5 years ago
時間は5年前に遡ります。
「なぁ、アリサは気付いてるんだろ?」
「一体君は何時、何処で、誰が、何を、どうした事に私が気付いていると言いたいのかね?」
5W1Hをすっ飛ばした質問だったので敢えて嫌味ったらしく切り返した私に目の前の男友達——親友の彼氏でもある——浩市が苦笑しながらも答えた。
「それ、教授のモノマネのつもり? 何時からかは知らないけれど、お互いの家とか然るべき場所で、俺の彼女の桃香と、アリサが片思い中の真幸が、人目を盗んで会ってはお互いの欲望を満たしている……つまり2人がやる事やってるという事にアリサは気付いているんだろう?って言いたいわけだよ」
「ちょ、待てって。そこまで詳しく言うな! 私は真幸が好きなんて浩市に言ったことないよ? 何故それを!! ついでに気付いていることでも、そこまで事細かに言われるとメンタルが……ガリガリ音を立てて削られちゃうから! この鬼畜!」
「アリサは鋼のメンタルの持ち主だから大丈夫! 真幸を好きだって事は随分前に桃香から聞いた。俺もお前らがくっついたら良いなぁ……なんて思って色々画策していたんだけど、それが完全に裏目に出てしまったんだよなぁ……」
今にも泣きそうな顔してる癖に、可愛い系イケメン様は絵になるなぁ、なんて思ってしまったよ。まぁ、私のタイプじゃないけど。
「で、それを確認してどうなるわけ? って言うか、私が2人の関係に気付いてるの知ってて言ってるよね? もし、そうじゃなかったら私泣いちゃってるよ? 片思い歴3年だよ? だけど真幸の好きな人が誰か気付いちゃってたから迂闊に告白も出来ずに機会を伺ってたら何時の間にか桃香と乳繰り合う関係になってしまっていたとか……自分で言ってて泣けてくるわ……」
重い雰囲気を壊したくて、白目を剥いて涙を拭くジェスチャーをしたら思い切り引かれた……。おいコラ! 捨て身の顔芸だぞ、ここは笑うとこだぞ!
「こんなとこに呼び出してさ、何か言いたい事があるんでしょ? 浩市はどうしたいわけ? この状況どう思ってるわけ?」
「アリサ……乳繰り合うとかやめて……その言い方、マジで引く……」
おい、引いてたポイントはそこかい!! こら、頭を抱えるな!!
「ごめん、こうなってしまった原因は俺にもあるんだ。桃香の誕生日プレゼントの為のバイトで、寂しい思いをさせちゃってさ。」
浩市曰く、少し前から日雇いのイベントスタッフのバイトに励んでいたところ、浩市が浮気をしていると誤解されてしまったらしい。
つーか、無理だろ。この不器用な男に浮気だなんて。桃香を溺愛する余り、告白してきた女子に惚気話を聞かせてもれなく泣かせちゃうような残念イケメン様だぞ?
酔っ払った時の惚気なんて砂糖吐く程度じゃ済まないクソ惚気野郎だぞ?
なんかこのセリフ、過去にも散々言った気がするけど……あ、桃香と真幸相手に言ったんだっけ……
「アリサは2人の事知っていて気付かないふりをしているんだよな? どうして言わないんだ? どう思ってるんだ?」
そりゃ言わないんじゃなくて言えないからだよね……だけど私、そんな事より誕生日プレゼントの方が気になるんですが……桃香の誕生日明日だよ? 流石に用意してるんだよね? この状況でも渡すのかなー? どうなのかなー? ってすいません。ふざけすぎました。だってシリアスな感じ苦手だもん……。
「桃香はアリサが真幸の事を好きだって知っているのに、関係を持ったんだよ? 腹立たないわけ?」
「それがさ、不思議と腹は立たないんだよね。ショックだけど。真幸が桃香を好きな事は知っていたし、その事で真幸からそれとなく相談は受けてたし。真幸も桃香も浩市が浮気をしてるって思い込んでた。一応、それは無いって説得はしてみたんだけどね、ダメだった。真幸の事は今も好きだけど、好きな人が幸せならそれでも良いかな……って感じだよ。桃香と自分比べたら間違いなく女として私は完敗だし。まぁ、順番逆だろ!? ちゃんとケジメつけてから付き合えよ! とは思うよ。真幸と乳繰り合うより浩市と先に別れろって言えたらとっくに言ってるよ……だけど、言えないんだよなぁ……2人が打ち明けてくれないのは寂しいけれど……何か理由があるのかもだし、打ち明けてもらえない以上、見て見ぬフリしか出来ないよ……なんて浩市の前で言うのは流石に酷だね、ごめん」
笑ってごまかしたけれど、つぅーっと頰を何かが……目から鼻水でも垂れたかな? 目と鼻も繋がってるって言うしね……。
「浩市はどうなの?」
「俺は……別れたい。もう、信じられない。だけど、別れを切り出しても毎回はぐらかされるか、別れたくないって泣いて縋って逆に質問責めにされて……別れたいのは俺が浮気をしているからだって結局責められて、俺が否定して、その繰り返し」
「真幸との事、問い質したりは?」
「それは……まだしてない。証拠が無いから言ったところで誤解だと言われたらどうすれば良いかわからない」
「じゃあ、証拠を集めて突きつける?」
「それをしたところで、開き直られたら意味ないし……」
「『だって寂しかったから仕方ないじゃない!』くらい言うだろうね」
「そうだな……俺と別れたら色々周りに詮索されるから絶対嫌だって。立場が悪くなっちゃうって言うんだよ……それもおかしくないか?」
正直、桃香らしいと思ってしまった。悪い子じゃないんだけれど、集団での自分の立ち位置を異常なくらい気にするのだ。
正直、それが彼女の苦手なところでもある。
「なんだかそんな理由で付き合い続けるのは馬鹿らしいし……もう、疲れたんだよ。俺は本気だ。桃香と別れたい……」
両肩を掴まれ、すがる様な瞳で必死で訴える浩市。
普通の女の子ならこんなに真っ直ぐこの男に見つめられたら頬を赤く染めてしまいそうなものだが、あいにく私の食指は動かないんだよなぁ……。
その時だった。人気のない、この部屋の重たいドアが開いたのは……。