第二話
上空に響き渡るヘリコプターの爆音。富雄川に架けられた自衛隊の仮設浮橋を行き交う大型ダンプが撒き散らす砂塵と煤煙。崩壊した瓦礫にとりつく重機のディーゼルがひときわ高まり、また一つ大きなコンクリート片が砕かれる。
京都大学防災研究所地震予知研究センター非常勤研究員、大和香住は、額に吹き出る汗を首に巻き付けた手ぬぐいで拭き、ヘルメットを被り直した。奈良盆地に降りる初夏の日差しは、赤茶けた土くれに残る僅かな水をも解き放ち、ほとんど触れるほどの熱塊となってゆらりとたちのぼった。
5日前。奈良盆地東縁断層帯で発生したM6.2の直下型地震は、その揺れの規模よりも断層の変位量の大きさで記録的なものとなった。5月に移転を完了したばかりの奈良県総合医療センターを、その敷地となった丘ごと崩壊させ、脇を流れる富雄川に架けられた橋や堤防を破壊し、県道249号を超え、西岸の畑まで伸びる断層の変位は西側隆起1.7m、右横ずれ1.0mに達し、その露頭部分の長さは2kmに迫っていた。
震度6弱の揺れが奈良市西部を襲い、住宅の倒壊やがけ崩れが多数発生したものの、人的被害の多くはこの医療センターに集中していた。地域の拠点病院を失った奈良県は対応に苦慮し、センター建設を請け負ったゼネコン本社の記者会見で統括本部長が見せた傲岸不遜な態度は、報道番組やSNSの格好の餌食となり、各スポーツ紙の見出しに「人災」の二文字を踊らせた。
「……手始めに、あの辺りかしら、ね」
香住の視線は敷地南西の雑木林を捉えていた。