第十四話
「これ普通に不審者じゃんオレ……」
河原町通り沿いのショッピングモール5階のウィメンズコーナーで、ブラトップにショーツにシャツにボトムスにショートソックスにスリッポンスニーカーなどという夏物フルセット(←サイズは全部Sだ)を買い物カゴに入れながら呟く。
激混みな168号を抜けてようやく京都市内に入る頃になると、香住が妙にそわそわしだした。曰く、……確かにこの格好はヤバいかも、とのこと。そりゃ祭りでも温泉街でもないのに浴衣に素足じゃあんまりよろしくねぇよなぁ。ってことで、御池の地下駐車場にジムニーを止めて、香住には待っててもらってこうして手書きメモ片手に買い出しする羽目に。にしてもアイツなんであんな格好で山入ってたんだろ? それからなんで下着まで買わなきゃいけねえんだろ? そりゃ汗かいて気持ち悪いってのも分からなくはねえけれど、こんなこっ恥ずかしいアイテム、レジまで持っていかされるオレの身にもなってみろってんだよ実際……。
「……以上6点で9,850円になります。ギフト用にラッピングしますか?」
「いや、すぐに着替えるんで結構です」
「か、かしこまりました……」
いや違うんですほんと、いや違わないんですけど、って、あぁあ゛めんどくせぇ!! 妙に引き攣った笑顔を張り付かせる店員さんになけなしの1万円札を渡し、スマホのアプリの提示の勧めを丁重に断り(だってこんな買い物登録されたら、妙なプッシュ通知とか来ちゃうだろ?)、下りのエスカレーターへと足早に向かう。暫くはこのユニクロの敷居またげねぇじゃねぇかよまったく。
駐車場まで戻ると香住が後部座席で小さく丸まっていた。地下駐車場とはいえ意外に人通りが多かったとのこと。やっぱり不審者じゃんオレら……。
「……先輩ありがとう」
「あぁ」
「じゃ、ちょっと待っててね」
「あぁ……ってそこで着替えるのか!?」
「……他にドコで着替えるというのよ?」
ヒトが来ないか見張っててね&見たら殺すからね。などという捨てゼリフとともにそそくさと着替え始めた香住。まさかとは思うが下着まで穿き替えるというのだろうか……?
「……変なコト考えてないでしょうね?」
「いいえまったく」
後部座席から開封されたプラ袋やタグや帯や浴衣が飛んでくる。小柄な香住でもジムニーのセカンドシートは狭いらしい。ジタバタする香住にあわせてギシギシと揺れる車。これじゃホントに不審車過ぎる。お願いだから誰も通らないでくださいあと少し……。
程なく終わる着替え。ちょっとトイレ行ってくる、と言い残し、助手席側のドアを開けて出ていく香住。仕方がないので投げられっぱなしのプラ袋を片付け、脱ぎ散らかされた浴衣と帯を畳む。っていうか……
「え゛? こんだけなの??」
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いやぁ迂闊だったわぁ。成り行きとは言えあんなクラシカルなスタイルで“戻される”とは思わなかったし、いくら普段着=作業服なガテン系女子だからといって下着なしの浴衣onlyな大正スタイルで街中うろつくのはちょっと無理。ホント先輩が来てくれて助かったわぁ……ってなんか先輩固まってるし。どうした稔くん?
「お前さぁ……ちょっと無防備過ぎねえか? いろいろと」
……すみません。以後気をつけます。