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悪徳令嬢クラリス・グローリアの永久没落【書籍化】  作者: モモンガ・アイリス


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043話「迷宮、そして女豹_01」





 ダンジョンとは、神々が創り出したとかいう『生み出すモノ』である。

 いわゆる『神の迷宮』だ。


 どう考えてもその土地面積には入りきらないであろう広大な地下迷宮と、その中を徘徊する魔物。何故か配置されている宝箱、その中の秘宝。前人未踏の場所であっても人工的な罠が配置され、特定の階層には強力な魔物が待ち構えている。最下層の最奥には強大なボスキャラが控えており、そいつを倒して最後の秘宝を得ることが出来れば、一国の王にもなれる。


 ――というのが、ロイス王国の学園で教えられたダンジョンの概要である。


 ちなみにロイス王国にはダンジョンなど存在していない。

 正確に言うなら、現在は存在していない。

 ではどうして学園でダンジョンのことなど学んだのかといえば、そもそもロイス王国はダンジョンを攻略して創られた国だからだ。


 多少の語弊や誇張はあるだろうが、初代ロイス国王は仲間と共にダンジョンを攻略し、金銀財宝や名声をゲットして国を興したと伝えられている。


 そう、一国の王となったのだ。


 現在ロイス王国が確認しているダンジョンは、ロイス王国の南西に存在する大砂漠の中心にある『熱砂の迷宮』と、砂漠を挟んださらに南の国の首都が『迷宮都市』と呼ばれているとかなんとか……ちょっと曖昧だが、そんな感じのはずだ。


 それが、だ。



「……ドゥビルの岩山に、()()……?」



「出現したというよりは、掘り当てたという方が近い。迷宮は最初からそこにあった。我々が採掘しなければ、おそらく発見できなかったはずだ」


 まあそうだろう。

 ドゥビル一人であれば、採掘する鉄鉱石の量もたかが知れていた。私たちが人手を寄越してズンドコ掘り進めたからこそ、迷宮の入口に辿り着けた。


「最初は俺たちもわけが判らなかったから、入口から中に入ってみた。迷宮だと確信したのは、魔物を倒した後にこんなものが現れたからだ」


 むっつりと難しい顔をしたガイノスは――元々仏頂面なやつではあるが――持ってきたらしい物を床の上にごとりと置いた。無論、彼が普段使っている斧ではない。

 なんだろう、金属のブロックというか、インゴットのように見える。


 いや、見えるというか、まさにインゴットなのか?


「ドゥビルに確認したところ、鉄の塊だそうだ。もし仮に同じような調子で鉄が出てくるなら、岩山地帯を採掘するよりはるかに効率がいい。もしかすると、魔鉄や魔銀も出てくるかも知れん」


「……なるほど」


 迷宮とは、()()()()()()――か。


「クラリス殿、我々はどうすればいい?」


「ガイノス、おまえはどう考えている?」


 間髪を入れず問いに問いを返す。ガイノスは仏頂面のまま床に置いた鉄のインゴットを指先でそろりと撫で、頷いた。


「迷宮に入るべきだと考えている」


「ほう。それはどうしてだ?」


「俺たちの前に、この時期、たまたま偶然、迷宮の入口が現れた。もちろん俺たちは入口を閉じてそれを無視することができる。だが、それでいいのか? クラリス殿、あんたは目の前に現れた様々なものを受け入れ、呑み込んできた。ならば今回のこれも、そうではないのか?」


 ついっ、と指先が鉄塊から離れる。

 ガイノスの真っ直ぐな眼差しは私を捉えたまま、微動だにしない。


 確かに――言われてみれば、確かに、だ。


「……だけど、迷宮って、危険だろう?」


「前回の『反獅子連』の襲撃も危険だったろう。向こうから来るか、こちらから行くかの違いでしかない」


 なにを言っているんだ、とばかりにガイノスは首を傾げた。

 確かに――それもまた、言われてみれば、確かにと頷く他ない。


「まあそうだな。それじゃあ私と、あと何人かで……」


 と、そこまで言ったあたりで、玄関が開く音がした。

 オークが入れるようにと設計された家なので、実は私は私の家の玄関を開くことができない。コボルトたちも同様で、逆に言えばそれ以外の誰でも扉を開くことは出来る。十歳程度の少女であっても、だ。


 魔人種の少女、カタリナ。

 妖狐セレナの娘、キリナ。


 二人は大層慌てた様子で言った。


「クラリス様! リーフ・リーザが戻って参りました!」

「クラリス様! リーフ・リーザが、自分の主人を連れて来ました!」


 主人?

