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The day ③

「もしかして黒田なのか?」

「真幸、今日は誘ってくれてありがとう。だけど、誘っておいて俺が誰かわからないとか酷いな」


 浩市と言葉を交わしていた真幸がようやく黒田氏に気づいたらしい。……うわぁ、真幸との会話聞いてみんな固まってるね!

 そんな黒田氏の視線が私をドロボウ呼ばわりする子達の方へ向いた。


「だから、席は間違ってないんだよ。俺が『キモメン』の黒田だからな」


 出ました! 黒田名物、真っ黒ーい笑顔。うわぁ、超機嫌悪そう……こりゃ触らぬ黒田になんとやらだね。


「ぶっちゃけどうして今日呼ばれたのか分からないんだよね。卒業してから音沙汰無しだったし、サークルでもまともに話したことなかっただろ? だけど、アリサと浩市も呼ばれているって聞いたし、仕事関係で知り合った人も顔を出すって聞いたから、それじゃあって思って来たんだけど……」


 黒田氏、今日も辛辣ぅ! 真幸気まずくなったからって他のテーブル行くって言いながら逃げるのかよ……あ、それだけじゃなくて桃香が浩市に見とれてるのも気に入らないのね。わかりやすいなぁ……。


「黒田くん、大学時代と比べるとすっごく雰囲気変わったね〜」


 うわぁ、声がオクターブ高い! そしてあからさまに媚を売っている! ついさっきまでキモメン呼ばわりしてたくせして、何この変わり身の早さ! 怖い!!


「俺としては変わっていないつもりなんだけど? なぁ、アリサ」

「そうだね」


 仰る通り変わってないよ。大学時代の『素』の黒田とな!


「ちょっとアリサ、黒田くんとどういう関係? すごく仲良いみたいだけど?」

「アリサ、彼氏いないって言ったよね?」


 さっきまで、ドロボウ呼ばわりしていたのにそうですか……黒田氏にロックオンした途端、私にまで親しげな態度を取るわけですね。


「確かにアリサに彼氏はいないけど……な」


 浩市が苦笑している。あぁ、もうそれ以上言わないで!


「いい加減、黒田を受け入れたらどうだ? もう5年も口説かれてるんだろ? アリサだって黒田の事……」

「浩市やめてーーーーー! 私はまだ仕事がしたいの!」


 浩市バラすな! 浩市と奥さんには色々相談させてもらってるけど、そう言うことはちゃんと自分で言わせろコノヤロー!


「ねぇ、知ってる? アリサってば優しいから、友達の浮気から始まった恋を正当化させる為に当て馬のフリして嘘吐いてさ、ドロボウ呼ばわりされてんだよね。しかも百戦錬磨だとか見境ないとか無類の男好きなんて言われて、終いにはSNSでなりすましの被害にあった上、不倫の疑いかけられて……ただでさえ奥手なのにすっかり臆病になっちゃって……恥ずかしがらなくても良いんだよ、アリサ?」

「恥ずかしがってないわ! お前が重いんじゃ! 付き合ったら速攻孕ますだとか何処の鬼畜だコノヤロー。付き合うイコール入籍&同棲って仕事辞めなきゃ無理だから!」


 おっと、つい言葉が汚くなっちゃった。てへっ☆


「いやいや、俺が新幹線通勤しても良いって言ってるじゃん?」

「それが重いんだって!戻るまで数ヶ月待ってって言えばわかる? わからなくても理解しろ!」

「良かったなぁ、黒田。これ、遠回しにプロポーズOKしてるぞ?」


 浩市、余計な事を……。だけど黒田がめっちゃ機嫌良さそうだから……まぁいっか。


「黒田、待たせてごめん。だけどあともうちょっと待ってくれないかな?」

「アリサの頼みならもちろん待つよ」


 実は5年前、嘘をついた直後から黒田のアプローチは受けていたんだよね。

 真幸への気持ちは一気に冷めたとはいえ、片思いしていた期間は結構長くて、切り替えられなかった。それに、黒田の言う通り臆病になっていたんだよ。

 黒田の事が好きだからこそ、友達のままでいたかった。


 でも、やっぱり人間って欲が出る訳で、それ以上の関係になりたいなと思う反面、友達の枠を超えてしまうのが怖くてずっとはぐらかしていた。

 それに、私は仕事と家庭を両立できるような器用な人間じゃないんだ。

 だから、悔いなく仕事をやり切ってから、黒田の思いを受け止めたいんだよ、全力で!!


