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5 years ago ②

「……え、どういう事?」


 イラッシャイマセー、2名さまご案内でーす! と心の中で言っておく。


 まじか。なんというタイミング。指を絡めたいわゆる恋人繋ぎでやって来たのは桃香と真幸だった。

 そりゃこの状況見たら驚くよね……だけどこっちも驚いてるよ?


 ついさっきまで浩市の「どうしたら桃香と別れられるか?」を自分なりに考えていたんだよ。この状況でも浩市(こいつ)じゃ食指が動かないんだよなぁ……とか思いながら。

 まさか、こんなに早くチャンスが巡って来るとは思わなかったけれど。

 桃香がごちゃごちゃ言っているところから判断するに、浩市のセリフを聞いていたらしい。これは絶好のチャンス!


 捨て身の作戦ではあるけれど、まぁいいか。多少浩市にも汚名を被ってもらう事になるけれど、良いよね? いくらでもフォローのしようはあるし。


「……どういう事だ? 説明しろよ?」


 イラついた様子の真幸に、私は精一杯の虚勢を張った。


「どういう事って、この状況見たら分からないかな?」


 意外にも、食いついて来たのは桃香だった。


「アリサ……説明して!」

「説明も何も……私たちがキスするところ、見たかった?」


 あ、今イラッとしたよね? 桃香ってイラつくと歯をくいしばる癖があるからほんとわかりやすい。今まではそれも可愛く思えたんだけど、必死で悲しい顔を作ろうとしているのが伝わって来てとてもあざとく見えてしまう。


「……どうして?」

「どうしてって、浩市とのエッチに興味があったから。桃香には悪いなぁって気持ち、無かったわけじゃないけど。ずっと彼氏いないし、手近なところで欲求満たそうと思ったらたまたま浩市だっただけ。それより、なんで2人はこんなところにいるの? もしかして、私とおんなじ事考えてた? ここなら人気(ひとけ)ないし、内側から鍵もかけられるし、多少声が出ちゃってもドアがしっかりしてるから外にまで声が漏れないもんね……ってなわけないか」


 図星だったのだろう。桃香の顔が真っ赤だし、手がプルプル震えている。それに心なしか、真幸の顔も青い。


「あはは、ごめん。下品な冗談が過ぎたね。桃香は私を探しにきてくれたんだよね? 嬉しいけれど、タイミングが悪かったかな。お陰で、浩市とやり損ねちゃった」


 悪びれずに笑っておく。だってその方が悪女っぽいでしょ? 私は悪女を演じているのだよ。キャラじゃないけどな!

 浩市さんや浩市さん。さっきからの姿勢で固まるのはやめてくれないか?

 まぁ下手な演技をされるよりは真実味が出てマシだけれど、こちとらかなーり言ってて恥ずかしいのだよ?


 そんな事を目で訴えていた私は、気付かなかった。真後ろに、真幸が立っていた事に。


 首根っこを掴まれたかと思えば、頰に鈍い痛みが走る。次の瞬間、前方でドンガラガラと大きな音。

 どうやら、私と浩市は真幸に殴られたらしい。


「アリサ……信じられない……」


 涙を浮かべて走り去る桃香を追いかけて、真幸は部屋を出て行った。私たちに文句を言いたそうな顔をして。

 私めっちゃ睨まれたけど、ぶっちゃけあの2人に殴られる筋合いも、睨まれる筋合いもないと思うんだよねー。

 それに女に手を挙げるなんてないわー。100年の恋も冷めるってこういう瞬間なのかしら? 真幸ってそういうタイプだったんだねー。うわぁ、私って男見る目なーい。。。


 2人が出て行って暫くの後、未だ頰を押さえて放心状態で床に転がる浩市に手を差し出す。


「きっとこれで別れられると思うよ。まさか殴られるとは思ってなかったけど。ごめんね。」

「どうして……?」

「結構あの子プライド高いから、自分がふられるのが許せないんじゃないかな? 自分がふるにしても、正当な理由が欲しかったと思うし……」

「そうじゃなくてさ、なんであんな嘘付いたの? あれじゃあ悪者になるのはアリサじゃん……」

「時が来たら彼女に本当の事を話すよ。私、桃香とはそれなりの関係を築けているつもりだから……これで壊れちゃったら、いずれ壊れる仲だったって事だしね」

「アリサ……マジで男前……カッコ良すぎだろ……俺が女だったら、アリサに惚れてまうわ……」

「いやいや、私女だからね? 恋愛対象男だし!」


 私も、浩市も失念していた。

 ここはあくまで学校であって、人気(ひとけ)が無いとはいえ誰も来ない保証があるわけじゃない事を。


「ははっ……それじゃあコントじゃん」


 部屋のドアとは反対側から聞こえた第三者の声に動揺を隠せない私。現れた人物は、必死で笑いを堪えている。 部屋の奥から来たよね? って事はつまり……


「ちょ、ちょっと!? 黒田ぁぁぁぁぁ、おまっ、いつからここに!?」

「いつからって、もうかれこれ2時間くらい?」


 2時間ってことは私たちが来るずっと前じゃん!? 全て聞かれていたー!? マジか!? あり得ん!!!


「面白かったよ。アリサさん、結構男見る目ないんだなってのが率直な感想」


 いやぁぁぁぁぁ、それ自分でも思ってたとこだから言わないで!! 私のメンタルがぁー、グチャっと音を立てたぁ……。


「それ以上に、アリサさんには感謝してるよ。俺、ここで過ごすこと多いんだけど、あの2人にはウンザリしてたから。真昼間から盛られるのも迷惑だったし、彼女って1人きりだと思ったことが口に出ちゃうタイプらしくて。俺が女性不信になったら彼女のせいだと思うよ」


 黒田はニコニコしながら、「ありがとう」なんて言ってきた。解せぬ……。感謝される意味が全く持って理解できないのだが……素直に受け取るべきなのか? 誰か教えてくれ!!

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