 と、首を傾げる私に、二人は声を揃えて答える。


「レクス・アスカという豹族の女です」



◇ ◇ ◇



 スーティン村の入口に、彼女らはいた。


 先日のギャ……ギャなんとか、名前は忘れたが、あいつらのときと同じだ。待たせて、必要があれば誘い込み、集会所跡地に誘導できればカタパルトによる投石が可能になる。

 もちろん、あそこまでキレイに決まることなどないだろう。なんなら二度とないと思う。あんなに間抜けな軍隊がそうそういるとは思えない。


 それに、まだリーフ・リーザが敵とは限らない。

 彼女の『主人』であるレクス・アスカが――と言うべきか。


 さておき、村の入口にはリーフ・リーザとその馬車、その横に皮鎧を着込んだ兵らしき者が数人、その奧に三頭立ての馬車が一台と、馬車の脇には兵士たちとはやや異なる装いの獣人がいた。

 リーフと同じくらい人間に近く、リーフと同じような耳と尻尾があり、すらりとした長身の持ち主だ。髪は茶と黒の斑で、腰帯に短刀を吊している。どうやらレクス・アスカの護衛といったところか。

 彼女はのんびり歩いて来た私へ鋭い視線を向けているが、敵意のようなものは、あまり感じなかった。


 それで全部だ。

 少ない。

 少なすぎる、と言っていい。


 対してこちらの陣営は、お馴染みの渉外担当モンテゴが立っており、その脇には何故かセレナが腕組みしている。他にはトーラス族の男が何人か、そして一番前にはユーノスが仁王立ちしている。


 まあ、多くはない。

 威圧するにしては少ない方だ。


「にゃー! クラリス様、久しぶりだにゃ! あたしの上司、レクス・アスカ様を連れて来たにゃん」


 御者台から跳び上がり、ひょいと軽やかに着地したリーフは、大袈裟に両手を振りながら私にそんなことを言った。


「なるほど、上司か」


「そう。上司だにゃん」


「なんでわざわざ、こんな辺境に、軍勢も率いず、おまえの上司が?」


「ここのことを話したら、目で見てみたいって言ったにゃ」


「目で見たい、ね」


 ふぅん、と私はいいかげんに頷いておくが、胸の内で警戒の水準を上げることに決めた。『目で見てみたい』なんて科白、普段は目とは別の物を使って見ていなければ出てこないはずだ。


 では、レクス・アスカは目ではなく、なにを使っている?


 決まっている。リーフ・リーザだ。

 行商人を装って、獣人の国をあちらこちらへ移動し、各地の状況を知り、知り得た事柄を主人へ話す。

 情報を得て、いうなれば『耳で見ている』のが常なのだ。


 ユーノスとセレナが、私の警戒心を察してか、わずかだけ居住まいを正すのが見えた。もともと二人とも特に隙などなかったのが、ほとんど臨戦態勢みたいな心構えになっているのが判る。


「まあ、いいさ。見たいというなら見るがいい。目で見て、耳で聞いて、肌で感じて、心で震えろ。私が――クラリス・グローリアだ」


 一歩前に出る。

 何故なら、ちょうど三頭立ての馬車から女が一人、降りるところだったから。


 意外にというか、かなり身長が低い。

 私の記憶の限りでは、セレナたち狐人の一族を解散させた十年前にはまだ十代だったという、獅子王ランドールの部下、頭脳労働担当、豹族の女――それがレクス・アスカだったはずだ。


 その女豹は、護衛らしき女獣人の介添えを受けて馬車から降ろしてもらうと、両の足を地に着けたことに安堵するかのように息を吐き、それから、こちらへトコトコと歩いてきた。


 外見は――なんというか、浴衣と外套の中間みたいな服を着ている。民族衣装っぽさもあるし、高名な学者のようでもあるが、身長のせいで七五三という印象の方が強かった。間違って高校の制服を着ている小学五年生、とでも言おうか。


 獣人としてはセレナと同じくらいの獣度合いらしく、耳と尻尾以外は人族とそう変わらない。ただ、やたら大きな瞳の形がネコ科の動物特有のそれだったのは、やはり獣人らしい特色だろう。


 特色というなら、もうひとつ。

 彼女は、胸が大きかった。

 ロリ巨乳である。

 ロリ巨乳お姉さんだ。


「どうも。初めまして。レクス・アスカと申します。あなたがクラリス・グローリア様ですね」


 一礼するでもなく会釈するでもなく、レクスはきょとんと首を傾げて言った。

 ぽつりぽつりと、雨粒が落ちるような声音だった。





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