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the past year

ここ1年のお話です。

 社会人になってからの3年間、私の日常は穏やかだった。

 ドロボウ扱いされることもなければ、尻軽だとか蔑まれて絡まれることもない。

 同僚にも上司にも恵まれ、社会人になってから出来た友人や高校時代からの友人、そして大学時代の2人の得難い友人と時々遊んだりと充実した社会人生活を送っていた。


 そんな日々に暗雲が立ち込めたのは、今から1年前のこと——


 いつものように出社した私は、自分の目を疑った。エントランスの受付カウンターに桃香がいたのだから。

 どうやら、私の見慣れた受付嬢から指導を受けているらしい。首をちょこっと傾げて、大げさに相槌を打つ感じ、変わっていないな……なんてその時はちょっと懐かしく思った。


 その日は、特に顔を合わせることも無かったけれど、同じビルで働いていれば、いずれ向こうも私に気付くことだろう。その予想通り、数日後に私と桃香は再会を果たした。


「アリサにまた会えてこうして話せて嬉しい! 」


 そう言って彼女は、私に避けられて悲しかっただとか、私を心配していただとか一方的に話し出した。そんな彼女に白々しさを覚えながらも、懐かしさの方がまさってしまった私がいた。あの頃のことをわざわざ蒸し返すこともない、きっと時間が解決したんだって桃香に都合の良い解釈をして。


 それから時々お茶を飲んだり、昼休憩の時間が合えば一緒にランチに行ったりした。ネイルサロンで一緒になることもあったし、通っている美容院まで同じなのには驚いたけれど。


 今思えば、自分のプライベートの話をし過ぎてしまったように思う。プライベートと言っても、何時に帰宅するだとか、いつが休みだとか、休みの日には何をしているだとかどんなところで服を買っているとか、通っている美味しいお店の事など自分についての話がほとんど。

 交友関係の話は極力避けた。どういうわけか話さない方がいい気がしたから。直感的に。

 どこか警戒しながらも、それなりに仲良く付き合っていたと思う。

 直近に会ったとき、来月の結婚式の二次会に出席してほしいと言われた。以前から、今でも真幸と付き合っている事は聞いていたし、結婚の事も彼女から聞いていた。それを聞いて、私はあの時嘘をついておいてまぁ悪くはなかったのかもって思えたし、この時まではそう思っていた。






 ***


 最近、上司の私に対する態度が以前と違う。

 冷たいというか、素っ気ないというか、無視されるわけではないんだけれど、良くは思われていないのだろうなというのがひしひしと伝わってくる。

 どう考えても思い当たる節はない。そればかりか、上司だけでなく、周りの態度もよそよそしいものになってしまった。




「ちょっと悪いんだけれど、休日出勤してもらっって良いかしら?」


 上司からの突然の呼出。

 私はすぐさま支度をして呼び出しから30分も経たぬうちに彼女の元へと到着していた。

 その速さに上司は驚いていたけれど、どこか安心した様な笑顔を見せてくれて。久しぶりに見る上司の笑顔だった。

 なんでも前日に送信した書類に不備があったらしく、先方からクレームが入ってしまったそうだ。だというのに担当者と連絡が取れないばかりかつかまったのは私だけ。とにかく急いで正確な書類の作成をしなくてはならないということで、早速作業に取りかかる。


「京都へ行っていたんじゃなかったの?」

「へ? きょ、京都ですか?」


 独り言にも似た唐突な問いに、おかしな声しか出なかった。


「行ってなければ良いのよ。詳しくは終わってから話すわ」


 どこかスッキリした様子の上司の笑顔に、最近感じていた冷たさは微塵も無かった。





「まずは謝ります。誤解していました。ごめんなさい。」

「へ?」


 再び情けない声が出てしまう。私、謝られるようなことしてないよ?

 そんな私のあほヅラを見て、上司ゆり子さんが呆れた様に吹き出した。


「もしかして、あなた自分が何言われてたか知らないの?」

「私が、ですか?」


 最近妙に避けられていたのってそのせい? なんて思ったら、とんでもない噂を流されていたよ!!

 男遊びが恐ろしく激しいとか、友人の彼氏を寝取る趣味があるとか、本気になったらポイッて捨てるとか、そんな根も葉もない噂だけならまだしも、とんでもない噂が出回っていたらしい。


「これ、見なさい。メールで回ってきたのよ」


 え……なにこれ?


「成りすまし、ってやつじゃない? 写真もあなたでしょう?」

「写真だけじゃなくて、出身地とか出身校とか生年月日まで私ですね……」


 "ALISA"名義で登録されたSNSのプロフィールは私そのものだった。しかも、トップの画像も私自身。


「あなた、社内不倫している事になっているのよ。しかも相手はうちの旦那様。顔は隠れているけれど、知り合いが見たらすぐに気付くような写真まで載せてくれちゃって」


 なんですと!? 男を見る目がない上に恋愛偏差値の低ーい私が不倫……あ、男を見る目がないから不倫するのか? いやいや、不倫なんてダメでしょ! 絶対!!


「だけどね、色々不自然な点が多いなって思って……女性の方も顔を写らないように撮った写真ばかりだし」


 ゆり子さんのいう通り、写真に写っている女性の顔は写っていない。トップにバッチリ顔出してるくせに、だ。

 手だけとか、後ろ姿とか、スーツとか……ナニコレ気持ち悪い。このネイル、こないだまでしていたのにそっくりだし、この靴もこのスーツもおんなじの持っているんだけど!?

 これじゃあまるで本当に私が不倫しているみたいじゃないか!


「今までごめんなさいね。冷静に考えれば判ったのに、感情のまま冷たく当たってしまって。だけどね、今日で確信を持ったわ。ほら、今日も既に3件ほど投稿しているけれど、あなたはずっと私と一緒にいて、アリバイがある。過去に撮った写真を使って投稿している可能性だって、この日付が入った写真があるから否定できる。……うちの旦那様、今京都に居るのよ。同窓会に出席するためにね」


 "京都の夜景♡ダーリンは同窓会に行っちゃってひとりきり。さみしいよぉ。。。"

 そんなコメントと共に投稿された夜景の写真にはガラスに反射して女性が写っていた。


「これ、もしかして……」

「どうしたの? こんな事する人に心当たり、ある?」


 ゆり子さんに写真に女性が写り込んでいる事を伝えると、彼女はPCを開いて写真を確認した。

 どうやら、彼女も写り込んだ女性に見覚えがあったらしい。


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