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魔装と武装のスペクタクル  作者: ライコウ
3/3

無と闇は打ち解け混じり合う


「ーーで、ここは何処だ?」


痛みが好い加減にまで平癒してきたところで俺は疑問を投げ掛けた。


単純明解な質問だ。


できることならあそこまで泣きじゃくる理由を問い質したかった。激動の日々の中で何があったのかを。


でも紗羅はその話題に触れることを忌避しているらしく、何度尋ねても首を振るだけ。


遂に根負けして予てからの疑問を取捨選択した訳だ。


その質問には承知したようで、紗羅はさらりと言う。


「魔装都市」


……言うと思った。一筋の希望を信じあえて尋ねた俺の努力を清々しくブった切ってくれた。


「いや、それじゃあわからないんだって。もっと細かく、無知の俺が納得できるように」


「……スキルは何?」


やっとまともな答えが返ってきたと思ったら次はこれか。いい加減にしてくれ。


「んなもんねえよ。そんな非現実があってたまるか」


紗羅は、バカじゃないの? とでも言いたげに眉をひそめ、バカにするように溜め息を重々しく吐いた。


「忘れたの? 私のスキルであんたが死にかけたこと。硬直して身動き一つとれなかったでしょ」


「……むぅ」


確かに昨日の記憶は鮮明に覚えている。動けなかったのも死にかけたのも、紗羅がそのスキルとやらを発動したであろう仕草も。


しかし、所詮は俺の記憶。人間明日には約7割ほど記憶が失われるらしい。だから、全身麻痺と発作が同時に起きたかもしれないし、夢だったかもしれない。


決定的に信憑性が欠けているのだ。


「証拠を見せてくれよ。論より証拠、証明の手立てがない限り納得することはできねえよ」


軽くあしらったつもりが、紗羅は何かカチンとくるものがあったらしい。頬をフグのように膨らまして憤慨する。


「物分かりが鈍いわね! いいわよ! 見せてあげるわ!」


荒々しく言い放ち、俺に掌を見せてきた。前にもこんなことあったような……?


「私のスキルは、重力(グラビティ)。物体に加わっている重力を自在に操ることができる!」


「へー、で?」


「ッ……例えば……」


紗羅はきょろきょろと探査機のように部屋の中を物色する。何か最適で手頃な実験台を探しているのか、それはもう露骨に悪意を顔に含ませて獲物を欲する肉食動物の如く眼光をぎらぎらと輝かせる。


「例えばこれ!」


最終的に選ばれた犠牲者は、俺が占領しているベッド。


紗羅は惜しむことなく、掌を握りしめた。


ベコォ! 一瞬で木製ベッドがへし折れ、ミシミシと盛大に破壊音が密室に反響する。

そしてほんの数秒で立派な寝所は瓦礫と化した。


当然俺は支えがなくなってドスン、と尻餅

をつく。もう痛みにリアクションする余裕もなく、ただ茫然と瓦礫を見つめることしかできない。


「……………………マジかよ」


自分は直に体感して恐怖心を植え付けることになった。しかし話し合いで神経が弛緩して記憶が根こそぎ消え去っていたらしい、紗羅の(スキル)を 垣間見て再び恐怖心が蘇った。


紗羅はふふん、と鼻を鳴らし、下敷きの胸板をふんぞり返らせ超ご機嫌。すっげえ平ら。ブラの意味ないんじゃね?


「どう? これで信用したでしょ」


俺は無言で頷く。昨日自分にも同じことがあったと思うとゾッとする。恐らく紗羅はあれでも手加減したんだろう。あれで? ダンプカーにじわじわ踏み潰される地獄感でしかなかったんだけど。引かれたことないけど。


しかし、三途の川を渡りかけたのは事実である。


「もしかしてあの悲鳴も……?」


「まあね。相手もスキル使いだったけど能力自体が底辺並みだから瞬殺だったよ。あ、でも一人だけ、鉄壁(プロテクト)がいたから長引いたけど」


むーん、と後悔の念を悩ませる紗羅。虐殺行為を偽りなく自白する態度に俺は呆れる。新スキルがさりげなく登場したが、今後の関係性は皆無だろうから追求は省いた。


今に至るまでこんなリンチガールと馴れ馴れしく雑談していたのか……生還したのは奇跡だろう。


だって泣かした時は、


(ヤバいヤバい、どーしよ激昂が飛んでくるよー! 死んじゃうよー!)