 ちょっと前、桃香に質問責めにされて、彼氏はいないけど好きな人はいるって言ったんだよね。

 案の定誰か聞かれてはぐらかし、いつから好きか聞かれて、大学の頃から好きな人だって言った。そしたら桃香は見事に私がまだ真幸の事が好きなんだって勘違いして……。

 二次会に誘われたのだって、それを言わされてから。

「アリサにもちゃんと見届けて欲しい」ってやたらと挑発的だった。


 おっと、自分の世界に浸ってしまったぜ。

 あれ? みなさんどうされました? 顔がポカンてなってるよ?

 ドロボウ呼ばわりしてた女がイケメン捕まえて……そりゃ衝撃ですよね……しかもそのイケメンが『キモメン』呼ばわりしてた黒田だもんね。

 そりゃ超展開すぎてポカンてなるわ。この状況でOKしてしまった私自身が1番びっくりしてるけどな!


 あれあれ、入り口のところに見知った顔があるよ。おかしいなぁ……予定よりも随分早いんじゃない?


「なぁ、真幸。俺のクライアントのご夫婦が彼女の世話になっているらしくて……プレゼント渡したいそうなんだが入れても大丈夫か? 渡したらすぐ帰るって言ってるし……」

「あぁ、もちろん構わないさ。桃香の知り合いなら俺も挨拶しなくちゃな」


 気付けば黒田が真幸連れてきて許可取ってたよ……この状況ではまずくない? ねぇ、大丈夫? なんかもう恐怖しか感じないんですけど……。


 黒田に連れられて真幸の前までやって来た、ゆり子さんとゆり子さんの旦那様。つまり私との不倫疑惑があった人。

 ゆり子さんは、とっても立派な花束を持っている。

 すごく綺麗だけれど……ダリアと紫陽花……ハイドランジアかな? それから、カスミソウとラベンダー……。


 真幸が桃香を呼び寄せて、ようやく桃香は『飛び入りゲスト』に気付いたらしい。キッとこちらを睨まれたけど……なんで私が睨まれなくちゃいけないんでしょうか?


「ほら、私よりもあなたが彼女にお世話になっているんですもの。あなたから渡さなくっちゃ」


 余裕綽々のゆり子さんに対し、旦那氏ものすごい脂汗かいてるやん……ゆり子さんに花束を押し付けられて動揺しまくりだよ……。


「お、おめ、で、とう、ございます……」


 シドロモドロで尻すぼみになってゆく旦那氏の声。そんな旦那氏に追い打ちをかけるゆり子さん。


「桃香さん、ご懐妊ですって? ダブルでおめでたいですね。そうそう、体調のこともありますから、安定期に入るまで周囲への報告を控えているとは聞いているんですが、彼女と近しい人には共有させて頂いてるんです」

「ありがとうございます。そう言った理由でしたら、共有して頂いて構いませんし、ご配慮に感謝いたします」


 え、それ初耳なんですけど? 真幸、嬉しそうに答えてるって本当なんだね。

 うっわ、旦那氏の汗、やばいよ……ゆり子さん、やりすぎ。


「新郎さん、血液型は何型ですか? え、O型? ずっとB型だと思っていたけれど、つい最近献血に言ったら本当はO型だった? そんな話、時々聞きますよね。じゃあご夫婦揃ってO型なんですか? O型って向上心が強いって言いますし、きっと立派なお子さんになるでしょうね。うちは私がB型、主人がAB型なので変わり者のB型が産まれる確率が高いんですよ〜羨ましいわぁ」


 何それ怖い……ゆり子さん、暗にO型以外が産まれたら旦那の子だって言ってません?

 ゆり子さーん、そろそろ帰りましょ、ね?


「それからこれ、ちょっと少ないんですけれど……」


 綺麗な桜の模様の入った封筒。ご祝儀渡すみたいな感じで渡してるのってもしかして慰謝料の請求書ですか?

 ……この人怒らせちゃダメって私の本能が叫んでるよ。ガクブル((((;゜Д゜)))))))


「本当に今日、直接お会いしてご挨拶出来て良かったですわ。私達にとっても、特別な1日になりそう。ねぇ、あなた?」


 おそらく傍目から見たら、ちょっと引っかかる点はあるものの、なんて事のないやり取りに見えた事だろう。実際、真幸は気付いていないらしく、なごやかにゆり子さんたちを見送っていた。



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