_01」





 私、クラリス・グローリアのような少女が素っ裸で歩いていたら、とても目立つに決まっている。


 ので、ミュラー伯爵の城下町を抜ける際、私はそこらの衣類店に押し入り、適当な服を拝借してしまった。強盗である。何故か店主はいなかったが、もしかすると私の火刑を見物に行ったのかも知れない。


 少々申し訳ない気はしたものの、私は一文無しだった。

 仕方なくそのまま徒歩で城下町を抜け、街道に出て――しかしそのあたりで、考えないわけにはいかなかった。


 何処へ行く?


 判るわけがない。

 が、いずれにせよミュラー伯爵領からは出た方がいいはずだ。なにしろ私はミュラー伯爵殺害犯であり、グローリアの名を騙る犯罪者であり、焼いても突いても死なない少女である。()()()()()()()()()のかは私にも判らないし、わざわざ試そうとも思わないが。


 とにかく。

 私は街を出た。

 街道を歩いた。

 日が暮れて、何者かに囲まれた。


 三段オチみたいで思わず笑ってしまった。


 街道をぷらぷら歩いていた私の脇から、いきなり人影が現れていつの間にか囲まれているのだ。「追っ手か?」などと思ったが、追われて当然なので無意味な疑問だった。

 むしろ「誰の手の者か」と考えるべきだった。

 考えたところで答えは得られないが。


「クラリス・グローリア様ですね?」


 追っ手の中の誰かが言う。

 私はそれに否定も肯定も返さず、腰に手を当てて顎を突き出してみた。たぶん、とても可愛らしい仕草だったはずだ。クラリス・キュートが過ぎる・グローリアは、可愛いところが取り柄なのである。

 だった、と言うべきかも知れない。


「我々はイルリウスの使いです。イルリウス卿はあの火刑を見ていました。貴女を匿う用意がある、とのことですが……」


 ですが、と言うからには選ばせるつもりだろうか?

 あの火刑を見たというのであれば、もしかすると私が無敵の美少女に生まれ変わったとでも思っているのかも知れない。追っ手を数人差し向けた程度ではクラリス・グローリアを捕らえることはできない、とかなんとか。


 実を言えば、全然そんなことはなかった。


 あの火刑の場でなんとなく判ったのは、私はどうも「この私の肉体」を維持し続けるのではないか、ということだ。

 胸にぶち込まれた矢を抜いたときも、正直言ってめちゃめちゃ本気で力を入れて矢を引っこ抜いたのだ。普通なら「こんなに力入れたら筋肉とか痛めちゃうよ」というくらいに力を入れたが、別になんともなかったし疲れもしなかった。


 どうやら私は「そういうモノ」になったのだ。

 これはなんとなくそう思う、というだけの根拠のない実感だ。


 なので現状、私は屈強な男性数人に取り押さえられたらそれであっさり捕らえられてしまうのだ。私に相手を殺す気がなければ。


「なるほど。招待を受けよう」


 と、私は言った。

 行くあてなどなかったし、イルリウスがなにを考えているのかも少し気になったし、状況が悪くなるのであれば、なんだかそれはそれで良いような気もしたのだ。


 やめておけばよかったが。



◇ ◇ ◇



 イルリウスとは、ロイス王国の大貴族、レオポルト・イルリウス侯爵閣下である。控えおろう控えおろう。


 あの火刑を見ていたのもイルリウス侯爵本人だったようで、どうやら噂のミゼット嬢を自分の眼で見ようと考え、わざわざミュラー伯爵領まで赴いたという。そこでたまたま私の火刑が行われた。


 私はイルリウスの使いに案内されるまま馬車に乗り、貴族令嬢としてはいまいちだが地球の現代日本に住むアラフォーのおっさんからしてみれば上等な待遇で、おおよそ十日ほど移送された。


 旅路については省略する。

 別になにもなかったからだ。


 そうしてイルリウスの城へ案内され、特別な場所でもなんでもなさそうな一室へ通された先に、レオポルト・イルリウスが待っていた。


 レオポルトは大貴族という印象とは裏腹に痩身で、特注らしい衣服も威厳こそあれ動きやすい簡素な造りを好んでおり、とにかく人材集めが好きな男だった。


 容姿は、申し訳ないがあまり優れていない。トンボかカメレオンみたいな逆三角形な顔のつくりをしていて、ぎょろりとした眼差しがこちらを撫でるたび、尻でも触られたような気持ちになった。

 これはお互いにとって不幸な事例と言えよう。別にレオポルトは私の尻を触りたかったわけではないだろうし、私も尻を触られたいわけではなかったのだから。


 さておき。


「貴様の生活を保障してやる代わりに、やつらの相手をしてもらいたい」


 時候の挨拶もなく、レオポルトは入室した私を睨みつけてそんなことを言った。私ごときに挨拶など無駄だと思っているのか、そもそも誰が相手だろうが挨拶なんぞ無駄だと思っているのかは判らなかった。


「やつら?」


 と私は首を傾げた。そんな私に、レオポルトはわずかに眉を上げる。


「知らんのか? そんなはずはない。『双子のギレット』は学園でもかなり有名だと聞いたがな」


 知っていた。

 が、よく判らなかった。


 双子のギレットの相手を、私が?


「断るなら断るで構わんぞ。もっとも、貴様に行く場所があるのならな。私であれば貴様の生活を保障してやれる。もし役に立つのであれば身分の保障もしてやろう。せいぜい死ぬ気で学べ――『無才のクラリス』」


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