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5 years ago ③

 黒田氏の話を聞いてしまったら、私の『早まっちゃった感』が半端なくて凹んだ。


 私が浩市に呼び出された部屋は、私達が所属するサークルが居城としている空き教室に併設された資料室と言う名の物置だ。サークル仲間の黒田氏や桃香、真幸が来たところで何らおかしくはない。

 たくさんの本棚にはかつては学生の私物であったあらゆるジャンルの本が無造作に詰められ、棚の上や部屋の片隅には学祭で使うかもしれないという理由で様々なガラクタが置いてある。

 ちょっとした迷路と化した部屋が妙に綺麗なのは黒田氏が空き時間を快適に過ごす為に整えたのだと言う。


「他の奴には奥まで来て欲しくなくて、わざと入ってすぐのとこにボロいソファ置いてたんだ。そのせいであの2人がこの部屋の常連になってしまった訳だけど……」


 うん、察したよ。ここであの2人は乳繰りあってたって訳だね。

 黒田氏がこの部屋を使うときは部屋の奥、彼の居住空間(仮)で仮眠を取ったり音楽を聴いたりしているらしい。私と浩市に見せてくれたけど確かにこれはすごく快適そうだし、隠しておきたいスペースだね。


 黒田氏が色々話してくれて判明した事だけれど、もう半年近く前から桃香と真幸はここで密会していたらしい。浩市の日雇いバイト関係ないじゃん……その頃って私、桃香と普通に恋バナして桃香にめっちゃ煽られてたよね……なんかすげぇ凹むんだけど……。

 少なくとも週1、最近は2日に1度のペースでこの部屋にてイチャコラしていたらしい。今日みたいに2人が一緒に現れることもあれば、時間差で出入りすることもあって、桃香ひとりの時、彼女が口にしちゃう本音がそれはもう女性不信になりかねないレベルのものだったらしい。

 浩市と別れられない理由だって、私が予想した事も含まれてはいたけれど、貢がせるつもりだったとか……。


「思っていた程ではなかったけれど、アリサさんってバカなんだなぁって思ったよ。バカって言うのは語弊があるかな? バカみたいにお人好し、だね」


 黒田氏、ひでぇ……。私を目の前にしてバカ呼ばわりかよ。


「浩市も馬鹿だよ。ここにボイスレコーダーとカメラ仕掛けといたら証拠なんて簡単に集められたのに……」


 黒田氏、やめてやってくれ。浩市のライフはもうかぎりなくゼロに近いのだ。


「アリサさんも浩市も、暇なときはここへ来なよ」

「でもここは黒田の城でしょ? 私なんかが来て良いの?」

「2人なら構わないよ。俺にとって2人は特別だからさ」


 私と浩市の頭上には、クエスチョンマークが浮かんでいた事だろう。彼にとってなぜ私たちが特別なのか、その時は分からなかったけれど。

 私も浩市も、残りの大学生活を楽しく送ることが出来たのは黒田のお陰であることは間違いない。




 結論から言えば、私が桃香に本当の事を打ち明ける事なく大学を卒業をした。私が思っていたほど、彼女と私は信頼関係を築けてはいなかったらしい。


 私と浩市の事はあっという間に友人はおろか、知らない人にまで広まってしまった。さらにそこに盛大な尾ひれまでついたものだからタチが悪い。

 サークルでも学部でも、私は親友の男を寝取った性悪女というレッテルを貼られ、欲求不満の尻軽女と蔑まれ、簡単にやれる女だと勘違いされガラの悪い男に絡まれるようになってしまった。

 今まで友人だと思っていた人たちは皆揃って桃香の味方だった。

 私が反論なり弁明をするという事は、桃香と真幸の浮気を言いふらす事になる。この状況で何を言っても私の虚言だとしか思われないだろう。そんな事に労力を割くなんて馬鹿らしかったから否定も肯定もせずに過ごしていた。


 本人(わたし)を目の前にしての陰口なんて可愛いもんだった。

 低レベルの嫌がらせにはため息しか出なかったけれど、慣れてしまえば大した事ない。

 幸い、間も無く就活が始まり、周りと顔を合わせる機会もグンと減ったので精神的なストレスもそれほど感じる事なく卒業することができた。


 それほど感じなかっただけで、もちろんそれなりに腹も立てたし、辛くて泣いてしまう事だって少なくなかったけれど。

 周りに私の事をボロックソに言わせておいて、「アリサが可哀想だよ……私はアリサと仲直りしたいの……だけど、アリサが……」なんてあたかも私が彼女を拒否してるように言っているのを聞いた時にはあまりに胸糞悪くて吐き気がした。

 私は彼女を拒否はしていない。彼女に私の話を聞く用意があるなら腹を割って話したいと1度メールを送っている。周りを固めて、私を近づけないようにしているのは彼女の方だ。

 本当に仲直りをしたいと思ってるなら、とっくに私からのメールに返信をしているはずだもの。


 彼女は周りを煽り、私を孤立させようとしていた。おそらく、彼女サイドの人間の目線では私は孤立しているように見えていたはず。


 だけれど、実際はそうじゃなかったんだ。

 私にはちゃんと居場所があったし、真実を知っていてくれる友人が2人もいたのだから。

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