と、断然死を確信したからね?


「一応聞くが、そいつらはどうなった? あとどんな奴らだった?」


まさか本当に息の根を止めたのか? と、頓着してつい尋ねてしまった。今更ながら少し戸惑う。


だって、もしそうだったら絶対夜も眠れなくなるじゃん。


「あの五人組の不良? 追放しといたよ? ああ、安心して。殺しはしてないから。骨格は粉々になったかもしんないけど」


「そ、そうか」


まだマシかと思いつつ、安堵の溜息をついた。


俺は一年前までの記憶しかないのだが、生涯で異能を視認したのも体感したのも初である。


俺が一年前に居着いた地域は平穏で、非現実とは無縁のような殺風景広がる地帯だ。コンビニが唯一の供給源となっている。


俺が最も愕然したのは学校があること。そこで現在勉学に励んでいるわけだが。


「あんたがあそこにいたってことは、『腐都市』で暮らしてんの? なら気を付けたほうがいいよ。全員スキル使いだから」


どうやら俺の住処は『腐都市』と呼ばれているらしい。一応そこも『魔装都市』の傘下だと紗羅は言う。


科学を知らないくらい異変のない毎日なのに、住み着いてる奴らが全員スキル使いだったとは……さては俺の同級生も?


「あの五人組の不良も?」


俺は首を傾げる。


「さっきそう言ったじゃん。あいつらは魔装都市から逃げたんだよ。金がないから。意外と物価が高いんだよね」


良かったー今まで出くわさなくてー俺死んじゃってたよー。プロテクトされてたら手も足も出ないからな。


初めて紗羅が誇らしいと思えた。遠回しの命の恩人だから。


まあ、その恩人に殺されかけたけどな。


「ありがとう」


それでも礼をするのが仁義だろう。紗羅は親を見失った子猫のように困惑する。


「……えと、なにが?」


「いや、なんでもない」


どうせ紗羅は、そんなつもりないから、とでも言うだろう。


勝手な善行なら俺も勝手に仁義を尽くす、それが俺のプライドだ。


俺が感慨に浸っていると、「あ、そうそう」と紗羅が何か思い出して手をポンと打つ。


「あいつら、所持金250円しか持ち合わせてなかったのよね……山分けしても百円しか貰えなかった」


「……それって……?」


紗羅が、しゅんと項垂れて呟いた言葉を聞き入れてとある引っ掛かりが生じた。


250円? 俺の全財産とぴったり合うじゃねえか!


しかし紗羅は勘違いしたらしく、


「山分けのこと? 私、『魔警』で働いてんの。追放の対象人物から金品を没収するのが規則で、おおよそ半分くらいが私の給料になるわけ。残りは公共福祉とかに使われるらしいよ」


「ちげえ! 俺が知りたいのは、250円のほう! 折りたたみ式で黒一色の財布じゃなかったか!? それならその金は俺のだ!」


つい語気が荒くなる。そりゃ百円でも彼女が持っているのなら、持ち主である俺に返還する義務がある筈。たった百円でもジュースくらいは買える貴重な財産だから。ていうか、『魔警』って何?


すると、紗羅は舌をにゅっと覗かせててへへ、とはにかんだ。


「確かにそんな感じだったけど……百円はもう使っちゃった♪ ジュース代にね」


「……………………は?」


もうこれ以上の言葉が出てこなかった。悲愴を通り越して純朴な無心状態。雑念が入り混じらない、まさに仏の鏡である。


「ごめんごめん。許しておくれ。あと、あんたを仲間と錯誤して殺しかけたのもついでに。じゃね。私、これから仕事だから」


そう言い残して部屋から姿を消した。反省もなく勝手に話を切り上げて、「生きてるから別にいいよね」と言わんばかりの犯罪帳消し命令を下す横暴さ。


俺は強く決意した。


あいつには二度と感謝しない、と。





























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