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魔装と武装のスペクタクル  作者: ライコウ
2/3

無と闇はめぐり逢う。

「……………………ここは?」


蛍光灯が眩しい。


そう感じるのは相当の間、気を失っていたのだろう。そういえば俺、殺されかけたんだっけ……誰か助けてくれたのか……?


なら悪運の強さに感謝、救世主に感謝。偶然誰の手も借りないで助かったとしても神に感謝するべきだろう。


状況を把握するべく上体を起こす、が、


「いっつ!?」


電流の如く激痛が全身を駆け巡った。ズキズキと抉る感覚に、また意識が持っていかれそうになるがなんとか正気を保つ。


沈痛な面持ちで堪え忍んでいると、


「大丈夫? まだ痛い?」


「え? あ、うん。平気……………………って! なんでお前がここにいんの!?」


目線の先には、昨日問答無用で生死を彷徨わせた張本人が、身を乗り出して覗き込む顔があった。昨日とは打って変わって神妙な顔つきだ。


……可愛い。


いやちがうちがう! そうじゃなくて!


「なんでって……ここまで運んだのが私だからよ」


困惑する俺を差し置いて、不思議そうに言う。


「は? 殺人未遂の張本人が?」


「別に殺すつもりはなかったわよ。情報の漏洩を避けるために気絶させただけ」


いや、完全に殺す気満々でしたよね?


「てか、生身の人間が首絞められたらどうなるかわかんだろ? あと少しで死ぬとこだったんだぞ」


正論を述べたつもりが、ハッと鼻で笑われた。


「何言ってんの? スキルがあるから少しは抵抗できるわよ。まあ私の手にかかればちょちょいのちょいだけどね。その中であんたは例外的に速かったわ」


人差し指をくるくる回しながら矜持を語る姿も愛嬌があるな……バカか俺は。


「いや、そんな近未来的単語を平然と出されてもーー 」


この子がバカなのか、昨日のショックで思考回路に異常があるのか一瞬戸惑う。反論するも、口を開く直前で遮られた。


「あなた名前は?」


「そういうのは自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃねえの?」


素っ気なく返したのが効果覿面。悟りでも開くかのように黙り込む。なんかチラチラ見てくるし……禁句なのか? それとも俺ごとき、名乗る価値もゼロってか?


気分を紛らわすために俺は頭をぽりぽりと掻く。埒が明かないので仕方なく俺が口火を開いた。


「まあ、言いにくいなら無理しなくていい。俺は隼。闇岬隼(やみさきしゅん)だ、よろしく」


「闇!? 闇って言った!? 門に音のあの闇!?」


態度が一変、目をぎんぎんに見開いてぐっと距離を詰める。俺は動揺の色を隠せないでいた。……もう少しでキス。


「そ、それがどうしたよ?」


「どうしたもこうしたもないよ! それはこの魔装都市では存在してはいけない俗称の一つだよ!?」


まーた訳のわからんことを言い始めたか。魔装都市って何だよ、なんで俺、ブラックリスト入りしてんの?


彼女は続ける。


「闇とか不とか悪とか、堕落に関係する字はNGなのよ。裏切る恐れがあるからね」


「それはなんとなく理解したよ、じゃあお前は……って言いたくないんだっけ」


「ううん、きっちり紹介する。あなた何の迷いも無しに言うから、ちょっと安心した」


何故に自己紹介くらいで恐縮して躊躇するのか? 減るもんでもないのに、反応が大袈裟すぎると思うんだが。


訝しげに首を捻る俺を無視して淡々と、しかし不安はまだ取り除かれいないのか、おどおどした口調で言う。


「……私は、よ、夜無咲(よむさき)…….紗羅(さら)。そ、その、よ、よろしく」


特段異質でもない、普通じゃねえか。


「おう、よろしくな!」


すると、紗羅はきょとんとした表情で、


「…………ちゃんと聞いた? あんたのその平素な態度には少し引くかも」


今の会話の何処に問題があった? ホント腹立つなこの女。


「なんでだよ? ったく、あれだろ? 自分がブラックリストだから素性を明かすのは気が進まないってことだろ? ほら、苗字に無ってあったじゃん。推測だけど俺が嫌悪感を抱くとか思ったんだろ?」


「中々の洞察力ね。でも正確には、もう一つあるけどね。頭文字がそう」


「夜も駄目なのか……」


「でもね。私も含めて嫌われる運命なのよ。普通追放されちゃうんだけど、私は高位だからセーフらしいよ。険悪な雰囲気とか視線は四六時中感じるけどね」


意外と厳重だな。第一それで人間価値を決めるなんて可笑しな話だ。でも魔装世界(ここ)では常識な判断らしい。なら、一応伝えておこう。


「安心しろ。俺はお前のことを蔑む非道な言動はしねえよ。そんな奴がいたらぶっ飛ばす勢いだ」


随分と高々に宣言しちまったが、紛れもない本心から出たものだ。恐らく紗羅はコンプレックスを抱いているのだろう。


なら、支えてやるべきだ。


この世界のことなんて微塵も知らないし、金もなければ特別な力もない。所詮脇役、役立つとは到底思えない。


そんな俺が、彼女の右手となることは可能だろうか?


その答えは紗羅の顔が物語っている。俺でなくとも言える簡単な励ましを、全く関係のない俺が囁いた慈悲の言葉を、こんなにも素直に受け止めて、ぼろぼろと涙を流しているのだから。


「大袈裟だな、泣くなよ」


まさか泣くとは思わなんだ。意外と根は純粋で温厚かもな。そしてかなり脆弱だ。心配になるくらい。緻密すぎるからこそ僅かな反動に弱いのだろう。


「な、泣いてなんかないし!」


「説得力ねえよ。せめて涙拭いてから虚勢は張れ」


「うっさい!! デリカシーってもんを考えろ!」


「じゃあ抱きしめてやろうか?」


「〜〜〜〜〜〜!! ホントきもい! 死ね! 変態!」


相変わらず口は誠実だな。こうじゃないと物足りないから、これくらい辛口の方がいい。


「…………ありがとう」


「え? なに?」


「んーん、何でもない」


紗羅がぽそりと呟いた感謝を俺は聞聴き取ることが出来なかった。


俺にとっての初めての感謝は音も気配もなく、静かに姿を消した。


ーーこれでよかったかもしれない。もし聴いていたら彼女を裏切ることになっていたから。

































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