The day ①
ギリギリ1日遅れのエイプリルフールネタ。
お楽しみいただければ幸いです。
『ねぇ、あれってアリサじゃない?』
『え、マジで?』
『……あんな事しておいてよく来れるよね。』
『ありえないわ。』
『どういう神経してるんだろうね。』
『そういう神経してるから、でしょ?』
『あはは、そうだった!』
『親友の男を平気で寝取っちゃえる様な神経の持ち主だもんね。』
いくつになっても変わらないな、と思う。
卒業してから4年。世間ではアラサーなんて呼ばれる位には大人な年齢になったところで、本人を目の当たりにして悪口を楽しそうに話す元友人たち。
私に聞こえないように話しているつもりなのか、わざと聞こえる様に話しているのかは不明。どちらにせよ、私が招かれざる客である事には変わりない。
私だって来たくて来たわけじゃない。周りの反応なんて想像に容易いし、今日の主役とはぶっちゃけなくとも関わりたくないし、そもそも今日私を呼んだ理由だってきっとロクなもんじゃない。
実はフロアを貸し切りにするための人数合わせの側面も持ち合わせている事だって承知済みだ。
そもそも縁が切りたくて仕方ないのにストーカーの如く追いかけ回してくる事にも嫌気が差してるし、私を貶める事によって自分の好感度を上げる手法もいい加減やめて欲しい。
ここらで一発ブチ切れるのもありかなぁって脳裏を掠めてしまったからここにいるわけで……。だけどブチ切れないよ!
ちょうど直近に長期出張の予定もあるしね!
仕事を理由に姿をくらませてOKと上司の許可を取ったからこそ、ぶ厚いツラの皮に笑顔を貼り付けてノコノコとやって来られたのですよ、半ば引きずられるように店の前までね。
店の前までやって来て、ここまで私を引きずって来た張本人は「招待客じゃないから」と言いつつも仕込みの為に真っ黒な笑顔で去っていったし、誰かと待ち合わせをしているわけでもないから中に入れば完全にアウェー。
『ドロボウ女』
背後で声がした。5年経っても泥棒扱いされるとは思ってもみなかったよ。いくら鋼のメンタルの持ち主と揶揄される私でも流石に泣けてくる。……悔しいから涙は見せないけどな!
クスクスと嘲笑うグループを確認すれば、「あぁ、やっぱり」という感想しか抱けない。
あの人たちは大人になっても中学生……いや、小学生並みの嫌がらせしか出来ないのね。そう自分に言い聞かせて平常心を保つ。
我ながら性格悪いと思うが、口にはしないんだから許して欲しい。じゃなくちゃやってられないのよ、このメンツと一緒に参加する酒の席だなんて。
全く動じない私が面白くないらしく、彼女らの悪口はどんどんエスカレートしている。
他の参加者にも聞こえるように喋ってるんだろうな。周りも気になるらしく、耳がダンボになっちゃってるもん。
あーあ、主役様は何やってるんだか。見せつけたくて私を呼んだんだろうけれど、ちゃんと彼女たちの手綱握っておかないと自分にとってデメリットな情報まで流されちゃうよ。相変わらずツメが甘いなぁ。
「御席ですがあらかじめ決まっておりますので、こちらの座席表をご確認の上お座り下さい」
受付時間になったので会費を払い、ついでに祝儀袋を預かってもらう。「おめでとう!」なんて言いながら直接渡せるほど私の心は広くない、けれど大人としてめでたい事だとは思うから用意はしたよ……。とは言え、全てが終わったら爆弾も渡すけれどね!
受け取った座席表を確認して、気が重くなった。
よりにもよって、さっき私をドロボウ呼ばわりした子たちと同じテーブルか。そこに扱いに困る2名と私を一緒にしたんだろうな。話し相手が確保出来るのは嬉しいけれど……ドロボウ呼ばわりした子たちは嫌な顔するだろう。きっと嫌な顔しながらも好奇の目でみられた上、私たちの事を面白おかしく吹聴するんだ。
彼女たちからしたら私は恰好のネタで、2人と一緒なんてカモがネギを背負って来るか、飛んで火に入る夏の虫みたいなもんだよね。
元親友の桃香と、私が昔片思いをしていた元男友達の真幸が今日結婚式を挙げた。
私は、親友の彼氏を寝取ったドロボウ女。
親友だと思っていた私に彼氏を寝取られた桃香。
そんな傷心の桃香を真幸が側で支えて、癒して、慰めて。
もともと真幸は桃香の事が好きだったけれど、桃香の彼氏は真幸の親友と付き合っていたから彼女への想いをずっと隠していたのだけれど……。
そんな桃香と真幸が惹かれ合うのは必然の事。
5年の交際を経てめでたく2人はゴールイン!
ってなシナリオなんだろうけれど。
そのシナリオの為にたくさんの嘘があって、その嘘のせいで迷惑を被った人がいるってこと、気付いてるのかな?
いくら今日がエイプリルフールだからって、嘘が全て許される訳じゃないんだよ?